2.2 討伐開始
俺らがしばらく歩くと木々が生い茂る森に到着した。森と言っても面積はさほど大きくないだろう。
森に入り少し歩いた所でシロップベアーを見つけた。4頭の群れと5頭の群れが少し離れた位置で主食の樹液をすすっていた。
今回の報酬はシロップベアー1頭に対し、500ブロンと3ポイント。ただし、火属性魔法で焼き尽くしたり風属性魔法や武器で切り刻むと売り物にならなくなり、報酬が減ってしまうため注意が必要だ。
「俺が前衛、カレンが後衛でいいな?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、俺が適当に突っ込むから倒せそうなの狙って攻撃してくれ」
「わかりました」
「じゃあ、行くぞ」
―――
まずは4頭の群れの方から討伐するとしよう。俺が「ウインドナイフ」で1頭の頭を斬り飛ばして戦闘が始まった。
残った3頭が俺に向かって雄叫びをあげた。俺は剣を抜いて熊に向かって走り、カレンは後方の少し高い位置から援護をする準備を始めた。
俺が前方の熊と対峙していると、先程の雄叫びを聞いたであろう5頭の群れが俺の右後方から近付き襲い掛かってきた。
しかし、その内の3頭は吹き飛んだ。
どうやら魔法によるカレンの援護らしい。
3頭が吹き飛んでも2頭は残っている。つまり元々いた3頭と合わせて5頭対1人となっているため、援護を受けても俺の方が不利だ。さらに俺は熊達に囲まれている。
だが、これは使い所だろうな。
「《カーム》」
俺を囲んでいた熊が上方に吹っ飛ばされた。「カーム」は壁として使うよりも吹き飛ばす使い方をした方が有用なんじゃないか?
とか考えている俺を後ろから熊が襲う。しかし俺はその攻撃を寸前でかわす。流石の超能力「反射神経向上」だ。
なるほど。壁が出来る時に内側にいられると壁が消えるまでの数秒間タイマンになってしまうのか、理解した。
「《ガスト》」
襲ってきた熊の頭を風の塊と風の壁で挟んで押し潰した。熊の頭が弾け飛び、周囲には血などが飛び散った。ちょっとこれは精神衛生上よろしくないな。「カーム」も「ガスト」も元は空気のはずなのに まるで鉄のように硬くなるらしい。
「カーム」の効果が消えて壁がなくなると吹き飛ばした4頭の熊が再び襲い掛かってきた。
攻撃をかわして1頭の頭を剣で斬り飛ばし、そのままの勢いで もう1頭の頭も斬り飛ばした。さらに怯んだ一瞬の隙を逃さず「ウインドナイフ」で残りの2頭の頭も斬り飛ばした。
最初は慎重になっていたがこの熊に負ける気がしないな。俺の階級より1つ上の赤階級推奨らしいから多少は苦戦するかと思ったが、そんな事はなかったな。やっぱり才能に恵まれているんだな、俺は。
さて、カレンの方はどうだろうか?
カレン魔法使い、バリバリの後衛職だ。うまく逃げてくれてると良いんだが。
そう思いカレンの方を見てみると、なんと熊は残り1頭にまで減っていた。
「《切り裂く風の刃 ウインドナイフ》」
そして、最後の1頭も今まさにカレンの魔法により倒された。ここまで強いなら1人でも冒険者活動できたろうに。
―――
全部倒せたが戦闘自体はあまり良いものではなかったな。討伐対象がシロップベアーじゃなかったら、無事では済まないかもしれない。
「ケンさん、お疲れ様です。倍の数のシロップベアーを押し付ける形になってしまって申し訳なかったです」
「いや、それは仕方がない事だから全然大丈夫なんだが、次はもう少し丁寧な作戦を考えようとは思ったわ。こんな感じだといつか痛い目に遭うだろうしな」
「ええ、そうですね。私もそう思います。それでどうしますか?今回の依頼の上限は60頭までなので討伐して報酬を増やせますよ。まあ下限の5頭は超えているので依頼を終わらせることはできますけど」
「やめといた方が良くないか?既にこの9頭分すらも持って帰れる気がしないんだが」
「ケンさん、受理した依頼に関係する物ならギルドカードに付与されている魔法でギルドカードに収納して持ち運ぶことができますよ。ギルドカードを手に持って『ウェアハウス』と唱えてください」
「〈ウェアハウス〉」
ギルドカードを手にして唱えると、まるでギルドカードに吸い込まれるようにシロップベアーが全て収納された。
「収納できるのなら後20頭ぐらい討伐しないか?」
「はい、大丈夫です。では行きましょうか」
―――
そこから2時間ひたすらシロップベアー狩りをした。後半になるにつれて互いに相手の動きもわかっていき、自然と連携がとれるようになっていった。
最終的に討伐したシロップベアーの合計は36頭だった。納品すれば1人あたり9000ブロンと54ポイントが報酬として得られる。
しばらく休んだ後で俺とカレンは森を出て、街まで歩いて帰るために来た道を戻った。