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着のみ着のまま転生記  作者: 名波 和輝
14 セートの日常(?)
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14.9 魔水晶売りの冒険者 Ⅱ


 メイさんが出してくれたお茶を飲みながら、数十分待っていると、俺達のいる応接室の扉が勢いよく開いた。


「ケン!お待たせしてしまい、申し訳ありません。会議が長引いてしまったもので」


「いや、俺の方こそ、連絡もせずにいきなり来てすまない」


「ケンが私に会うのに連絡なんていりません。気の向くままに会いたい時に来てくだされば、私は嬉しいのです。あっ、カレンもいらしてたのですね」


「はい。お久しぶりですね、メアリーさん」


「それで、ケン、今回はどんなご用件でしょう?」


 こちらが話を振る前に、今回の用件を聞くメアリー。


 それはまるで、用がない時に俺はメアリーに会いに来ないと言われているようだった。確かに、(あなが)ち間違いでもないので、俺は少し罪悪感を感じる。


 メアリーはそんな嫌味を込めてそう言ったわけではないと思うが、今度からはもっと頻繁に訪れるとしよう。


「相変わらず話が早くて助かる。まあ、と言っても今回はメアリーにどうこうして貰おうって話でもないんだがな」


「あら?そうなのですか?」


「ああ、今回は現状報告の意味合いが強いな。一緒に冒険してはいないとは言え、メアリーは仲間だ。それなら俺達の様子を逐次(ちくじ)報告しておくべきだろうと思ってな」


「そこまで想っていただけているなんて嬉しいです。では、その話は私の部屋でいたしましょう」


 メアリーに(うなが)されるまま、俺達はメアリーの部屋へと移動した。


 そして俺は、金儲けの為にセートへ向かったこと、そこでゲオルクの作る人型キメラを倒したこと、帝都で採掘した魔水晶を売ろうとしていることなんかを話した。


「なるほど、私と会っていなかった2ヵ月程の間にそんなことがあったのですね」


「ああ。ところで、『七つの大罪』って知っているか?」


「『七つの大罪』…、ですか?」


「メアリーは知らないのか。カレンはどうだ?」


「私も聞いたことはありません」


「なるほどな」


 エウロメ帝国とエーシャア王国、両国の人間でも知らない言葉のようだな。


 元の世界であれば、創作物で頻繁に使われる割とポピュラーな言葉なんだが、こっちの世界にはない言葉なんだろう。


「ケン、その『七つの大罪』とは何なのでしょう?」


「人間が犯す様々な罪の原因になると考えられている7つの罪のことでな、罪と言っても人間の欲望や感情のことなんだ」


「そんな考え方があるのですね。ちなみに、7つの罪とはどのようなものでしょう?」


「『傲慢』、『強欲』、『嫉妬』、『憤怒』、『色欲』、『暴食』、『怠惰』の7つだな」


「『憤怒』に『怠惰』!もしかして…」


 メアリーは何かを察したように、そう声をあげた。チラリと目線を送るとカレンも同様に何かに気付いているようだった。この2人は察しが良いな。


「ああ、ゲオルクのキメラの名前に一致するんだ」


「つまり、私達の考えが正しければゲオルクは強大な力を持つキメラを残り5体保有しているということになりますね」


「俺もメアリーと同様の考えだ」


「それは警戒しなければなりませんね」


「そうだな。まあ、ゲオルクの狙い的にはそのキメラは俺と戦わせたいようだから、メアリーや帝都に直接的な被害を与えるようなことはほとんどないと思うが、こうして俺が帝都を訪れているといずれ巻き込んでしまうかも知れないからな。もし、巻き込んでしまったら申し訳ない」


「問題ないですよ。将来的にはケンの国ですからね」


「ん?…あっ!いや、違うからな」


 随分(ずいぶん)と遠回りな求婚に、一瞬理解が遅れながらも俺は軽く否定しておく。


「あら、残念です」


「それと話しておきたいことと言えば、魔水晶の売買の件なんだが、帝都で俺達が売っても構わないか?」


 話が変な方向に行きそうだったので、俺はもう1つの話題である魔水晶の売買の件に話をずらした。


「別に私に許可を取る必要はありませんよ。ケンの好きなように売ってください」


「いや、ほら、俺達の拠点って今は王国にあるからさ、俺達が帝都の商売で稼いだ金を王国で使っちゃうと、間接的に帝国の資金を王国に渡すことになるだろ?それって大丈夫なのか?」


「ええ、特に問題はありません。確かに資金面で見れば王国が力をつけることになりますが、資源の面で見れば帝国が力をつけることになりますから、均衡は保たれるでしょう」


「ああ、そう言われればそうだな」


「それに、帝都に運ばれる魔水晶の量が増えれば、魔水晶を用いた研究も発展するでしょうし、そうなれば、失った資金以上の利益を生むことになりますからね」


「確かにな」


 俺の浅はかな考えなど、メアリーの頭の中では考慮し()くされていたようで、メアリーの正しい言葉に俺はただただ(うなず)くだけだった。


「まあ、今のは仮に戦争が起こったらの話ですけどね。お父様もそうならないように考えていますし、表面上の均衡さえ保てていれば戦争にはならないでしょう」


「なるほど。そう言う事なら、早速今日からでも商談に(のぞ)むかな」


「ちなみに、ケンはどれくらいで魔水晶を売るおつもりですか?」


「王都の魔水晶取引き相場の半分くらいだな」


 俺の発言にメアリーの目が大きく開かれた。ような気がする。


「ケン」


「はい」


 静かなメアリーの言葉に俺は返事をする。何か不味いのか?


「その商談、私といたしませんか?」


「どういうことだ?」


「その価格は安過ぎます。王国の魔水晶取引相場の半分と言うことは、帝都でのセート産魔水晶取引相場の1/6程度ということです。その価格で取引きされたら、帝国と王国の力関係が露骨(ろこつ)に崩れてしまいます。もし、ブリリアント元宰相のような方がいたら、即刻(そっこく)戦争に繋がりますよ」


 ブリリアント元宰相?あ、いたなそんな奴。


 金儲けの為に帝国を乗っ取ろうとした挙句(あげく)、カレンに燃やされて火達磨(ひだるま)になった奴が。


「言いたいことはわかったが、それがなんでメアリーと取引きすることになるんだ?」


「私が国のお金で買い取ったものを国民に売ります」


「なんでわざわざメアリーを通すんだ?俺が相場に合うような価格設定にして直接売るだけじゃダメなのか?」


「ええ、これは主に私、と言うよりは帝国に利益がある話になってしまうのですが、国がセート産の魔水晶の売買の手綱(たづな)を握ることで、帝国の財政が安定化し、帝都の経済をある程度 意のままに動かせると踏んでいるのです」


「つまり、どういうことだ?」


「そうですね。ここからの話を具体的にするためには、帝国の現状からお話する必要があるのですが、大丈夫でしょうか?興味のない方にとっては聞いてもつまらないだけになってしまうのですが」


「俺は聞きたいぐらいだが、カレンはどうだ?」


「はい、私も聞きたいです」


 俺がカチュウさんの家に行った時について来るほどにカレンは勉強熱心だからな。聞きたいと言うと思った。


 逆に、きっとここにジンがいたら、「オレには難しそうな話だね。ちょっと街の方をぶらぶらしてるよ」なんて言って立ち去ってしまうのだろう。


 まあ、興味がないのならその行動は正しい。


 ただ、俺達で採掘した魔水晶を帝国に売ることで帝国に大きな利益が出るってことだけ知っていれば良い。


 それと、メアリーのことだから俺達にも個人的に売るよりも利益が出るようにしてくれるだろうし、おそらくwin-winの関係になる、そんなことぐらいを覚えておけば良いだろう。


「カレンもこう言っているし気にせず話してくれ。もちろん言えないことは言わなくても良いけどな」


「わかりました。では、早速帝国の現状からお話いたしましょう。帝国では、公共事業費と研究補助費の2つが大きな予算の使い道として挙げられます。これは帝国の技術発展を推進することを第1に考えているためです」


「なるほどな。ところで、帝国の予算って他にはどんなことに使われているんだ?俺はその辺さっぱりだから、公共事業と研究補助に大部分が使われていると言われても、逆に何に力を入れていないかがわからないんだよな」


「そうですね。残りは王族関連費、防衛費、臨時用貯蓄ですね」


「主に5つということか。それぞれの使い道を教えてもらってもいいか?」


「もちろん良いですよ。では、公共事業費から順に説明いたしますね。公共事業費、これは街同士を繋ぐ道の整備や各街への兵舎の建築・補修など、国民達が建設を行わない施設を建設する為に使われる費用のことです。そして、研究補助費はその名の通り研究に必要となる物品や研究者達の賃金、報奨金などに使われます」


「なるほどな。研究補助費が帝国の技術発展になるのは理解できるんだが、公共事業費はなんで技術発展に繋がるんだ?研究棟の増築にも使われるからか?」


「いえ、研究棟の増築は研究補助費として使われるので違います」


「じゃあ、なんで公共事業費が技術発展に繋がるんだ?」


「公共事業の中でも主に道の整備が技術発展と関係するのです。帝国中の街が整備された道で繋がることで、帝国のありとあらゆる資源を帝都に集める事ができます。そして、あらゆる資源を帝都に集めることで、帝都の研究者達は様々な研究を行うことができる、と言った寸法です。また、帝都で生み出された技術も、帝都中の街に広めることができるのです」


「なるほどな。資源の集約と技術の拡散に一役買っているわけか、理解した。それで残りの予算の使われ方はどんな感じなんだ?」


「はい。王族関連費も名前からして明らかですが、私達の生活にかかる費用のことです。具体的に言うと、私達の食費や使用人達の給与、城の修繕費などですね。また、帝王が参加する式典や祭りなども王族関連費が使われていますね。次に防衛費なのですが、これは武器などを含む兵士達の装備の調達や帝都を囲う壁や砦の整備、兵士達の給与などに使われています」


「なるほどな。使用人の給与は王族関連費なのに、兵士達の給与は防衛費なんだな」


「ええ、同じ国からの給与でも予算上では別管理なので、調整には毎回手を焼いていますよ。これ以外にも似たような使われ方をされているのに、別管理の予算はあるのですよ。例えば、各街に置いてある兵舎の修繕は公共事業費で、城の修繕は王族関連費、砦は防衛費のように、建物の修繕という同じ目的でも予算はそれぞれで決められています」


「なんだそれ、面倒くさいな。兵舎も防衛費で良いような気がするが」


「防衛費は王国等に攻め入られた時に対抗するための設備に当てられる費用ですので、兵舎には使えないのですよ。兵舎は各街に兵士を配置することで、街の安全を守り、街で発生した異常を早期に発見することが目的ですので、どちらかというと帝国の治安維持が目的ですから」


「でも、兵舎にいる兵士の給与は防衛費なんだろ?」


「ええ、兵士は戦争の際の戦力として数えられていますので、防衛費から給与が支払われています」


「いちいち分けて考えるのは(だる)いな。それで、最後の臨時用貯蓄ってなんだ?まあ、臨時用の貯蓄なんだろうが、どういう時に使われるんだ?」


「災害時の復興に使われることが多いですね。他にも各種予算が足らなくなった時の補填(ほてん)にも当てられます。抽象的な言い方をするならば、予算決定時には使用するかどうかが決まっていなかったものに使われるのが臨時用貯蓄ですから。そのため、決算の時には復興費用とか具体的な名称になりますね」


「なるほどな。結局、使われなかったらどうなるんだ?」


「その場合は、貯蓄として決算が行われて、次の年の臨時用貯蓄に回されることになります」


「でも、あれだな。考えてみると、災害の復興くらいにしか臨時用貯蓄の使い道が思いつかないな。それ以外に何か使い道を考えてみても、防衛費とかに割り当たってしまうからな」


「そうですね。確かに、臨時用貯蓄は復興費用と言っても過言ではないくらい、復興以外に使われることは稀ですからね。あ、そう言えば、ケンがお父様を助けてくださった時の謝礼金は臨時用貯蓄から出ていますよ」


「そうなのか。考えてみれば、予算決定時には使われるかどうか決まっていなかったからな」


「その通りです。これで(おおむ)ね帝国の予算についての説明は終わったのですが、何か質問はありますか?」


「あー、俺は逐次質問していたから、大丈夫だ。カレンはどうだ?聞いていただけのようだったが」


「私も大丈夫です。知りたいことはケンさんが質問してくれたので」


「2人とも問題はないから、次の説明をしてくれないか?いよいよ本題である魔水晶の取引についてだな」


「ええ。国が魔水晶の取引の手綱を握ることで得られる利点として、まず最初に思いつくのは安定した予算の確保です」


「ああ、それは何となくわかっていたな。俺の売却金額が帝国の相場の1/6ということは、メアリー達がそれを買い取って相場で売り直せば、差額である5/6の分の金を得ることができるわけだからな」


「ええ、帝都では研究や魔法道具関連の分野で魔水晶が使用されています。しかも、近年では魔法水晶を研究材料とした研究が盛んに行われ、魔法道具も帝都の民の暮らしに根付いて来ていることもあり、帝都での魔水晶の取引額は年々増加の傾向があります。その魔水晶の取引を国が仕切ることで、安定した財源となるのは間違いないでしょう。しかし、今回の狙いはそれだけに留まりません」


「と、言うと?」


「帝都ではここ最近、魔法道具が定着している、と言うことを先程お話しましたが、そこが肝なのです。魔法道具の定着が進むとどのようなことが起こると思いますか?」


「そりゃ生活が楽になるな」


「ええ、その通りです。しかし、ここで大切なことは、人々の生活が楽になったならば、楽になる前は大変だったと言うことです」


「つまり、どう言うことだ?」


「魔法道具の普及が必ずしも全ての人の利益にはならない、と言うことですよ」


「ああ、なるほど、だいたい理解した。例えば、魔法道具で火を起こせるようになると、今まで火打石を販売していた人が困る、みたいなことだろ?」


「はい、そう言うことです。では、火打石の例で考えてみるとして、火打石よりも手早く火を起こせる魔法道具が開発されても、全員が全員、その魔法道具を買うわけではありません。何故だかわかりますか?」


「魔法道具は高いからだろう?日常的に火をあまり起こさない人からしてみれば、多少手間がかかっても安い火打石で充分だからな」


「そうですね。では、ここで魔水晶の取引を仕切っている国が魔水晶の価格を下げたら、どうなるでしょう?」


「魔水晶は魔法道具の材料だからな。材料費が安くなればそれだけ製品である魔法道具も安くなるだろうな。つまり、魔法道具が売れるようになるわけだ。そうなったら、火打石を売っている人達も価格を下げないと売れなくなるな」


「はい、そうです」


「それであれだろ?そうなると、火打石を売っている人達の得られる金が少なくなるから、その人達はお金を使われなくなる。そして、その人達が普段買っているものを買わなくなると、それを売っている人達も商品を安くする羽目になり、その人達も得られる金が少なくなって、お金を使わなくなる。そうやって何回も繰り返されて、社会全体がお金を使わなくなるわけだ。さらに言えば、それは逆も(しか)り、魔水晶の価格をあげれば、社会全体がお金を使うようになる。つまり、魔水晶の取引を国が担えば、景気の良し悪しを帝国がある程度左右できるわけだ」


 先程までは、メアリーの言いたいことが分からず、ただ質問に答えるだけの俺だったが、言いたいことさえわかってしまえば、説明するのは容易い。


 要はインフレ・デフレの話だ。こんなのは中学生でも説明できるな。


「ええ、景気の良し悪しを国が操作すること、それがもう1つの狙いです。まあ、実際には火打石では余りそのようなことにはならないですけどね。明らかに価格が違いますから、多少魔法道具の値が下がったところでほとんど影響は出ませんし、そもそも火打石自体、そこまで頻繁に売り買いされるようなものではありませんから。とは言え、魔法道具市場は日々成長を続けています。魔水晶の価格変動で経済に影響を与えるのは間違いないでしょう」


「それで、メアリーが魔水晶の取引をしたい理由はこんなところか?」


「ええ、まだ小さな理由はありますが、大きなものは今あげた2つですね」


「なるほどな。まあ、話を聞く限りだと、俺は帝都と取引しても良いと思うんだが、カレンはどうだ?」


「ええ、私も構いませんよ」


「よし、そう言うことだ、メアリー。俺達は帝都と取引をするよ。帝国とは友好な関係を築いておきたいしな」


「将来的にはケンの国ですものね」


 隙あらば、求婚を匂わせてくるメアリー。


「あー、うん。可能性は全くないわけじゃないしな」


 小難しい話で脳が疲れた俺は適当な返答しかできなかった。


「それと、カレン。私とケンばかりで話してしまってごめんなさい。退屈ではありませんでしたか?」


「いえ、とても勉強になりました。私は経済のことはさっぱりですから、2人の話は新鮮で面白かったです」


 カレンって勉強的な話結構好きだよな。


「それではケン、詳細はまた後日お話しましょう。大臣達とも話をしておかなければなりませんので」


「ああ、わかった。次は10日後くらいに来るつもりだから、その時にでも商談をしよう。じゃあ、今日はこれで」


 俺達はメアリーに別れを告げて、ヤポンへと帰った。


 王都を歩き回ったり、メアリーと小難しい話をしたりと今日は疲れたな。早めに寝るとしよう。

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