8.1 エウロメ帝国のとある街
帝都・ギャリットを出発して数日、俺達は道中にあるエウロメ帝国のとある街を訪れていた。
カレンの魔法のおかげで馬車で2ヶ月の道を1ヶ月半で行けることになった。
今はまだ昼過ぎで夕暮れにはまだ数時間あるのだが、このまま進むと森の中で夜を明かすことになりそうなので、今日はこの街で1泊することになった。
俺達が宿屋を探し街を歩いていると、1人の男の子が俺の前で派手に転んだ。
「お、おい、大丈夫か?」
俺は駆け寄って起き上がろうとする男の子に手を貸す。
「ありがとう、お兄さん」
その子の身なりをよく見ると、服はボロボロだった。まだ5歳ぐらいだろうに親は何をしているのだろう?
男の子は立ち上がると、去り際に俺へと手を振った。
男の子に向かって手を振り返した俺にジンは耳元でそっと囁いた。
「ケン、今のコに財布盗られていたようだけど、施しかい?」
「は?」
俺はポケットに手を突っ込む。確かに財布がなくなっていた。
「あれ?気が付いていなかったの?てっきりお小遣い感覚で盗ませたのかと思ったよ」
「そんなわけあるか!」
俺とジンは走って男の子を追う。
少し進むと路地裏から男の子の声が聞こえてきた。どうやらチンピラに絡まれているらしい。
「か、返して!」
「ほぉら、返して欲しいならもっと必死に取り返してみな」
男は子供を煽り、そして突き飛ばした。小さな身体が勢い良く壁へとぶつかる。
力ない者が理不尽な暴力を受けている様を見て、いや、子供が壁に叩きつけられる様を見て俺は頭に血が上る。
事実と感情が比例しないほどに頭が血が上っていて、我ながら不思議だ。まるで暴力を振るわれている子供にトラウマでもあるかのようだ。
人間のクズが、子供相手に大人気ないことしやがって、1発ぶん殴ってやる!
子供に自分の財布を盗まれたことなど忘れて、ただクズに対しての怒りのままに路地裏に入ろうとする俺の腕をジンが掴む。
「助けるのかい、あのコを?」
「ああ、そうだ」
「偽善なら辞めておきなよ。路上で生きるなら、それは完全なる弱肉強食さ。オレも路上で育った。路上じゃこんなこと日常茶飯事さ」
「偽善でも良いさ、今俺は腹が立っているんだ」
「ケン、キミのその行動はあのコにとって本当に良い行動と言えるのかな?ここでケンが助けたらあのコは今後路上で生活するうえで自分で何とかする力を身に付けることができずにいずれ野垂れ死ぬよ。ここで助けるなら、キミはあのコの人生を背負う覚悟をしなければダメだよ」
「わかった。あの子の処分については助けてから考える。とりあえず、あいつをぶん殴ってからだ」
そんな俺達の会話にも気付かずにクズは男の子のことをいびる。
「それは僕のなんだ!返して!」
「バーカ、盗られた時点で俺のものなんだよ」
「違う、俺のだ」
俺は男の背後から思いっきりぶん殴った。
男は殴られた勢いそのままに額を壁にぶつけて気絶した。
「お、お兄さん。ご、ごめんなさい。財布は返すから、僕を殴らないで」
気絶して泡を吹いているチンピラを見て男の子は怯えながらそう言った。男の子は怯えた様子で俺に言った。
「殴らないよ。ただ、ちょっと付いてきてほしいんだ」
さて、どうするかな。ジンとの約束を果たさないとならないしな。
―――
男の子の身柄をどうにかするため、俺はこの街の兵舎を訪れた。
俺は兵舎の入り口付近にいた兵士に声をかける。
「すいません。ちょっと良いですか?」
「はい、何でしょう?」
「この子が裏路地で絡まれているところを見つけて助けたのですが、この子がまた絡まれないようにこの兵舎で預かって兵士として育てて貰いたいのですが」
「それは難しいですね」
俺の頼みをやんわりと断る兵士に特別名誉騎士の襟章を見せる。
「これでもダメですかね?」
その瞬間、兵士は驚いたような顔をした。
「しょ、少々お待ちください!上の者を呼んで参ります!」
―――
その後は、この兵舎を管理している人と話をつけて、男の子の身柄は無事に預けることができた。
やっぱり帝国内では圧倒的な権力を持つ称号なんだな。
特別名誉騎士の称号の便利さを感じつつ、一悶着している間にカレンが見つけてくれた宿屋へと俺は向かった。




