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灯り泣く

作者: HM

短いですがどうぞよろしくお願いします。

ある者は語る


あれはいつの頃だったか、私は道を歩いていた。

何のために道を歩いていたか、どこを目指して歩いていたのかは

思い出すことはできないが、とにかく道を歩いていたのだよ。

暗い、とても暗い道だった、先が見えないほどにね。

ただ複数の街灯が一定の距離を置いて並んでいて、それらの街灯の下のだけが

明るく照らされていてね。

時折、後ろを振り返っては進んできた道の転々とした灯りの列を見て自分が前へと

進めていることを確認しながら私はその灯りとそれに照らされている道を頼りに

歩いていた、歩き続けていた。

そうしてただひたすら歩いてどれぐらいの時間がたったか、

歩き疲れた私はいくつもある街灯の一つ、その下で足を休めることにした。

私は足を休める中、ふと進むべき道の先を見ると、今までのように等間隔で

続いていたはずの街灯の間がやけに長い場所があることに気が付いた。

休んでいたその時の私は、ああ街灯が切れてしまっているのだろう、

足元も見えない暗い道だし、次の灯りまでの距離が今までよりも長そうだ、

転ばないように歩く速度を緩めるか、程度くらいに考えていた。

休み終えた私は再び道を歩き始めることにした。

先ほどまで考えていた通りにいつもよりゆっくりと。

歩き始めたころは街灯が自分の後ろを照らしていて暗闇の中でもわずかながらに

自分の影を目にすることが出来ていたが、

明かりから遠ざかるにつれて次第に見ることは出来なくなっていった。

私は完全な暗闇と一つになっていた。私はどこにいる?

自分の体が、足元が全く見えない。自分の立っている場所、道が見えないのだ。

もちろんそこには見えていないだけで自分の体は存在しているし、

自分は道に立っている。だが、目にすることが出来ない、

それがたまらなく私を不安にした。

私は自分が暗闇に居続けることが耐えられなくなり、歩を早めることにした。

そうして本来であるならば一定間隔で並んでいるはずの街灯がある場所に、

次の灯りまであと半分ほどのところまで私はたどり着いた。

その時ふと、声が聞こえてきた気がした。

気のせいだ。

私は不安を振り払うために今までのように後ろを振りかえり自分の進んできた道を

再確認しようとした。

振り返った私の目には暗闇しか見えなかった。

だが、声が、声が聞こえた。私のすぐ傍で。

「私は誰だ?」

私は一目散に駆け出した。

転ぶことも気にせずにただひたすら先に見える灯りを求めて。

暗闇の中走る私に纏わりつくようにその声は再び私に尋ねてくる。

「私は何者か?」

わかるものか!

ただ分かる事は声の主がいるこの暗闇に居続けるのは良くないという事だけだ。

灯りにたどり着けさえ、たどり着けさえすれば、

そんな確証を得られない思いを頼りにただひたすら私は駆けた。

まとわりつく暗闇を、そこに潜んでいるであろう声の主を振り払うようにして

私はやっと灯りの下にたどり着いた。

そこで息を落ち着かせながら、もう大丈夫だろう、そう思った。

「私は何だ?」

またすぐ傍で声がした。あたりを見回しても灯りの下にいるのは私だけ、

声の主の姿は見えない。

なのに、なのに声が聞こえた。声が私に問いかけてくるのだ。

知らない!わからない!

再び私は駆けた。次の灯りへと。

そうしていくつもの暗闇と灯りを通り過ぎても声が止むことは無かった。

問いに答えれば、この声は止むのか?

この声の主はいなくなってくれるのか?

いいや、そんなはずはない。答えれば、何か恐ろしい目に合うにきまっている。

逃げ続ければいつの日かこの声は聞こえなくなる、声の主はいなくなる。

私はそう結論付けた。

そうして私は灯りと暗闇の中を逃げ続けることになった。

どれほど逃げたか、どれほど時間が過ぎたかはもう思い出せないが、

とにかく逃げ続けたのだよ。

そしてやっと声が聞こえなくなったのだ!

私のそばから声の主がいなくなったのだろう。

いつの間にか灯りは見えず暗闇しかない道に迷い込んでしまったが、

もう声もしない、声の主の存在を感じることもない。もう安心だ。

そうして私は逃げることをやめ、また歩き続けることにしたのだよ。

以上が私の話だ。

ところで一つ尋ねたいのだが、

「私は誰かな?」


そう問いかけてくるその者には顔がなかった


お読みいただきありがとうございました。

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