第十五話 『夜間哨戒』
夜の九時にハル達は夜間哨戒のための準備を始めた。前回のように襲撃があることも十分考えられるため、軍用輸送車には訓練生用のフレームと武装も積み込まれる。
今回も研修生は二つのグループに分けられ、ハルは再びリオとペアを組むことになった。二人の指導及び監督は守備部隊の隊長であるトウイチが務めることになった。
前回の巡回では海沿いのルートを通ったので、今回は反対の山沿いのルートを進む。今回の巡回では、防衛都市の各地に設けられている観測所も一通り回ることになった。
ハルは助手席に座っているトウイチの指示に従って運転し、リオは後部座席でレーダーのディスプレイを見ていた。
本部の建物が見えなくなったところで、トウイチはハルに話しかける。
「サツキから昼間のことは聞いた。大変だったそうだな」
「ええ……、まさかあんな考え方を持っている人がいるとは、思いませんでした」
「あの団体の関係者は何かあると思い出したようにここへ来るんだ。そして現実離れした理想主義的な主張を振りまいていく。つまり、我々を相手にして自己満足しているだけなのさ。だから連中のことは適当にあしらっておけばいい……、そこの角を左に曲がってくれ」
ハルは指示された通りにハンドルを切る。車は山の斜面に沿った細長い坂道を上った。街灯の明かりはどれも消えているので、ハルは慎重に運転する。レーダーのディスプレイを見ていたリオは、不安そうにトウイチに尋ねた。
「あの、隊長さん。この道でいいんですか? この先にあるのは、手狭な住宅地だけですよ」
「かまわない。君達に見せておきたいものが、そこにあるんだ。……そうそう、昼間のことだが、サツキが君のことをほめていたぞ」
「サツキさんが、僕のことを?」
「ああ。この戦いのことや国防軍のことについて、理屈屁理屈を混同したようなことを言われても、しっかりと受け答えができていたと言っていた。サツキが他人のことにふれるのはそうあることじゃないから、少し驚いた。君は彼女と仲が良いのか?」
「よく、わかりません。ただ、サツキさんにはもう二回も助けられましたし、実戦訓練の相手もして頂きましたし、その……、本当によく、面倒を見て下さっています」
「なるほどな。あまり詳しくは話せないが、様々な過去や事情があって彼女はここにいる。客観的に言って、彼女の人生はそれほど幸せなものとは言えないんだ」
ハルはうなずきつつ、不思議に思った。
トウイチの話しぶりからするに、サツキが自分の過去をハルに話したことを彼は知らないらしい。
なぜサツキは、そのことをトウイチに話していないのだろうか。
そしてなぜ、サツキはハルに自分の過去を話したのだろうか。
「もし君さえよければ、彼女と仲良くしてやってほしい。軍に属してから彼女にはそういう関係になれる相手がいなかったから、これはいい機会だと私は思っている」
「その、僕でいいのなら、できる限りがんばります」
「なんか隊長さんって、教官さんの保護者みたいですね」
リオは意識的に明るい口調で言う。
「副隊長さんもそんな感じでしたけど、みなさんってどういう間柄なんですか?」
「あえて言うなら、戦友といったところだろう。五年前の動乱から、私とあの二人はずっと二○九にいる。他の隊員は一年以内に四国や中国地方へ転属していくから、そういうつながりを意識するのは難しいのかもしれないな。しかし、保護者か。……まあ、間違いではないな」
トウイチは最後の言葉を、誰に聞かせるでもないひとり言のように言った。




