7.11 帰国に際して
ビクティム男爵殺害事件から数日が経ち、俺達の帰国が近付いていた。
3日のうちには書状が完成するそうなので本当にまもなくだ。
そんな折、ふとジンが気になることを言い出した。
「なあ、ケン。オレ達はエーシャア王国のヤポンに帰るんだよね?それってものすごい時間かかるよね?」
完全に盲点を突かれた感じだ。あの移動の日々をまた過ごすのは本当に怠い。効率的とは全く言えない。
そんなわけで俺はなんとかして移動時間を短縮できないかと考えた。
まあ、こう言った無理難題と遭遇したら、まず頼るべきは魔法だな。きっと移動に関するような魔法もあるだろう。
魔法のことは専門家に聞くに限るので、俺はクリフさんの第3魔法研究棟を訪れた。
魔法分類学を専攻しているクリフさんなら、きっと俺達の悩みを解消してくれる魔法の1つや2つ教えてくれるだろう。
「失礼します。クリフさん、いますか?」
「ケンさん!お久しぶりです。どうしたんですか?」
「いきなり押しかけてすいません。実は今、魔法を探していまして」
「魔法ですか?」
「はい、エウロメ帝国とエーシャア王国間を高速で移動できような魔法を探していて、魔法分類学の研究をしているクリフさんなら何か知っているんじゃないかと考えまして」
「そうですねぇ、どのくらいの速さで移動したいですか?」
「最高なのは一瞬でですかね。まあ、1日ぐらいで移動できるのであっても文句はないですけど」
「一瞬…ですか。まあ、ないことはないんですが、ちょっと条件が厳しいんですよね」
「それは、どんな魔法ですか?」
「えっと、ですね。刻印式魔法の1つで『テレポート』って言うんですけど」
「刻印式魔法ですか?」
「ええ、詠唱式魔法と比べて知名度は低いんですけど、訓練することなく誰にでも使える魔法です」
「それ、すごくないですか?」
「ええ、ただ先ほども言った通り条件が厳しいんですよ。『テレポート』の場合、仕組み的には魔法陣と呼ばれる図形を描いて、その中に入るだけなんですが、その図形を描くのが難易度高いです」
「と言うと?」
「まず魔法陣を描く場所の確保、次に魔法陣を描く道具の確保、最後に魔法陣を描く人員の確保が必要となります」
「順番に説明してもらっても良いですか?」
「はい。では、まず魔法陣を描く場所についてですが、これは単にこの魔法が魔法陣から魔法陣への移動を行う魔法なので、魔法陣を維持しないと使用できなくなります。そのため、少なくとも2点での魔法陣の維持が必要となります」
すでに今回使えないことが判明したが、とりあえず話だけでも聞いておこう。
「なるほど。それで魔法陣を描く道具と言うのは?」
「実は指に魔力を込めれば描くことはできるのですが、魔力の定着性と時間的効率の観点から見て魔晶筆という道具を使った方が良いでしょう。しかし、魔晶筆は高価な魔法道具なので、手に入れるのが難しいのです」
「最後の魔法陣を描く人員の確保とはどういうことでしょう?」
「これはですね。魔法陣を描くために途轍もなく魔力を消費するのです。魔法陣の大きさによって使用する魔力の量は変動しますが、数人がテレポートできるだけの大きさの魔法陣を書くとすれば、常人なら1つの魔法陣を描くのに2週間は要するでしょう」
「複数人で描けば良いのではないですか?」
「いえ、この魔法は1人で魔法陣を描かなければならず、魔法陣を起動できるのも描いた人だけなのです」
「そう言った制約があるわけですか」
「はい。さらに言えば魔法陣を起動する際に消費する魔力は移動させるものの質量と移動させる距離の積で定まるので、相当量の魔力がなければエウロメ帝国からエーシャア王国までの移動は不可能でしょう」
なるほどな、制約が厳しいな…。
「わかりました。一応、その魔法の発動方法だけ教えてもらっても良いですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。今から紙に書くので少し待っていてください」
「はい、ありがとうございます」
―――
数分後、俺はクリフさんから『テレポート』の魔法の資料を受け取り、研究棟を後にした。
さて、場所と道具と人員か。どうせこの国にはまた来るんだし、魔法陣だけでも描いておけば次の機会に楽に移動できるだろうから、描いておいて損はないな。
とりあえず、人員に関してはカレンに頼むとして、場所と道具か。
―――
魔法陣を描く道具、魔晶筆を求めて俺は以前訪れた魔法道具店を訪れた。
「いらっしゃい!お兄さん、お久しぶりネ。今日も何か買ってくれるアルカ?」
「ああ、魔晶筆が欲しいんだが」
「あるヨ、1本3万ブロンネ」
「高!?」
ペン1本30万円って…。
「お兄さん、良い話あるネ。実はこの魔晶筆消耗品ネ。だいたい魔法陣5個ぐらい描くのに使ったら終わりヨ。でも、新商品の万年魔晶筆っていうのがあるネ。こっちは1本30万ブロン、高そうに思えるけど、魔法陣50個以上描くならこっちの方がお得ヨ」
「うーん…」
あまりの悩みどころに俺が購入を渋っていると、怒涛のセールストークで迫って来られてしまい、結果、その勢いに押されて、俺は300万円のペン(とペンを収納するための魔法道具)を購入してしまった。
―――
さて、あんなに高価な買い物をしたのでもう後には引けなくなった。
なんとしてでも魔法陣を描く場所を確保しなければ!




