7.13 悠遠なる帰路へ
カレンが魔法陣を描いた翌日の昼過ぎ、書状を受け取った俺達は街の外壁となっている砦の外でエーシャア王国への出発の準備をしていた。
俺達をこの街へと連れてきてくれたギルさんは宰相達のクーデターが落ち着いた頃、30日程前に一足先にエーシャア王国へと事情を伝えるために帰ってしまった。
では、馬車のない俺達はどうやって帰るのか。俺はてっきり帝国から馬車を借りるものだと思っていたのだが、実はカレンが移動用の魔法「ウインドアーク」を覚えていたのだ。
その「ウインドアーク」という魔法は風で出来た舟のような乗り物を作り、それに乗ることで移動ができるというようなものだ。
覚えている人などいないと思うが、「メテオ」という宰相が使っていた魔法がある。
これはエウロメ帝国の研究により生み出された魔術に近い魔法だ。魔力量を変えることで威力を変えることができるのだ。
今回カレンが覚えた「ウインドアーク」も「メテオ」と同様で、研究によって生み出された魔術に近い魔法だ。
つまり、魔力量によって100人以上乗れるような大きなものも、3人程度しか乗れないが小回りが利くようなものも作れるのだ。
そんなわけで、カレンが3人が乗れる程度の大きさのものを作る。
試運転ということでカレンとジンが練習している間、俺は荷物等の確認をしていた。
そんな俺に後ろから女性が声をかけてきた。
その声を聞いた俺が振り返ると、そこには一般市民の格好をしたメアリーがいた。
「ケンが出発すると聞いたので来ちゃいました」
「おいおい、姫様がこんな所に来て大丈夫なのか?」
「ええ、ちゃんと共は連れていますわ」
メアリーがチラリと見た方向に目を向けると、こちらも一般市民のような格好をしたメイさんがいた。
「なら安心だ」
「ケン、次はいつギャリットを訪れてくれますか?」
「うーん、何とも言えないな。まあ、エーシャア王国のプカンに着くまで2ヶ月くらいかかるし、それ以降かな」
「わかりました。また会える日を楽しみに待っておりますわ」
俺とメアリーがそんな会話をしていると少し離れた舟の上からジンが俺を呼んだ。
「ケーン!女の子にちょっかいかけてないで早く来なよ、出発するよ!」
どうやらメアリーだとは気が付いていないらしい。
「わかった!すぐ行く!」
俺は確認が終わった荷物を大きな布で包み1つの大きな荷物としてまとめ、「収納の腕輪」へとしまった。
「じゃあ、もう行くわ」
俺はメアリーにそう告げると、ジン達が待つ風の舟の方へ歩き始める。
「ケ、ケンッ!」
何かを言いたげなメアリーの声に俺は振り返る。
その瞬間、右の頰に柔らかなものを感じる。
メアリーの唇が俺の頰へと触れたのだ。
「な!?」
「わがままかも知れませんが、別れ際の口付けくらい許してください…」
頰を赤らめたメアリーは俺にそう告げた。
俺達、2人の間に何とも言えない空気が漂う。
「あ、ああ。じゃあ、俺はもう行くわ」
頭が真っ白で気の利いたことなど何も言えない。
ただただ、ジン達の待つ風の舟へと歩みを進めるだけだった。
俺は舟へと飛び乗る。
「あれぇ?ケン、なんか顔赤くない?」
「き、気のせいだろ」
「気のせいじゃないです、顔がりんごみたいに真っ赤ですよ。風邪ですか?」
「大丈夫だから早く行こうぜ」
突然のキスに動揺を隠せないまま、俺はプカンへの帰路へと着いた。




