第十二話 『語られる理想は素晴らしく』
婦人は確信に満ちた眼差しをサツキにむける。
「連合は『解放軍』なるものを組織し西日本と対抗していますが、その目的はあくまでも自衛であると私共は考えています。しかし国防軍は、東日本を制圧し日本を再統一することを目的にしていると宣言しています。これでは東日本との対話の余地など生まれません。もし仮に、西日本が東日本を制圧できたとして、それで本当に戦いは終わるのでしょうか。平和的な解決とは言えない以上、彼らの抵抗は続くと考えられます。ですので、この問題を解決するにあたっては、軍事力ではなく対話、交渉こそが必要となるのです」
婦人はシュウのほうを見る。シュウはどうでもいいというふうに大きくあくびをしていた。
婦人は小さく咳ばらいをすると、ハルのほうを見る。
「東日本と西日本の戦いを終わらせるにあたり、本当に必要なものは何でしょう。軍事力ですか、それとも対話ですか。あなたはどうお考えですか?」
ハルは婦人が求める答えが何なのか気づいていた。
婦人の意見に賛成できるところもあったが、完全に同意することはできない。
婦人が話したことはあまりにも現実が見えていない、バカげた理想論に過ぎなかったからだ。
「僕は、軍事力だと思います。それがないと自分達の身を守ることもできませんし、相手も力のない者の言うことを聞いてくれるとは思えない。相手の方が強い力を持っていたら、こちらにとって不利になる条件をどんどん押し付けられて対話が進められてしまう。対等に対話をするのなら、軍事力は必ず必要になるはずです」
「なるほど。あなたの意見はもっともです。ですが、その果てには何があるでしょう。力を背景に対話を有利に進められるとしたら、両方がただひたすら力を求めるだけになってしまいます。そうして力ばかりが膨らみ続けると、対話への道はますます遠ざかってしまうでしょう。そうは思いませんか?」
「じゃあ、対話のためには軍事力はいらないんですか? 国防軍も必要ないんですか?」
そうです、と婦人はうなずいた。
ハルは気味の悪い寒気を感じながら、婦人に言う。
「もし国防軍が解体された後で連合が攻めてきたら、どうやって西日本を守るんですか?」
「私共はそのようなことは起こらないと考えています。こちらから武器をおさめ、歩み寄りと対話の姿勢を見せれば、彼らは必ずこたえてくれるでしょう」
「そう思える根拠は何ですか」
「人を信じるのに具体的な根拠は必要ではありません。いかなる根拠も否定しようと思えば否定できてしまいます。私達のなすべきことは、信じるべきことを信じることなのです」
「そうやって相手を信じて、裏切られたら、誰がどう責任をとるんですか」
「先ほども言いました通り、そのようなことは起こらないと考えていますし信じています。ですので、起こりようのないことについて責任をとることは、できかねます」
「……無茶苦茶だ」
「いいえ。むしろ力だけで問題を解決しようとする方が無茶苦茶なのです。いいですか、私達と彼らは同じ国に生まれ、同じ国で育ち、同じ言葉を話せる同じ人間なのです。対話による解決の可能性を捨てるべきではないのですよ」
出来の悪い生徒を説諭するように、婦人は誠実な口調でハルに語りかける。
この人には何を言っても無駄なんだろうとハルが思った時、サツキが口を開いた。
「そこまで言うのなら、あなた達が連合の指導部と話し合えばいいんじゃないかな」




