9.1 プカンへの帰還
キメラ討伐から数日後、無事プカンへと到着した。帰りの移動期間は予想通り1ヶ月半程度で行きよりもおよそ2週間短くなっていた。
例によって到着してすぐに俺達は玉座の間へと向かった。そして、書状を渡した後、騒動は起こった。
俺達が国王と話していると、玉座の間の扉が突然大きな音とたてて開く。激しくデジャブだ。頼むからクーデターを起こしてくれるなよ。
振り返るとどうやら一介の兵士のようだ。
「申し上げます。プカンの西南西の遠方よりキメラと思しき巨大な化け物が接近しております」
またキメラか。キメラが出たと言っても、キメラが恐ろしいのは少人数の時に襲いかかってくるからであって、大人数であれば倒すのはそこまで難しいことではないだろう。ゆえに冒険者も兵士も騎士もいるこの都市なら迎撃なんて容易いだろうに。
「そのような些細なことをわざわざ報告に来たのか?冒険者を向かわせれば良いだろう」
国王も同じことを思ったのか、兵士に対して怒り気味にそう言った。
「それが、冒険者を200人程派遣したのですが、全く止まる気配もなく。このままではプカンへと到達してしまいます」
「ふむ、そうか。そうだな。冒険者、ヒイラギ・ケンとその仲間達よ。諸君にキメラ討伐を依頼したい。受けてくれるか?」
前も言ったが、国王からの直接の依頼を断れるわけがないだろう。
「はい、その依頼喜んで受けさせていただきます」
―――
そんなわけで俺達は他の冒険者達と共に馬車に乗りプカンの西南西へと向かう。3km程度移動すると、そこには体長10m程の巨人のようなキメラ(?)がいた。そして、俺達よりも先に派遣された冒険者達はそのキメラに対して後ろから攻撃を仕掛けていた。
キメラと言えばキメラなのだが、今までのとは相違点がちらほら見受けられる。
まず、形状がシンプルだ。見た目は10m程度の筋肉の塊みたいな巨人で赤い肌をしている。体毛は生えていない。言うなれば赤い肌をしたスキンヘッドのボディビルダーだ。合成獣っぽさはまるでない。キメラと判断できる要素なんて頭に生えている大きな赤い水晶のような角だけだ。
次に、人に対する興味だ。普通キメラは近くにいる人間、もしくは何らかの要因で興味を持った人間に対して攻撃を行う。しかし、このキメラはゆっくりと王都の方へ歩みを進めている。後ろから攻撃を受けようと、何事もないかのように歩き続けているのだ。
最後に、頻りに何かを呟いていることだ。声は小さく何を言っているのかはわからないが、確かに何か呟いている。キメラの言葉なんてものを聞いたのは今日が初めてだし、もしかしたら、このキメラには人間ないしは人間に類する知能の高い動物が使われているのかもしれない。
俺がキメラに対して分析を行っていると、同じ馬車に乗っていた冒険者が飛び降り、キメラの方へ向かっていった。
「緑階級の俺に任せろ!!!」
キメラの方へ走っていくその冒険者に対し、キメラの後方から攻撃を仕掛けていた冒険者が叫んで忠告をする。
「キメラの視界に入ったらダメだ!」
しかし、その忠告も時すでに遅し、キメラの視界へと入ってしまう。
その瞬間、威勢の良かった冒険者の身体は、キメラの豪腕によって俺達の方へ勢い良く吹っ飛ばされる。
キメラに吹っ飛ばされ地面に転がったそいつの身体は所々の関節が曲ってはいけない方向に曲ってしまっていた。キメラから馬車までおよそ20m。そんな軽々と人体を吹っ飛ばすキメラに俺は恐怖を覚えた。
「《タイムバックワード》」
キメラに吹っ飛ばされ虫の息となった冒険者の身体に俺は魔術を使う。詠唱が短縮できるようになり、使い勝手の良くなったタイムバックワードは冒険者の傷を元に戻した。
一瞬でやられたのが不幸中の幸いか、ほんの数十秒 時を戻すだけで無事 傷はなくなった。
緑階級の冒険者が吹き飛ばされる様を見て恐怖の表情を露わにしていた馬車の冒険者達は、傷を治す俺を見て唖然としていた。ちらほら、俺を讃えるような声が聞こえる。
まあ、そんなことはさておき、現状があまりよろしくないな。
60人くらいの冒険者が後方から攻撃を続けるものの一向に止まる気配はない。それどころか、攻撃に対する防御すらしないのだ。先程目にした攻撃力もさることながら、強靭な肉体の防御力の高さも脅威である。
そして、キメラの視界に入ってしまったであろう残りの冒険者は見るも無残に吹き飛ばされている。
このままじゃジリ貧だ。何か策を講じなくては。
「ケン、キミが指揮をとったらどうだい?」
ジンが急に変な提案をしてきた。しかし、意外と妙案かもな。
「ああ、そうしよう」
俺はジンとカレン、それに今馬車に乗っている冒険者達に指示を出す。それぞれが俺の指示に基づいて行動を始めた。




