11.8 入念な下準備
家を手に入れた翌日から、俺達の引っ越し作業は始まったが、そこで2つの問題が発生した。
ベッドを始めとした家具が足りないのだ。
今まで宿泊を宿屋で行ってきた俺達だ、家具なんかにお金を使うことなどないので、当然といえば当然だ。まあ、全員それなりにお金はあるので、後は買ってくるだけで揃えることはできると言うこともあって、こちらは大した問題ではないという話になった。
ちなみに、帝王からの謝礼金がまだたんまりと残っているカレンとジンは、みんなの家なんだからと家具を買うためのお金を出してくれるような提案をしてくれた。
だが、帝王を助けた当時パーティにいなかったウェンディとアイリーンは同情の余地があるにせよ、俺は自分の武器なんかにその時のお金を使ってしまってるので、そこで甘えるわけにはいかず遠慮した。
そして、もう1つの問題としては、家を管理してくれる人がいないことだ。
俺達は職業柄長期間家を開けることが多いし、その間にこの家を管理する人がいてくれれば、安心して旅ができるのだが、良い人に心当たりがないのである。
こう言った事情があり、未だ引っ越し自体はしていない俺達は、2つの問題のうちの片方を解消するために家具を買うと、結構なお金を持っていかれてしまうので、ひたすら依頼を受けて支出分のお金を稼ぐことにした。
だかしかし、俺は馬鹿ではない。より効率的に依頼を達成するためにも、準備にはしっかりと時間をかける。
そんなわけで、俺とカレン、ウェンディにアイリーンのジンを除いた魔法使える組は帝都にあるクリフさんの研究棟を訪れていた。
「クリフさん、お久しぶりです」
「お久しぶりですね、ケンさん。今日はどういったご用件で?」
「新しい仲間が増えたので、彼女達に合った魔法を覚えて貰いたいと考えているんですけど、俺とカレンではその知識に乏しくてですね、是非魔法の有識者であるクリフさんの意見をお聞きしたいと思いまして。ちなみにその仲間って言うのが、こちらのアイリーンとウェンディです」
「はじめまして、アイリーン・ニューランズです。よろしくお願いします」
「ウェンディ・ニューランズです。よろしくお願いします」
2人はお辞儀をする。
「クリフ・スライです、こちらこそよろしくお願いします。それで、ケンさん、事情は理解できました。そう言うことでしたら、もちろん喜んで協力させていただきますよ。して、今現在、御二人はどのような魔法をお使いになるのですか?」
クリフさんの問いに、アイリーンとウェンディは答える。
「あたしは魔法剣士なので、剣を作る4つの魔法を使います。剣創造魔法の中で代表的な4属性です」
「となると、鉄、炎、風、氷ですか?」
「はい、その通りです」
「ちなみに、魔法関連の超能力はお持ちですか?」
「いえ、特にはないですね。この4つも自力で覚えました」
「なるほど、わかりました。そちらの方は?」
「わたしは後衛の補助魔法使いです。使えるのは、味方の筋力、耐久力、俊敏性を上げる魔法と、敵のそれらを下げる魔法、それと範囲回復の魔法の7個だけです。ちなみにお姉ちゃんと同様に魔法関連の超能力は持っていないです」
「なるほど、わかりました。あの、ケンさん」
「はい?」
「せっかく来ていただいたのに申し訳ないのですが、明日もう一度来ていただけませんか?改めて調べ直して御二人にあった魔法の紹介と講義をしたいと思うので」
「あ、わかりました。じゃあ、出直します」
「すいません。ありがとうございます」
「いえ、協力してもらっているのはこっちなんで、そこまで尽力していただけるのは嬉しい限りです」
「それと、御二人が魔法を覚える期間として1ヶ月いただきたいのですが、大丈夫ですかね?」
「はい、大丈夫です」
1ヶ月か、カレン基準だったから、3時間くらいで終わるかと思っていたが、超長いな。
まあ、2人が強くなってくれれば、戦術の幅も広がるし、ここは先行投資ということで、良しとしよう。
「それと、2人の能力値が知りたいので、魔法道具の店で『分析の壁』を使ってきて貰っても良いですか?」
「あ、それなら俺が便利な道具を持っているので、書くものさえあれば今すぐにでもわかりますよ」
「本当ですか!?それなら、今書くものをお出しします」
すぐにクリフさんは紙とペンを出してくれた。
「〈S7〉」
俺は「分析の片眼鏡」で2人の能力値を見て、紙に書き出し、その紙をクリフさんに渡した。
「ありがとうございます。では今日中に御二人に覚えてもらう魔法の一覧を作成しておきますから」
「ええ、わかりました。2人のことよろしくお願いします」
と言うわけで、俺達は今日は帰ることにした。
―――
そして、その帰り道。
「ウェンディとアイリーンさ、この期間中は帝都の宿屋に泊まってくれないか?」
「それ、わたしも言おうと思っていたよ。これから1ヶ月毎日カレンに送迎してもらうのも大変だからね」
「ああ、ほぼ昼夜逆転生活になるしな。宿代は俺が出すから気にしないでくれ」
「え、それは悪いよ。わたし達もお金は持っているし、わたし達が魔法を覚えるためなんだから、ケンが出す必要はないよ」
「いや、俺がパーティのリーダーとして、決めた方針に、2人が従ってくれているんだ。それにかかる費用くらいリーダーの俺が払うさ。と言うか、むしろ払わせてくれ。慣れない地に2人を置き去りにしてしまうことに対する、俺のお詫びの気持ちってことで」
「え、でも…」
「ウェンディ、ケンも払わせてくれって言っているし、ここは1つ、リーダーの顔を立ててあげようよ」
「うん、お姉ちゃんがそう言うなら」
というわけで、2人は俺が払える範囲で最も高級な宿屋に泊まることとなった。2人分を1ヶ月の期間ということなので、流石に最高級の宿屋は無理だったが、それでもなかなか上等な宿屋だ。
2人を帝都の宿屋へと残し、カレンと所持金0の俺はヤポンへと帰った。




