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落日の国  作者: 青山 樹
第二章 『国防軍』
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第七話 『正しい力』

 訓練場は本部から歩いて十分ほどの場所にあった。

 もとは小学校として使われていたが、五年前の動乱のあと国防軍によって接収され、以降はフレーム操作のための訓練場として利用されている。

 学校だった頃の名残を示すように、グラウンドの周辺にはペンキの禿げたジャングルジムやブランコ、すべり台や砂場といった遊具の姿が見えた。


 ハルとリオは校舎に入り、職員室を改装してつくられた整備室へ向かった。

 整備室には何機かの訓練生用のフレームが腕部と脚部を展開した状態で格納されていて、部屋のいたる所にはフレームを調整するための機材が設置されていた。

 リオはハルの体格に合ったフレームを選び、調整用の携帯端末を取り出してフレームに接続し、内蔵されているAIのデータの初期化とハルの個人データの移植を行う。

 その間にハルは更衣室でフレーム用のインナースーツに着替え、フレームに動作を読み取らせるためのセンサーを体の各部に取り付けた。


 一通りの準備が済み、ハルは整備室へ戻る。リオはまだ端末をにらみ、作業を続けていた。


「まだかかりそう?」


 ハルが尋ねると、リオはうんざりした表情を浮かべる。


「前にこの機体を使ってた人のデータが残ってたの。おかげで初期化に時間がかかっちゃってね、今はハルのデータを入れてるとこ。まったく、後で使う人のことも考えてほしいよ」


「だから言ったじゃないか。リオが防衛学校で調整してくれたフレームを持って行こうって」


「それはイヤ。だって訓練の相手が教官さんなんでしょ。一方的にやられるにきまってるじゃない。せっかく苦労してハルにシンクロするよう調整したのに、壊れたらどうするの」


「まあ、その気持ちはわからないでもないけどさ。でも、モノには使い時があるでしょ」


「そんなの言われなくてもわかってるって。だから今回は使い時じゃないって判断したの。ほら、脳波のデータをとるから、これをつけて」


 リオはフレームの使用者の意識とフレームの機動系統を連結するための装置であるリング状のデバイスを渡す。ハルはデバイスを受け取り、頭に装着した。

 ほどなくしてデバイスは淡い虹色の光を放ちはじめた。

 リオは携帯端末をフレームのバックパックにある機動中枢部に接続する。


 特にすることもなくなり、ハルはリオに話しかける。


「もうそろそろAIがフレームを動かせるようになってもいいんじゃないかな。そうなれば人間が戦場で戦わなくても大丈夫だと思うんだけど」


「……いちおう、そういう研究はされているみたいだよ。でも、実戦で使える段階には到達できてないみたい。まだ、いくつかの単純なプログラムしか実行できないらしいから」


「ふうん。リオはそっち方面の研究はしないの?」


「うーん……、まあ、あんまりやりたくないかなぁ。だって、人間が装備するのと同じくらいの操作性をAIが発揮できるようになったら、いよいよこの戦争は悲惨なことになっちゃうもん。フレームは正真正銘の殺戮ロボットになり果てて、しかもそれが、もしも自分達に反乱しちゃったら大変なことになるじゃん」


「大昔のSFみたいだね」


「だから今のままでいいんだよ。AIはあくまでも人間のサポート機能だけに集中して、動きの主体は人間が担う。なんでもかんでも機械任せにしたら、人間の存在意義がなくなっちゃうって…………、よし、データの処理、終了っと。それじゃハル、フレームを装備してみて」


 ハルは胸部と腹部、そして腰に機械の装甲を装着する。

 格納されているフレームに自分の体を重ね、両手両足に機械の装甲を装着し、胴体の装甲とバックパックを連結させた。

 ハルは自分の体とフレームをなじませるように、ゆっくりと手足を動かす。


「調子はどう?」


「うん、いい感じだと思う」


 ハルは宙返りをして、ほとんど音を立てずに着地する。

 しかしリオは不満そうに言った。


「うーん、でもやっぱりぎこちないなぁ。ここの設備じゃ、これが限界ってとこだね。本部にもっといい設備があるかどうか、後でキョウカさんに聞いとかないと」


 ハルはフレームの手の指を動かし細かな動作の確認をしながら、思いついたように言う。


「それにしても、皮肉な話だよね。もともとは医療や介護、土木作業に活用するための技術だったのに、軍事に転用されるなんてさ」


「しょうがないよ。それが科学技術の宿命なんだから」


 リオはそう言いながら、調整に使った機材をかたづける。


「それにこういうことは何も科学技術に限ったことじゃないよ。古くは宗教から、学問、社会制度、国家体制、そして人間そのものにも言えることだから。どんなものにだって人間に利益をもたらす可能性もあれば、人間に害をなす危険性もある。だからこそ私達は私達が持っている力を正しく理解して、その使い方を見極めなくちゃいけないんだよ」


「それってたしか、防衛学校の教官が言ってた言葉だよね。なんか、懐かしいな。僕達が卒業してから、まだ二か月もたっていないのに」


「そうだね……。ねえ、ハル。私はね、この言葉を信じてるよ。だから技術士官を目指しているの。私達の力が、私達を幸せにする。そんな当たり前のことが、当たり前になるように」


 リオは得意げな笑みを浮かべる。

 ハルの顔にも、自然と笑みが浮かんだ。

 自分が信じる理想をまっすぐに目指す彼女の笑顔に、ハルはこれまで何度も励まされてきのだ。

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