11.5 巨蜜熊
ギルドからのお達しの内容はシロップベアーを討伐して欲しいと言うものだった。
なんでそんな低級な依頼を直接指名してくるんだと思ったが、討伐対処はどうやらただのシロップベアーではないらしい。
討伐が依頼されたシロップベアーは蜜だけでなく、味方を喰らい巨大化したシロップベアーだった。肉の味を覚えたシロップベアーは獰猛性も増しており、その討伐は緑階級以上の冒険者向けの依頼となった。
さらに、今回は森の保全や街への危険度から非常に急を要するそうで、ギルドは緑階級以上の冒険者を探していたそうだ。
そんな折、キメラの角の最大記録を更新した俺達に白羽の矢がたったらしく、今に至る。
―――
そんなわけで、その依頼を快諾した俺達はシロップベアーのいる森を訪れていた。
俺の当初やりたかったことの1つはウェンディとアイリーンにゲオルク・フィッツロイのことを話したいというものだったので、移動中にさっさと済ませてしまった。
ゲオルクが「憤怒」を生み出したことを知った2人はゲオルクに敵対心を持ってしまったが、自分達が殺されたかけたんだ、それも仕方ないことだな。
さて、問題の巨大シロップベアーはどこだろうか。
そう思って探していると、樹木に付いた引っ掻き傷を見つける。
あの傷の高さからして相当でかいな。俺は確信した。
さて、しばらく歩いて辺りを捜索していたが、巨大シロップベアーを見つけることはできなかった。
それもそのはず、この広大な森の中で1頭の熊を見つけるというのは、例えその熊が巨大であっても難しい。
どうやって見つけようか俺が頭を悩ませていると、痺れを切らしたジンが言った。
「オレ、ちょっと走って探してくるね」
俺の返事を聞く前にジンはパッと消えた。
ジンを呼び止めるために前に伸ばした手の先には虚空しかなかった。
「行ってしまいましたね」
「見つけたよ!」
「うおっ、戻ってきたっ」
俺は驚いて変な声を出してしまう。
速い、相変わらず速いな。
「向こうの方で熊を食ってたよ」
ジンは巨大シロップベアーのいた方向を指しながら言ったが、その距離や場所はさっぱり伝わって来なかった。
「向こうって言われても困るんだが、具体的な場所はどこだ?」
「ああ、大丈夫、オレが嗾けてきたから」
ドッタドッタと大きな足音を立てて、巨大シロップベアーは俺達の前に姿をあらわす。
普通のシロップベアーの5倍はあるその巨体に俺は驚く。俺の想像の2倍はでかかった。
「えっと、ジン。麻痺毒は?」
「厚い毛皮で剣が刺さらなかった」
やっぱりか。となると、中途半端な攻撃は効かないと思うし、そもそも動きが激し過ぎで近づけないし、後はカレンの魔術頼みか?
「カレン、魔術使ってくれ」
「ダメですよ、ケンさん。そんな事したら跡形もなくなってしまいますよ」
あー、カレンの言う通りだ。跡形もなくなったら、討伐が認められないんだよなあ。こんなことになるなら、ギルドの職員でも連れて来れば良かった。
今日はウェンディとアイリーンにゲオルクの話ししたかったから、部外者に聞かれないためにもギルド職員の同行拒否したんだよな。
なんか良い策はないだろうか。とりあえず、思いつきの1つを試してみるか。
「ウェンディ、俺に強化魔法を全部とシロップベアーに弱体化魔法を全部かけて貰えるか?」
「うん、わかった」
「あ、なら私も半分手伝いますよ」
「カレンは精神統一しといてくれ、魔術を使ってもらう」
「でも、それじゃあ…」
「魔術でシロップベアーを磔にしたら、すぐに水系の魔法ぶっかけて火を消してくれ」
「そんなの足止めにしかならないですよ」
「良いんだよ、それで。後は俺が首を刎ねて来るから」
「わかりました」
「ジン、アイリーン、撹乱頼めるか?」
「了解了解」
「任せて」
2人が撹乱している間に刻々と準備を進める。ウェンディの方は全ての魔法を使い、強化と弱体化を終わらせたし、後はカレンの精神統一完了を待つだけだ。
収納の腕輪から取り出した両断の剣を構えて俺はジッと待つ。
精神統一を終えたカレンは魔術を使い始めた。
「《敬虔なる神の使徒よ 聖なる炎でもって悪しき存在を焼き払え 神による大いなる断罪 ウィッチトライアル》」
赤い光の魔法陣がカレンを中心に広がる。そして、その範囲内に入ったシロップベアーは瞬く間に十字架に磔にされた。そして、そのまま着火が始まるも、カレンは水属性魔法でその火を消した。
火が消えた十字架はものの数秒で崩れてしまうが、それで良い。その数秒が欲しかった。
速度が上昇した俺は、全速力で走り、転がっている大岩を利用して高く跳び上がる。
そして、手に持った両断の剣をシロップベアーの首をめがけて振り下ろした。
ザクッと言う確かな手応えを感じる。
やったか!?
されど、十字架から解き放たれたシロップベアーは左腕を振るい、俺を吹き飛ばす。
吹き飛んだ俺の身体は木の幹に当たりミシミシと音を立てて止まる。
痛すぎて悲鳴すらあげられない。背骨や肋骨を含む何本かの骨がやられたようだ。
もう逃げることすらできない。
しかし、シロップベアーはそれ以上襲っては来なかった。
それどころか、シロップベアーは俺を吹き飛ばしたそのままの姿勢で、バタリと倒れた。
「オレがいつも武器に塗っている毒の原液だ。ケンの斬りどころが良かったね。首に付いたその深い傷に直接毒を塗れば、オレの武器では傷付けられない太い血管や重要な神経だって毒に侵されるようになるのさ。っと、ケン、大丈夫かい?」
「大丈夫ではないが、問題はない。っ、痛っ!《タイムバックワード》」
声を出すだけで、痛みが全身を襲うので、魔術を使って元に戻す。
「その魔術最強だよね。オレもそんな魔術使えたらなあ。でも、そもそも魔力がないしな」
「俺よりもジンの方が戦闘も移動も優秀じゃないか?」
「人間、自分にないものは羨ましくなるよね」
「確かにな」
俺達が話している間に、カレンは魔法で淡々とシロップベアーの首を切り落として、ギルドカードにしまっていた。
「じゃあ、行きましょうか」
カレンの声に俺とジンは呆気に取られる。
それに反して女子達は楽しそうに会話をしながら森を出るように歩き始めた。
「カレンちゃん、結構たくましいよね」
ジンは囁くように俺に言った。
「最近は特に、頼れるようになったよな。ウェンディとアイリーンがパーティに入ってからか?」
俺もジンの言葉に、小声で返す。
「ケンさん、ジンさん。置いて行きますよ」
カレンは話してばかりでその場から動いていない俺達に声をかける。
「い、今行く!」
俺達2人はカレン達3人を小走りで追いかけた。




