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落日の国  作者: 青山 樹
第二章 『国防軍』
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第四話 『仲間』

 サツキがいなくなったあと、ハルは彼女に礼を言うべきかどうかをぼんやりと考える。

 さっきの言葉は純粋に自分を思いやっての言葉だろう。それにハルは二度もサツキに助けられている。

 彼女がどんな思考で動いているかはわからないが、自分を気遣うように行動しているのは事実だ。


 しかしハルはどうしても、サツキに感謝の言葉を述べようとは思えなかった。

 彼女が人間を殺し、それを目の前で見たということも、また事実だったからだ。


 ハルは仰向けになってベッドに倒れ、ぼんやりと天井を眺める。

 どこからが天井なのかわからないほど、医務室はすっかり暗くなっていた。


 サツキがここを出てからしばらくした頃、キョウカがハルの夕食を持ってやって来た。

 彼女は部屋の明かりをつけ、食事をのせたトレーをベッドに備え付けられているテーブルに置き、椅子を持ってきてハルのそばに座った。


「調子はどう? 少しはよくなった?」


「はい、おかげさまで……。お手数をかけて、すいません。でも、キョウカさんはここにいて大丈夫なんですか。他の守備部隊と共同で特別警戒にあたっているって聞きましたけど」


「大丈夫。敵軍の侵攻を受けたわけじゃないし、内部の警戒レベルを一時的に引き上げるだけで十分だから。それより、食欲はある? お粥だけど、つくってきたの」


「ありがとうございます。いただきます」


 ハルは体を起こし、食事をとる。食欲はなかったが、痛みを感じるほどに腹は減っていた。


「ハル君が倒れた後のことなんだけど、サツキから大体のことは聞いたかしら」


「はい。その、すいません。大変な時に、倒れちゃって」


「気にしないで。誰だってあんな場面に遭遇すればそうなるもの。それより、あなたの口から直接確認しておきたいことがあるの。あの時、シュウ君が言ってたことなんだけど、本当のことなの?」


 ハルは食事の手を止め、キョウカと向き合い、本当ですと言った。


「僕は五年前の動乱で行方不明になった家族に会うため、国防軍に入りました。東日本に一番近い場所にいれば、いつか会えるかもしれないと思ったんです」


 キョウカは「そう」と言った後、落ち着いた口調で話す。


「じつを言うと、あなたの個人情報は防衛学校からこちらへ全部引き継がれているの。だから私はあなたの家族構成を知っているし、どんな動きがあったのかも把握している。だからもしかしたら、あなたがそういう目的でここにいるかもしれないと、考えてはいたの」


 彼女が自分をとがめているのか、それとも諭しているのか、ハルには判断できなかった。


「でも、誤解はしないで。そのことであなたを警戒したりはしないから。というか、そういう理由で国防軍に志願する人は少なからずいるものなのよ」


「本当ですか?」


 ええ、とキョウカはうなずく。


「でもこれだけは覚えておいて。理由はどうあれ、あなたは国防軍に所属しているし、その立場と、責任と、義務を自覚しなければいけない。だからもし、戦場であなたの家族が私達の敵として現れたら、私はためらうことなく戦うし、あなたも戦わなければならない。戦場においては家族というつながりより、敵味方の区別のほうが優先されるの」


 はい、とハルはうなずく。

 もちろん、うなずく以外の選択肢は彼にはない。


「……本当に、嫌な時代ね。下手をすれば家族同士で殺しあうことになるのだから。それでも私達は戦うべき時は戦わなければいけないの。守るべきものを、守るために」


 キョウカは小さく息を吐き、軽く頭を振る。


「ところで、リオさんとシュウ君のことは聞いている?」


「いいえ。あの二人が、どうかしましたか?」


「その、死体の処理が済んだ後に、少しけんかをしたそうなの。ハル君が大変な目に合ったのはシュウ君が秘密をばらしたからだって、リオさんが殴りかかったらしいわ。一緒にいたヒカル君とフタバさんがすぐ止めに入って、サツキは上官権限で二人を不問ということにしたそうだけど。こういうことは軍紀違反に問われるかもしれないから、ハル君も気をつけて」


「わかりました。リオもシュウのことなんか、ほっておけばいいのに」


「仲間思いのいい子なのね、リオさんは」


 はい、とハルはうなずいた。

 僅かばかりだが、その顔には普段通りのおだやかな表情が浮かんでいた。

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