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着のみ着のまま転生記  作者: 名波 和輝
12 水晶の街・セート
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12.5 水晶の街


 さて、あのゴーレム討伐からはや5日が経った。


 その間も俺達の旅は順調に続き、今日やっと水晶の街セートに到着した。


 このセートは街の半分が洞窟の中にある。そう、この洞窟は1つの街が丸々入るような広いドーム状になっているのだ。


 元々、この地に住む人達が洞窟の中に家を建てたことがこの街の起源であり、魔水晶業が発展した結果、街が大きくなって宿屋や道具屋などの建物が洞窟の外に建造されたので現在のように半分が洞窟の外にあるような形になったそうだ。


 さて、到着早々、適当な宿屋を取った俺達は今セートを観光している。


 それと言うのも、カレンとウェンディ、アイリーンの女子3人が観光したいと言い出したためだ。俺としては早速魔水晶の採掘現場に行ってみたかったところではあるが、意見を尊重して今日は観光と相成った。


 実はこのセートの街は死ぬまでに1度は訪れたい観光地として有名である。何と言っても、洞窟内の街並みが美しいと評判なのだ。


 洞窟内と聞けば、暗く、閉塞(へいそく)感があり、ジメジメした場所を想像するが、ここは全然そんなことはない。


 木造建物物が整然と立ち並んだ落ち着いた雰囲気の街並みは古都京都を思わせるほどだ。また、道は石の地面に溝を掘り、まるで石畳のようになっている。その石畳の道の脇には等間隔で街灯(魔水晶を利用したものらしい)が設置されており、その光が天井や小川に残った小さな魔水晶をキラキラと光らせている。薄暗い中で様々な色の光が(ただよ)う様はとても幻想的で、この街の評判も納得の美しさだ。


 そんなわけで、この街、特に洞窟内のこの辺りはカップルが非常に多いのである。独り身には辛い空間だ。


 そうこう考えながら道を歩いていると、右足のふくらはぎに何かが当たった。


 その感触の正体を確かめようと俺が目を向けると、財布が落ちていた。


 どうやら今すれ違った人が財布を落としたらしい。


「すいません、財布、落とされましたよ!」


 俺はその財布を拾い、財布を落としたであろうコートを着た男性に声をかける。


「ん?あ、本当だ。ありがとう」


 振り向いた男性はそれなりに歳をとっているものの筋肉がついたその体格からは未だ若さが溢れていると、言ったような感じだった。見た目は42〜43歳ぐらいだけど多分本当は50歳くらいなんだろうな。つか、随分と高身長だな190cmはあるんじゃないか?


「いえ、落とし主がすぐにわかって、良かったです」


 俺はその男性に拾った財布を渡した。


「でも、おかしいな。ちゃんとここに入れていたはずなのだが」


 そう言って男性はコートについたポケットに手を突っ込んだ。


「あ、これはダメだ。底に大きな穴が空いてしまっている」


 男性はポケットの底から突き出た4本の指をピロピロと動かしながらそう言った。


「買い換えた方が良いかも知れませんね」


「そうだな。早速、今日にでも買い換えるとしよう。本当にありがとう、助かった」


「いえいえ、礼には及びませんよ」


 男性は俺に頭を下げて、去っていった。


「ケン!何してるの!?行くよ!」


 遠くからウェンディに呼ばれて、俺は振り返る。


「すまん!今行くよ」


 俺は4人のところへと駆け寄った。


―――


 数十分後、俺達は土産屋にいた。


 と言っても、俺とジンは早々に店内の物に一通り目を通してしまったので、店の入り口付近にある休憩所的な場所で適当に買った土産物を食べていた。


 一方女子達は、未だ土産を見ている。土産は食べ物だけじゃなく、置物や衣類とか色々種類があるからな。こりゃ当分時間がかかりそうだ。


「ん!これ美味しいね」


 ジンは饅頭(まんじゅう)を食べながらそう言った。


「セート饅頭って言うらしいな、それ」


 セート饅頭と言ってもただの饅頭に焼印が押してあるだけだ。押されている焼印のマークはセート産の魔水晶が出荷されてる箱に使われているものらしい。


「もう1箱買っておこうかな。そう言えば、ケンは何を買ったの?」


「これだよ、魔水晶飴」


 そう言って俺は(びん)を取り出す。中には魔水晶のような見た目の(あめ)が入っていた。


 様々な色をつけた大きな飴を適当な大きさに砕いて瓶詰めしているだけだろうなとは思ったが、1番セートの水晶の街っぽさが出ていたのでつい買ってしまった。


 ただ、この飴、ガラスを割ったような形状をしているため、口に入れると刺さったり切れたりするので、食べられたものじゃない。


 見た目のクオリティは100点なんだが、飴としては0点だぞ、これ。


「なんか食べたら、口の中血だらけになりそう」


「…」


 だよな、普通予想できるよな。


 当然のことに買ってから気付く自分のまぬけさに俺は少し悲しい気持ちになった。


「きゃー!!ひったくり!!」


 店の外からそんな声が聞こえてきたので、俺とジンは店の外へと出る。


 倒れた女性が指す方向には(かばん)を持って走る男が見える。その男はそのまま路地裏へと入っていった。


「ジン、行くぞ!」


「わかってる」


 そう言うと、ジンはあっという間に路地裏のところまで移動した。しかし、なぜだか路地裏に入ることなく、その場で立ち止まってしまった。


 俺はジンのところまで全力で走る。


「どうしたんだ?いきなり立ち止まって」


「いや、あれ見てよ」


 息を切らした俺がジンに促されるままに路地裏を見ると、ひったくりの男は宙に浮いていた。


 正しくは、大きな男性に頭を鷲掴(わしづか)みにされて、宙ぶらりんになっていた。


 片腕で人を持ち上げるってどんなパワーだよ…。


「って、あれ?あなたは…」


「ん?君はさっき私の財布を拾ってくれた少年ではないか」


 そう、穴の空いたコートを着て、財布を落としたあの男性だった。


「あの、その右手に持っている男ひったくりなんですけど」


「ああ、だから女物のカバンなんて持っていたのか。私にいきなりぶつかってきたと思ったら、そのまま刃物を取り出して襲いかかってきたのだよ。とりあえず、この外道が盗った鞄は持ち主に返さなければならないな」


「あ、俺返してきますよ」


「良いよ、ケン。オレが返してくるから」


 俺が鞄を受け取ろうとしたら、ジンが横から鞄を取って、そのまま路地から出て行ってしまった。


 そう言えば、盗まれた人、女の人だったな。そう言うことか、完全に理解した。


「それで、刃物を持った相手を簡単に取り押さえるなんて、あなたは何者ですか?あ、俺は柊健、緑階級冒険者です」


「私はミカヅキ・カチュウ、元紫階級冒険者で今は歴史研究家をしている」


 紫階級ってことはつまり俺より階級が3つ上ってことか。


 冒険者の階級は全部で9段階。白、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒の順に階級が上がっていく。


 そして、それぞれの階級になるのに必要なポイントは10のX乗で、Xにはそれぞれの階級の値が入る。つまり、第2階級の赤階級であれば10の2乗で100ポイント、第5階級の緑であれば10の5乗で10万ポイント、第8階級の紫であれば10の8乗で1億ポイントが必要になるわけだ。


 このことから分かるように、カチュウさんは現役時代に俺達の1000倍以上のポイントを集めていたことになる。当然、1億ものポイントを集めるためには、依頼1つ辺りの獲得ポイントが多い高難度依頼を達成していることになるので、その実力も確かだろう。


 されど、俺が気になったのは元紫階級冒険者ということではなかった。ミカヅキ・カチュウ、その名前に聞き覚えがあったのだ。


「あの、すいません。付かぬ事をお聞きしますが、『ゲオルク・フィッツロイ』という名をご存知ないですか?」


「ゲオルク?ああ、あの帝都の研究者か。昔、何回か依頼で同行したことがある。それで、彼がどうかしたのかね?私の記憶ではもうとっくに亡くなっていたと思うが」


 そう、俺はカチュウさんの名前を聞いていたのだ。メアリーからゲオルク・フィッツロイのことを教えてもらっていた、あの時に。


「実は今、彼に対しての情報を集めているんです。よろしければ、お話を聞かせ願えませんでしょうか?」


「私は構わないが、こんなところではなんだ、私の家にでも来るかね?」


「はい!よろしくお願いします。あ、ちょっと待っていてください。仲間に連絡だけしてくるんで」


「わかった。少し待っているとしよう」


 俺は路地裏から出て、ジン達にカチュウさんの家に行くことを伝えると、どうやらカレンはカチュウさんに興味があるらしく、俺についてくることになった。

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