第十二話 『研修生』
日が落ちた頃に、ハル達は巡回を終えて本部へと戻った。
トウイチがいる指令室へ行き、巡回の経過と戦闘についての報告を済ませ、今日の任務は終了となった。
「では各自、食事と入浴をすませて十時までには就寝するように。明日は午前中から基礎訓練に参加してもらう。それに備えてしっかり休養をとりなさい」
解散の指示が出た後、ハルはトウイチにサツキがどこにいるのかを尋ねる。
「彼女なら哨戒を終えて本部に向かっている。もう少しすれば帰ってくるだろう」
「出迎えたいので、外で待機していてもよろしいでしょうか」
「門の内側までならかまわない。彼女に何か用でもあるのか」
「はい。どうしても、お尋ねしたいことがあるんです」
「そうか。あまりおかしなことは聞かないようにな。本人に会ったのならわかると思うが、彼女は少し、我々や君達と異なるところがある」
了解しました、とハルは答えて指令室を出た。
玄関ホールを出て正門へ向かって歩いていた時、ハルは少し離れた場所を歩いている人の姿を見た。
それは、ハルと同じ制服を着ている細身で長身の少年だった。
「シュウ。こんなところで何してるんだ」
ハルは声をかける。しかしシュウは反応しない。
たぶん聞こえないふりをしているのだろうとハルは思った。
「体調を崩して寝込んでたって聞いたよ。もう大丈夫なの?」
ハルはシュウのそばへ行く。
シュウはたった今ハルの存在を知ったというような顔をした。
「あ、ああ。少しはマシになった……。今はその、気分転換に外の空気にあたってたんだ」
シュウはきょろきょろと目線を泳がせながら、小さくつぶやくように言った。
それは、何かうしろめたいことがある時に彼がよくやる仕草だった。
「……なあ、ハル。どうせまた、仮病だって思ってるんだろ。でもさ、本当なんだよ。本当に頭が痛くて、吐きそうなくらいに、その、気分が悪くてさ……」
「安心して。誰もそんなこと思ってないから。そもそも、それどころじゃなかったし」
「そうだ、敵襲があったんだってな。本部も騒いでた……。俺だけそこにいなくて、運のいい奴だって、きっとお前らは悪態を」
「ついてないよ。まったく、シュウの中で僕らはどれだけひどい奴らになってるんだよ」
ハルは意識して明るい口調で言ったが、シュウの目には疑念の暗い影が見えていた。
今日の巡回に参加できなかった、あるいは参加しなかったことに、負い目を感じているのだろうか。
「俺だって本当は、こんなところに来たくなんかなかったんだ」
シュウは目線を落とし、忌々しそうに言う。
「参政権なんかいらないし、成人権だって別になくてもかまわない。最低限の暮らしができればそれでよかったのに……。くそっ、どうしてこんなところにいなくちゃいけないんだ!」
シュウは吐き捨てるように言う。
「なあ、ハル。そもそもどうしてお前が国防軍に入ったんだ。お前の家なら成人権くらいはどうにか買えるだろうに。やっぱり、あれか。いなくなった爺さんを探すためなのか?」
「大叔父だよ。そういえば、リオにそのことを話したそうだね」
「お、怒るなよ。誰にも言うなとは言ってなかったじゃないか。それにいつかは話さなきゃいけないことだし、それはお前だってわかってるだろ」
シュウが弁解の言葉を並べている時、正門の向こう側から車の走る音が聞こえてきた。
何人かの隊員が正門へ向かい、門を開く。どうやらサツキが哨戒から戻ってきたらしい。
「なんだ、なんだ。とにかく、面倒ごとに巻き込まれないよう宿舎に戻ったほうがいいな」
シュウはこの場から離れようと動く。一方で、ハルは正門へ向かった。
門の手前で止まったのは、サツキが帰るために残しておいた軍用輸送車だったからだ。
「おい、ハル。何してんだ。早くもどるぞ、おい」
「シュウは先にもどってて。僕は、あの人に用があるから」
「……わかったよ。面倒ごとは起こすなよ。起こしても俺だけは巻き込まないでくれよ」
シュウはハルを一瞥し、本部の建物の奥にある宿舎へ向かって走り出した。




