10.2 称号授与は蟠りと共に
称号授与の式典は無事終わり、今は参加者をそのままに式典から移行したパーティーの最中だ。
パーティーと言っても参加者は俺達と国王、貴族に騎士と、俺達を除けば、位の高い身分の人ばかりなので、厳かな雰囲気の立食パーティーだ。
参加者は当然のことながらドレスコードにより全員パーティーに相応しい格好をしている。
つまり、俺達もパーティー用の服装なわけだ。
そして、この格好が似合っていない(特に俺、むしろ俺だけ)。
パーティーが始まって早30分、俺は既に帰りたいと言う気持ちがピークに達している。
理由は単純明快、貴族達の俺達に対する否定的な態度だ。この国の貴族が冒険者を含む下民を見下しているから常に下民には否定的な態度ではあるのだが、今回に関しては称号の授与が否定的な態度に拍車をかける主な原因となっている。
実は、帝国で「特別名誉騎士」の称号を俺達に授与すると言う話が出た時も一部の貴族は猛反対したそうだが、式典では参列者に貴族達がいないこともあって俺達の耳に否定的な意見が直接的に入るようなことはなかった。
その点を考慮したとしても、そもそも帝国の時と今回とでは状況が違う。
帝国の時は身内で起きた不祥事を俺達が救った形だったので、称号の授与に反対した者はそれほど多くなく、本当に一部の貴族だけであった。
しかし、今回は王国に襲来するであろうキメラを討伐しただけに過ぎないので、キメラがどれほどの脅威を持っていたかを知らない貴族達からすれば、たかが怪物を倒しただけで王国の後ろ盾を貰おうなんて烏滸がましいと言う考えになっているのだ。
実際、国王も自らが討伐を命じた事とキメラを目にした兵士達の意見を考慮して、仕方なく俺達に称号を授与しているようだった。
そのため、国王としては俺達の功績を評すると言うよりは脅威的な力を持つキメラを討伐した冒険者を囲い込むと言うのが今回の称号授与の主な目的だろう。
一方、俺は俺で王国からの称号が欲しいと願っているわけでもない。
そんなわけで、俺に国王に貴族達と今このパーティーに参加している者のほとんどがこの状態に不満を抱いているのだ。
そんな誰も望んでいない称号授与でトラブルが起こるのは時間の問題であった。1人の貴族の発言によってトラブルの火蓋は切られた。
「たかが下民風情が国王様から称号を頂けるなど身に余るだろうに。大人しく辞退でもすれば良かったのではないか?本当は評されるほどの力など持ち合わせてはいないのだからな」
1人の貴族が俺達に対する罵倒を口に出す。飲んだ酒が回ったのか、その声は会場にいる全ての者の耳へと届く大きさであった。
「ふむ、貴様は私の目が曇っているのだと言うのだな?」
声を聞いた国王がそう言った。まあ、国王も仕方なくで開いているパーティーで文句言われたら、無視できないよな。
「め、滅相もございません」
俺達を大声で罵倒した貴族は焦ってそう答える。
「だが、貴様の気持ちもわからないでもない。貴様はヒイラギ・ケンとその仲間達の力を目にしていないのだからな。宴の一興だ。ヒイラギ・ケンよ、私の我儘に付き合ってはくれまいか?」
拒否権なんてないだろうに。
「はい。どう言ったご用件でしょうか?」
「うむ。戦ってもらいたいのだ、黒騎士、ナカムラ・リンとな」
国王の言葉に黒いドレスを着た20代前半くらいの女性が前に出る。黒くて綺麗な長い髪をしていて、身長は170cmから175cmほどで女性にしては高い方だ。そして、騎士として剣で戦っているとは思えないほどの女性的な身体のラインや手足の細さをしていた。
この人がナカムラ・リンさんなのだろうか?
「はい、承りました」
とりあえず、返事をした俺だったが、国王の言葉に引っかかりを感じた。
黒騎士?どこかで聞いた事があるような。
と、黒騎士のことが思い出せない俺の耳元でカレンは囁いた。
「ケンさん、大丈夫ですか?黒騎士ってこの国で最強の騎士ですよ。確実にケンさんが負けますよ」
ああ、思い出した。普段は国境付近の砦にいる王国最強の騎士か。
「大丈夫だ。問題ない。俺は天才だからな」
その言葉を聞いたカレンは「こいつ調子乗ってるな」と言いたげな苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
―――
さて、そんなわけで俺とリンさんは着替えて中庭へと出た。リンさんの格好はファンタジー世界の女騎士が着るような服と鎧を混合させたような黒いもので、黒騎士の名に相応しかった。
それにしてもカレンのザ・魔法使いな格好と言い、所々がファンタジー世界なんだよな。魔法がある時点で充分ファンタジーだが。
話を戻そう。俺とリンさんが今いる この中庭はちょうどパーティー会場のバルコニーから見える位置にあるので、他の人達は全員そこから観覧している。
ルールは相手に一撃入れた方が勝ち、と言うものであったが、それではすぐに勝負が決してしまうと言う貴族の一声で俺がリンさんに一撃でも与えるというものに変わってしまった。俺の敗北条件は降参だけとのことだが、下民である俺に直接自らの口で負けを認めさせたいという思いが見え隠れしている。
まあ、貴族の醜い考えはさておき、どうやって戦おうか。
俺が(不意打ちで)倒した帝国のストロング将軍よりも多分強いであろうこの黒騎士に一撃を与えることなどできるのだろうか。
そんな俺の心中など知る由もないと言わんばかりに王提案の一興は始まった。




