11.11 マイちゃんは俺の嫁?
今回の話は魔法留学ということで、ニューランズ姉妹とカレンが帝都で活動し始めて早3週間が経った頃。
あの蟷螂男の事件から2週間、俺が帝都に顔を出してから1週間と言ったところ、これはそんなある日の話だ。
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帝都にいる女子3人とは違い、相も変わらずヤポンにいる俺とジンだが、最近少し変化があった。その変化とは、貰った家の方に住んでいるということだ。
それと言うのも、共用スペースの家具など、実際に住んでみて足りないことに気付くだろうと言う話になったためだ。
だから、住み始めたと言うものの、家具と呼べるものは、俺とジン、それぞれの部屋に1つずつ置かれたベッドだけである。
住んでみれば必要なものに気付くと言うこの目論見は意外と妙案だったらしく、買いたい家具リストに書かれた家具は日を増すごとに増えていった。
そして今日、順調な門出を見せているこの一軒家に1人の客が訪れた。そう、マイちゃんだ。
今朝、呼び鈴が鳴って玄関の扉を開けるとそこには涙を流したマイちゃんが立っていた。
いつも明るいマイちゃんが泣いているだなんて、余程のことがあったのだろうと思い、俺は家の中へと通した。
しかし、マイちゃんが家に上がってから早5分、一向に何も話すことはなかった。俺とジンも何も話すことはできず、3人はただひたすらに静かな空間で座っていた。
すると、突然、マイちゃんが口を開いた。
「ケン!」
「はい?」
俺の頭の中は疑問符でいっぱいだ。
「私と結婚しよう!」
すいません、流石にこれ以上の疑問符は供給過多なんですけど。
「すまん、話が見えない」
頭の中は疑問符だらけだったが、俺の心は動じてはいなかった。唐突な逆プロポーズとは言え、やはり2度目ともなると落ち着いて対応できるらしい。ありがとう、メアリー。
「えっとね、実は…」
マイちゃんの話を要約すると、こうだ。
マイちゃんは父であるケビンさんと口論になったそうだ。だから、この家に住みたいと言うのだ。
さて、この話を1億人が聞いたら、9999万9999人はなぜそれで結婚する話になるのか理解することはできないだろう。理解できる1人とはメアリーのことなので、当然俺は理解できていない。
何を言っているかわからない俺はジンの方を見る。ジンもまた俺の方を見ていた。
だよな、やはりこれで理解できるのはメアリーぐらいだよな。
「マイちゃん、今の話じゃ俺、理解できなかったからもうちょっと説明を貰っていいか?」
「え?だから、この家に住むでしょ?」
「うん」
「でも、みんなが冒険者として活動している中、私だけ何もしてない感じになるでしょ?」
「うん」
「それって罪悪感を感じるでしょ?」
「うん」
「ケンと結婚しちゃえば、罪悪感なくこの家に住めるでしょ?」
「ちょっとわかんない」
「それってさ、相手がオレじゃダメなのかな?」
「おい、ジン!話をややこしくするな!」
「じょ、冗談だよ」
そう笑いながら言うジンであったが、マイちゃんがOKしていたら、たぶんそのまま流れに乗ったんだろうな、こいつ。
「それで、マイちゃん。本当は?」
俺は「全部お見通しだぞ」みたいな雰囲気を醸し出してそう言った。
「お父さんに、婚約している人がいるって言っちゃった」
どう言う流れでそれを言う羽目になったのかはさっぱり見当もつかなかったが、そんなところだろうとは思っていた。
「マイちゃん。素直に謝りに行こう」
「えー、嫌だよ。あんなに大見得を切って出て行ったのに」
「問題は早めに解決するに限るって。俺も付き合ってあげるからさ」
「…ケンが付き合ってくれるなら、わかったよ」
マイちゃんは渋々承諾した。
―――
そんなわけで、俺とマイちゃんは宿屋トワイライトへの向かった。
「た、ただいま」
宿屋の裏口の扉をゆっくりと開けながら、マイちゃんは小声でそう言った。
マイちゃん続いて俺も宿屋の中へと入る。
次の瞬間、俺の身体は宿屋の外へと逆戻りしていた。
天才の俺でもその時は何が起きているのか理解できなかった。
ただ、左頬に激しい痛みを感じたと思ったら、宿屋の外へと吹き飛んでいたのだ。
「ケンくん、君がそんな人間だとは思っていなかったよ」
その言葉を発している真っ赤な顔のケビンさんを見て、ようやく俺の理解が追いつく。
あ、俺ケビンさんに殴られたのか。
100%ケビンさんの早とちりであることは、俺の中では明白であったが、俺の直感も反射神経も理解力も超越されたケビンさんの行動に驚いていた俺は、釈明のチャンスを逃してしまう。
「いや、これは…」
慌てて開いた俺の口からポトリと白い物が落ちる。
歯だ。
ケビンさんに殴られた衝撃で俺の歯が1本、折れてしまっていた。
「2人で話がしたい。ちょっと来てくれるね?」
一見すると問いかけられているような雰囲気を感じるが、状況からして俺にはYESの選択肢しかない。
ろくな釈明もできずに、俺はただケビンさんの後ろを付いていくことしかできなかった。
着いたのは、ケビンさんの部屋だった。
話がややこしくなる前に誤解を解いておきたかった俺は口を開く。
「あのですね…」
「ケンくん、私は何も君がマイと結婚することを反対しているわけではない。では、私が娘の結婚相手に求める条件はなんだと思うかね?」
うん、全然話を聞いてくれない。
仕方ないので、話に乗る。会話の中で釈明のチャンスを待とう。
「求める条件、ですか?」
「ああ、そうだ。もしかしたら、君の頭には財力や権力なんて言葉が浮かんでいるかも知れないが、それは違う。私はそんな物を求めてはいない」
俺には回答権すらないらしい。
いや、ダメだ。こう、頭に血が上っている人とまともに会話をしようとするから、うまくいかないんだ。
多少ピエロを演じてでも話を早く終わらせられる方を選ぶしかない。
「じゃあ、ケビンさんが求める条件とは何でしょうか?」
「それは娘を幸せにできることだよ。娘が幸せならば、私は言うことなどない。君は娘を幸せにできるのかい?」
俺の脳内では「娘が殴られて幸せと思うなら暴力的な男でも良いのか?」とか、「幸せにするためには財力や権力があった方が良いから、財力や権力も強ち間違いではないじゃないか?」とかが浮かんでくるも、話を早く終わらせるために、口に出したい気持ちをグッと堪える。
「ケビンさん、誤解なんです!」
「誤解?何が誤解なんだい?」
お、やっと俺の話を聞いてもらえるチャンスだ!
「実はマイちゃんに婚約者なんていないんです!」
「なんだって!?でも、あの時マイは…」
「それは、売り言葉に買い言葉みたいな感じで口から出まかせを言ってしまったんです!」
俺がやっとの思いで釈明をすると、まるでアルカリ性溶液に浸したリトマス試験紙のようにケビンさんの顔色が赤から青へと変わっていった。
「そ、それじゃあケンくんは…」
「1人で謝りに行けないって言っていたマイちゃんの付き添いです」
「も、ももも、申し訳ない!!」
それはそれは綺麗な土下座だった。
「ちょっ、大丈夫ですから、顔を上げてください」
「いや、本当に返す言葉もない。話も聞かず、いきなり殴って、歯まで折ってしまったのだから」
「大丈夫です、歯ぐらいすぐに治せますから。《タイムバックワード》」
俺は自分に魔術を使い、歯を元に戻した。
「いや、それでも早とちりをした私が全面的に悪い。ケンくんも1発、私を殴ってくれ!」
殴れるか!と内心ツッコミながら、俺はケビンさんをなだめた。
むしろ、殴ってくれと言うケビンさんを説得する方により時間がかかってしまったが、話は無事収まった。
その後、マイちゃんも交えて、口論の仲裁をし、今回の一件は事なきを得た。
―――
「じゃあ、俺は家に帰るから」
「え!ケン、帰っちゃうの?」
「まあ、口論も丸く収まったしな」
「そっか。今日はありがとね!」
マイちゃんは落ち込みながらも明るくそう言った。
「まあ、俺とマイちゃんの仲だからな。気にしなくて良いよ」
「本当にケンで良かったよ。他の人なら、お父さんが殴った時点で話がまとまらなくなっていたと思う!本当にかっこ良かったよ!」
「褒められると照れるな。まあ、ケビンさんには拾ってもらった恩もあったし、あれぐらいで怒れないってだけだけどな。じゃあ、ジンも待っていると思うし、そろそろ行くわ」
「うん!またね!」
俺は家へと帰った。




