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着のみ着のまま転生記  作者: 名波 和輝
2 ギルドでの初仕事
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2.1 ギルドの依頼と少女、そして異能


 トワイライトを出て数分歩くとギルドについた。


 ギルドは前に来た時と何も変わらず、やはり数人の冒険者がいて、掲示板には多くの依頼が貼ってある。


 俺は早速掲示板にある依頼を眺めて、簡単そうな内容の赤い依頼書をはがして受付に持っていき、ギルドカードと共に提出した。


「ヒイラギ・ケン様、こちらの依頼は第2階級である赤階級以上の冒険者に推奨された依頼です。第1階級であるケン様では依頼に失敗して罰則に沿った処罰を受ける可能性があります。この依頼を受注されますか?」


 処罰…?まあ、大丈夫だろ。


「はい、大丈夫です。お願いします」


「承りました。しばらくお待ちください」


 今の話に出てきたように冒険者には階級が与えられていて、階級が高いほど優秀な冒険者となる。


 階級は第1階級から第9階級まであり、それぞれの階級には対応する色が割り当てられている。色は低い階級から白、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒となっている。この色はギルドカードや依頼書などに使われている。


 ちなみに、依頼を達成すると依頼の難易度に応じたポイントを受け取ることができ、ポイントが一定の基準を超えると階級が上がる。そして階級が高いほどギルドから特典を貰えるようになる。


 確か、そんな感じだったと思う。登録した時 貰った冊子に軽く目を通した程度の知識だから確証はないが。


「お待たせいたしました。依頼の受注が承認されました。4日後までに依頼の終了条件を満たして報告してください」


「了解です」


「それでは いってらっしゃいませ」


 受付から振り返ると、そこには白く短い髪の少女が俺に何かを言いたそうな顔をして立っていた。少女は白いローブに木の杖というザ・魔法使いな格好をしていた。身長は小さめで、顔はなかなか整っていて結構な美少女だ。


「あ、あの…その依頼、私と一緒に行って貰えないでしょうか?」


「えっと、そもそも俺は君が誰なのかすら知らないんだけど」


「す、すいません。私はミヤモト・カレン、ミヤモト家の96代目当主ミヤモト・ジュンイチの娘で、歳は15歳です。今は訳があって冒険者活動を行っているのですが、実は私まだ新人なのに既に数回ほど依頼を失敗していまして。単刀直入に言うと もう後がないんです。ですから、協力していただきたくて」


「なるほど、理解した。でも、俺じゃなくても良くないか?強そうな冒険者なら他にもいるだろ」


「他の人は武骨な人ばかりで話しかけづらくて。そもそも私、少し人見知りで男の人に声をかけるのが得意ではないんですよ。それに そういった人達は男の人だけでパーティ組んでいるので少し怖いですし。その点あなたは1人だったので、まさに渡りに船なんですよ。しかも、赤階級の依頼を受けていたようので私でも力になれそうですし」


「わかった、協力するよ」


「ありがとうございます!」


「そう言えば名乗ってなかったな。俺は柊健、歳は16だ」


「ヒイラギ…聞いたことない家名ですね」


「ああ、その辺は気にしなくて良いと思うよ。とりあえず、よろしくな」


「わかりました。よろしくお願いします」


―――


 俺は受付で受注条件の変更申請をした。その後、カレンと話し合いをするためにギルド内のテーブルがある席に向かい合って座った。


「依頼に行く前に何個か聞きたい事があるんだけど、答えて貰えるかな?」


「助けて貰うわけですし、もちろん良いですよ」


「じゃあ、1つ目。この依頼で討伐して納品する『シロップベアー』ってどんな生き物か知ってるか?」


「シロップベアーはですね、毛皮はコートに、肉は食用に使われる熊です。熊と言っても小柄で3頭から5頭で行動しているのが特徴の1つです。1頭の戦闘能力は高くないので対策をとれば倒すことは難しくないです」


「なるほど、ありがとう。じゃあ次は異能について教えて欲しい。この間 奥の受付で診断を受けたは良いが異能の事を何も知らないんだよ」


「わかりました。では【異能】について簡単に説明しますね。まず【異能】は2つに分類されます。1つは体内にある魔力を現象に変える異能で【魔法】と呼ばれています。そして、もう1つは身体能力の延長線上にある異能で【超能力】と呼ばれています。【魔法】の1つの特徴としましては学べば使える事です。ただし、その人の魔力の量によっては使えない魔法あるので注意が必要です。魔法は多種多様なので3つの性質と5つの属性によって15種類に分類されていて、多くの魔法がこの分類に当てはまっています。個人によって適性がある性質や属性に差が生じ、適性がある魔法は習得までにかかる時間が短くなります。一方、【超能力】は他人が習得する事が出来ません。種類としても『魔法の適性がある』とか、『身体能力が高い』とかの簡単な能力しか基本的にありませんね」


「なるほど、なんとなくわかったわ」


「『簡単に』と言いましたけど、長くなってしまいましたね。診断を受けた時に貰った診断書に書いてある超能力なら常時発動しているでしょうし、魔法なら習得しているはずなので詠唱して魔法名を唱えれば使えるはずですよ。ただ、魔法を習得する事と使いこなす事は違いますからね」


「了解、了解。次は気になった事なんだけど、カレンが言ってた『後がない』ってどういう意味なんだ?」


「えっと、ギルドの依頼って達成できないと、報酬になって加算されるはずだったポイントと同量のポイントが引かれるじゃないですか?」


「へえ、そうなのか」


「え、知らなかったんですか?じゃあ、累積のポイントが負の値になると、値に応じた期間 冒険者活動ができなくなる事も当然知らないわけですね」


「そうだな、知らない。そもそも俺は今日が初めての依頼だしな」


「え…じゃあケンさんの白階級の冒険者なんですか?」


「そうだな。まあ、大丈夫だって、俺に任せとけって!」


「なんで そんなに自信満々なんですか…?」


 カレンは「選ぶ人を間違えた」と言いたげな引きつった顔をしていた。心配することはないだろうに、天才の俺がいれば失敗はありえないと思うし。


「それで最後の質問なんだけど、武器屋とかってどこにあるか知ってる?」


 カレンの顔がさらに引きつった。


「ぶ、武器とかの冒険者が必要とする物は大概このギルドの2階に売っていますよ。性能や質は平凡ですが」


「なるほど。じゃあ、2階によってから熊を倒しに行くとしよう」


「そうですね。流石に何も持たないのは危険ですからね」


―――


 俺はギルドの2階で適当な剣を買い、シロップベアーが生息する近くの森へと2人で歩いて向かった。今歩いているのは森へと続く草原の道で、俺が転生した場所と近くはないが一続きの同じ草原らしい。


「結局ケンさん武器しか買いませんでしたけど、大丈夫なんですか?」


「魔法もあるし大丈夫だろうよ。第一、金欠なんだよ。剣買うのに2400ブロン使ったから、残りが2600ブロンしかない。ギルドの冒険者活動なんて安定的な収入が望めない仕事だから、宿代とかの必要経費のために出来るだけ多くの金を手元に残しておきたいんだよな」


「ふむふむ、それで武器しか買わなかったんですね。そうなりますと魔法を実戦での補助に使えるレベルにしておいた方がいいですね。魔力量にゆとりがあるようでしたら、この辺りで練習をしてみるのも良いと思いますが」


 使える魔法の名前を覚えていなかったので、俺は診断書を取り出して眺めた。


「なるほどな。とりあえず俺の持つ先天的な魔法は4個だな。列挙してみるか?」


「一応、超能力の中にも魔法関連の超能力があると思うので、全ての異能を挙げて貰って良いですか?」


「わかった。じゃあ、診断書の上に書いてある超能力から言っていくわ。まず『余事適性』」


「さっそく魔法関連の超能力ですね。余事の性質を持つ魔法の習得が早くなりますね」


「となると、この『風適正』と『無適性』も似た超能力か?」


「そうですね。それぞれ風属性と無属性に対応していますね」


「次は『理解力向上』だな」


「これは基本的な身体能力向上系の超能力ですね。効果は超能力の名前のままですね」


「えっと、じゃあこの辺も名前言っていけばわかる超能力だな。『魔力量上限向上』、『魔力回復量向上』、『反射神経向上』…」


「ちょ、ちょっと待ってください。まだあるんですか…?」


「超能力は後2つだな。魔法は4つ」


「ええっと、『余事適正』、『風適正』、『無適性』、…」


 カレンは指を折って数え始めた。


「全部で13個だな」


「じゅ、13個…。ケンさんがやたら自信満々だった理由がわかった気がします」


 別に異能の数が多いから自信満々だったわけじゃないんだがな。


「おお、わかってくれて嬉しいよ。そんで残り2つの超能力は『詠唱共有』と『詠唱短縮』って名前なんだが、名前から能力がわからないな」


「それは結構貴重な能力ですよ。どちらも魔法発動の詠唱に関わる超能力ですね。『詠唱共有』は詠唱をしている人が魔法名を口にして魔法を発動させる前に、その魔法名を自分も口にすることで その魔法を使用することができる能力ですね。そして、『詠唱短縮』は一度発動させた事のある魔法を詠唱を行わずに発動させられることができる能力ですね」


「なるほどな。『魔力量上限向上』に『魔力回復量向上』、そして『詠唱短縮』か。ここで魔法の練習をした方が良さそうな組み合わせだな」


「確かに、そうですね」


「じゃあ1つ目、《切り裂く風の刃 ウインドナイフ》」


 俺が魔法を使うと、明後日の方向の地面が縦に1mほど裂けた。


「あ、魔法は手をかざしたりして狙いを定めることができますよ」


「なるほど、《ウインドナイフ》」


 手をかざして再び使うと、今度は地面に生えた草が刈り取られた。


「目に見えないだけで空気の刃が飛んでいるっぽいな。地面も裂けるほどの威力だし、使い勝手は良さそうだな。じゃあ次。《押し出す風塊 ガスト》」


 魔法を唱えると、かざしたままだった手から突風が噴き出した。草を刈り取られた地面に穴があいた事から、威力はなかなかあるようだ。


「牽制にも攻撃にも使えそうな良い補助魔法ですね」


「ああ、そうだな。これはどうだろうか。《遮る風の壁 カーム》」


「きゃっ」


 魔法を使うとカレンが2mほど上に吹き飛んだ。吹き飛んだカレンを俺は慌てて受け止めた。


 その後、診断書を見直してみたら「カーム」は俺を中心に半径2m程度の円状の壁を数秒間作る魔法だった。魔法発動時に壁が出来るあたりにいると吹き飛ばされ、また壁が出来ている間は外からも中からも物体の通り抜けはできなかった。


 風属性の魔法は目に見えないので何が起きているか視覚的に理解するのが難しい。


「じゃあ、最後に無属性魔法。《(まと)う迅速の衣 アクセラレート》」


 そう唱えた瞬間に、周囲の動く速度が半分程度になるように感じた。カレンが話しかけてきたのだが遅くて聞き取りづらかった。


 しかし、俺の体感時間で1分ほど経過すると元に戻った。どうやら効果時間の30秒ほどだけ俺の体感速度や行動速度が2倍になったらしい。診断書には具体的な効果と時間が書いていなかったため、使ってみて初めてわかる仕様だ。


「これで全部だな。異能だけでも なんとかなりそうだな」


「慢心はダメですよ」


「はいはい、わかってるって」


「本当にわかっていますか?」


「ほ、ほら、そろそろ行くぞ」


 カレンのジト目に耐えきれず俺はそそくさと道を歩き始めた。

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