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着のみ着のまま転生記  作者: 名波 和輝
7 ギャリットの日常
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7.12 帰国に際してⅡ


 高価な買い物をし、なんとしてでも「テレポート」を使わなければならなくなった俺が訪れたのは帝国の城内にあるメアリー姫の部屋だ。


 俺が特別名誉騎士であるためか、セキュリティは甘かったので、城についてすぐにメアリーの部屋に入ることができた。


「メアリー、久しぶり」


「ええ、本当にお久しぶりですわ。私のことなど忘れてしまったのかと思いました」


 そう言うメアリーは少し怒っているように見えた。


「いやいや、俺は俺で忙しかったんだよ」


「盗賊団の壊滅でですか?それとも殺人事件の解明でですか?」


「何でも知ってるんだな…」


「いえいえ、そんな。ただ目にしたから覚えていただけです」


「すごいな。いや、本当に俺も悪いとは思っているから、これからは定期的に顔を出すよ」


「3日もしないうちにこの国を発たれるのにですか?」


「やっぱり知ってるのか。まあ、そっちの方が話が早くて助かるんだが。その辺りの事情で今回はちょっとお願いがあって来たんだ」


「お願いですか?」


「実は今、エウロメ帝国とエーシャア王国を楽に短時間で移動できるようにならないか画策していてな」


「そういうことですか、わかりました。お父様に少し相談してみます。街の外れにある今は使われていない砦なら譲渡することもできると思いますよ」


 メアリーがそう言いながら合図のようなものを送ると、部屋の隅の方控えていたメイドのメイさんがそっと部屋を出て行った。


「ちょっと待て、話が早すぎる」


「早いに越したことはないではありませんか?察するに『テレポート』の魔法を使うための場所が必要なのでしょう?」


「いや、そうなんだが。確か『テレポート』の魔法は知名度が低いはずなのに、よく知ってたな。ここまで話が早いと、行動を監視されてるんじゃないかと疑うぜ」


 俺が冗談めかしてそういうとメアリーは微笑みながら答える。


「どうでしょうね?」


「え…」


 否定しないのか…。


 そう思って焦りの色を見せた俺を見て、メアリーはクスクスと笑った。


「冗談ですよ。ただ私は城に届く書類に目を通しているので知っていただけですよ、魔法の事も敷地の事も」


「え、もしかして、書類全部読んでるのか?」


「ええ、国の事は知れるだけ知っておかないといざという時に対応できなくなりますからね」


 それって1日にどれくらいの文章を読むことになるんだろうか。そもそもそんな重要でもなさそうな情報、よく覚えていたな。


 俺の中でメアリーの株が上がったちょうどその時、メイさんが戻ってきた。そして、メアリーに1枚の紙を渡す。


 受け取った紙を見ながらメアリーは話を続けた。


「候補はいくつかありますが、条件で比べるとやはり先程話した砦が1番良いですね。ケンの方からご希望はありますか?」


「いや、メアリーが1番って言うならその砦が良いんだろう。そこにしてくれるか?」


「わかりました。では、管理している者には私の方から言っておきますから、ケンは使いたい時に使ってくださって構いませんよ」


「終わり?代金とかは?」


「国が管理している土地を譲渡する形ですから、お支払いいただかなくて結構ですよ」


「いや、悪いから払うよ」


「いえいえ、この土地は私と()()()の気持ちですから、私の未来の旦那様に対する、ね?」


 …絡め取られてる感が否めない。


「あ、ありがたく貰っておくよ」


 この間のこともあって、強く否定することができなかった俺は適当にお茶を濁す形で話をまとめ、城を去った。


―――


 宿屋に戻った俺はカレンの部屋のドアをノックする。


「カレン、いるか!?頼みがあるんだけど!」


 少しの間を開けて、ドアが開く。


「どうしたんですか?いきなり大きな声だしたら迷惑ですよ。それに私は今出発に向けて準備で忙しいところです。頼みって言われても困りますよ」


「そこをなんとか。頼む!」


「まあ、内容次第ですけど。とりあえず入ってください。こんなところで騒いでいたら迷惑ですし」


 カレンに促された俺は部屋の中に入って『テレポート』について説明をした。


「そんなわけで、カレンには魔法陣を描いて欲しいんだよ」


「わかりました。私も2ヶ月間の移動を何回も繰り返すのは嫌なので、そう言う事情ならば描きましょう。


 ただ、今日はもう夜になるので、明日で良いですか?」


「ありがとう、助かる」


 明日の昼前に出掛ける約束をし、俺は自分の部屋へと戻った。


―――


 そして、次の日。


 俺達は街の外れにある砦へと向かった。


 半島にあるこの帝都では陸続きになっている所では万里の長城のように壁状の砦を築いて帝都への侵入者を防いでいる。それこそ背水の陣となっているので、その壁のような砦には莫大な費用が注ぎ込まれているのだ。


 一方で、海側には背の高い砦が海岸線に沿って死角ができない程度にパラパラと建てられているだけである。帆船程度の航海技術しか持たないこの世界においては海側からの侵入にはそこまでの脅威がないため、高所から水平線を監視していれば充分に侵入を防ぐことができるからだ。


 そういった事情もあって砦はより高いことが求められている。


 そして建設技術が進歩し、より高く安定した砦を建てることができるようになれば、古い砦は放棄される。放棄された砦は解体にかける費用がないため、しばらくの間帝国の管理下にあるというわけだ。


 時が流れて次の砦が建てる場所がなくなった時にようやく解体されるのである。


 そんなわけで今回俺が譲渡された砦は2世代前の砦、それも立地が悪く次の砦を建てることはないとまで言われている場所にある砦だ。


 俺達は宿屋から暫く歩いてその砦に辿り着いた。


 古い砦と聞いていたが、国が管理しているためか小綺麗に保たれていた。


 早速、中に入ってすぐにある開けた場所でカレンは指輪から万年魔晶筆を取り出して魔法陣を描き始める。


 その指輪は俺が昨日渡した「収納の指輪」だ。


 「収納の腕輪」の下位互換であるそれは、1つのものしか入れられないので、今回に限っては完全にペンケース扱いだ。流石に300万のペンをそのまま持ち歩いて、落とされたりしたら困るので、指輪として身につけて貰うことにしたのだ。


 さて、カレンに魔法陣を描いて貰ってるから当然なのだが、やることがないな。


「カレン、何か手伝うことはあるか?」


 俺の問いかけにカレンは軽く息を切らしながら答える。


「そうですね、特にはないですかね。まあ、どうしても手伝いたいというなら、しばらく静かにしていてくれませんか。思ったより魔力消費が激しくて集中が途切れそうなので」


「わ、わかった」


 カレンに少し怒られてしまったっぽい。まあ、確実に俺が無神経だったんだが。前々から毒舌気味な発言をすることはあったが、最近は特に当たりが強いな。


 仕方がないので、カレンが魔法陣を書いている間、砦の探索をすることにした。


 砦と呼ばれているこの施設だが、本質的には灯台に近いように思える。


 基本的には物をしまっておく蔵のような部屋と宿直の兵士が泊まるであろう部屋のみが最下層にはあり、そこから上には砦の内壁に螺旋状の階段と海を監視するための展望台だけがあるような形だ。


 まあ、海の監視という目的ならば、これくらいの設備で問題はないだろう。


 俺は螺旋状の長い階段をゆっくりと登り、展望台から海を眺めて物思いにふける。


 そして、今更ながらこの世界へと転生した時に出された使命を思い出すのであった。


 よく考えたら転生してから今まで、生きるために懸命に仕事をしたり、とんとん拍子で事が進んだりで何かと忙しく、こうしてゆっくりと物思いにふけるなんてしていなかったからな。


 世界を救うか、前にも考えたが何をすれば良いんだろう。


 とりあえず、この世界に来て半年ぐらい経ったと思うが、この半年間で見た限りだと怪しいのはキメラだろうか。


 俺が転生する半年ぐらい前から突然発見されるようになったらしいしな。


 何にせよ実力をつけるのと、この世界の人とのコネクション作りは進めておこう。


 どんな問題を解決するにもその2つは必要になるだろうしな。


 まあ、コネクションに関しては帝国と何となく繋がりができてきてはいるし順調だな。


 俺はそんなことを10分程度考えていた。


 そろそろカレンの方も終わったかな?


 そう思って俺は展望台から長い螺旋階段を下る。


「おーい、カレン終わった…か!?」


 魔法陣を描いていたはずのカレンは地面に伏していた。


「ケ、ケンさん。ま、魔法陣は描けたのですが、ま、魔力を消費し過ぎてしまって。す、少し休めば回復するので、も、問題はないです」


 膨大な魔力を持っているカレンでも魔法陣を描くには相当な無理をしなければならないようだ。


「歩くのは…無理だよな。宿屋に運ぶわ」


「ご迷惑をおかけして申し訳ないです」


「いやいや、俺が頼んだことやってくれたんだから、謝るのはこっちだよ。ごめんな」


 俺はカレンを背負って宿屋へと帰る。


 普段は魔術の強力さや魔法のセンスが目立ってつい頼ってしまっているが、背負ってみるとその小柄で軽い身体の感触が伝わってきて15歳の女の子なんだと実感してしまう。


 俺も頑張らないとな。歳下の女の子に頼りっきりだなんて情けないからな。


 てか、なんか良い香りがするな。別に意識しているわけじゃないけど、なんか落ち着かない感じがする。


 小柄ながら柔らかい身体や漂う良い香りに翻弄されつつも、俺はカレンを背負って宿屋へと帰った。

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