7.10 開く真実の扉
兵士の迅速な行動のお陰で、ものの10分で全員が集まった。もう少し時間がかかるかとは思っていたが、俺が追加調査を終えてすぐに全員が集まり、タイミングはぴったりだ。
さて、そんなわけで、この遺体が発見されたこの部屋には、俺、医者のダニエルさん、痩せているトトリ男爵、ワインをかけられてしまったマウス男爵、幼少の頃ビクティム男爵に暴力を振るわれていたラーム男爵、ビクティム男爵に借金をしていたコーンさん、それに屋敷の使用人12名の総勢18人が集まったわけだ。
流石にトトリ男爵の息子のジャック君に血まみれの現場を見せるわけにはいかないので、これで全員だ。
大勢の人の声で部屋がざわついている中、トトリ男爵が少し大きめの声で俺に質問する。
「死に際の書き置きが見つかった上に、そこから犯人がわかったと言うから来たのですが、それは本当ですか?」
「ええ、本当ですよ。ビクティム男爵が倒れていた扉の側を見てください」
俺が扉の側にあるダイイングメッセージを指差すと、全員がその方向を見た。
「何ですか、これ?犯人の名前なんて書いてないじゃないですか?」
ダイイングメッセージを見たマウス男爵がそう言った。
「これは暗号ですよ。今からこの暗号を解いて犯人が誰なのか説明しますよ」
俺は懐からダイイングメッセージを書き記した紙を取り出す。
ダイイングメッセージ
『ブジンハカドウヲオコナワズ
カシュノヒトハタタカワズ
ワタシハオナジモジイワズ
カンジンナヒトハホボイナイ
オロカナオコナイハミヲホロボスコトヲオボエ
ヒモハワカエンヲナス』
「まず、この3文目の『ワタシハオナジモジイワズ』、この言葉通りに同じ文字を消していきます」
俺は紙に書かれた2つ以上ある文字を消していく。
そして、それらの処理が終わるとある言葉が浮かび上がった。
しかし、その言葉に一同は首を傾げた。
「ケン様、『フドウュノミ』とは一体なんでしょう?」
マウス男爵が俺に尋ねる。
「書かれた通り律儀に消すとこのようになりますが、しかし、『ュ』だけでは意味は通りませんね。もともとこの『ュ』は『シュ』のところから『シ』だけを消したものです。つまり、ここから考え出される答えは、この文では『シュ』と『シ』を別の文字だとしている可能性です。その考えを正しいものとして消した『シ』を元に戻すと、導き出される答えは『ブトウシュノシミ』となります。そして、この会場内に『ブトウシュノシミ』をつけた方がいらっしゃいますよね?」
マウス男爵の顔が一気に青ざめた。マウス男爵の服にはジャック君にぶつかった時に溢れた葡萄酒のシミがあるのだ。
「も、もしかして、ケン様は、わ、私が犯人だと仰るのですか?」
「いえいえ、そうは言っておりません。ただ、葡萄酒のシミがついている、その情報が大事なのです」
不安そうにこちらを見ているマウス男爵に俺は答えた。
「どういうことですか!?彼が、マウス男爵が犯人ではないのですか!?」
いきなり大きな声を出してトトリ男爵が俺に問いかけた。
「ええ、俺は彼ではないと考えています」
「何故ですか!?彼には葡萄酒のシミがついているでしょう!ビクティム男爵の最期の言葉を無視するおつもりですか!?」
「残念ながら、ビクティム男爵にはその最期の言葉を残すことはできないのです。ですよね、ダニエルさん?」
俺の質問にダニエルさんが答える。
「ああ、ケンの言う通りだ。ビクティム男爵はまごうことなく即死だ。血で文字を書く、それも一捻り加えた暗号を書くことなんてできないだろう。たとえ医者の卵が見てもそう答えるほどにこれは明らかだ」
「つまり、ビクティム男爵が残したと思っていた言葉は犯人による偽装工作だったわけです。と、なると葡萄酒のシミについて知っている方が怪しくなって来るわけですが、今現在マウス男爵はシミを上着を羽織ることで隠していますね。つまり、マウス男爵に葡萄酒のシミがついていることを知っているのは、その時あの場にいた、俺、トトリ男爵、ジャック君の3人になるわけです。そして、あなた方と別れてから俺はダニエルさんと一緒にいましたし、殺害方法や暗号などから見て幼いジャック君には到底不可能だと言えるでしょう」
「わ、私じゃあない!そもそも葡萄酒のシミがついた人物など他にもいるかもしれないだろう!その人物を貶めようとしていたのなら私が犯人になり得ない」
「ええ、そうかもしれませんね。だから、あなたは駄目押しにあんなことをしたんでしょう」
「な、なんのことだ!?」
「この部屋は俺とダニエルさんがビクティム男爵の遺体を押しどかして扉を開けるまで扉からの出入りはできないようになっていました。では、犯人はどこから出たのか?答えは簡単、窓です。そう思って私は屋敷の外に出て、窓の下の地面を調べてみました。そうしたら、マウス男爵とトトリ男爵が履いている靴と同じ形状の足跡がくっきりと地面に残っていましたよ」
「だから、なんだ!?」
「あなたは考えたはずです。もしかしたら、葡萄酒のシミがついた人物が他にもいるかもしれないと。そして、容疑者が増えて捜査が続くようなことになれば、自分の犯行だとバレる証拠が出てきてしまうかもしれないと。だから、あなたはわざと地面に足跡を残した。扉から出ることができないのなら窓から出たと誰もが考え、調べると予想したから。確かにダイイングメッセージでマウス男爵が疑われていれば、靴の証拠で確定的になるでしょう。しかし、今の状況では逆にあなたの首を絞めていますね」
「ビ、ビクティム、ビクティム男爵の靴だってあるだろう。この靴は私達3人同じものを持っているんだ。たまたま葡萄酒の一件を見ていた犯人がビクティム男爵のその靴を履いて逃げた可能性だって大いにある!」
「ないです。そういうと思って、事前に執事の方に確認はしておきました。ですよね?」
「はい、確かにケン様の仰る通りです。旦那様は4年程前、靴を捨てるように私に指示いたしました。そちらの靴はマウス男爵とトトリ男爵の履いていらっしゃる2足しかこの世に存在いたしません」
「ま、魔法だ!魔法ならどうだ!?氷の魔法か何かで私達の靴と同じ足跡が残るように細工して飛び降りれば…」
「そんな氷やら土やらで覆われた足元を見たら誰だって怪しんで屋敷には入れませんよね?」
「なら、殺してから魔法を使えばいいだろ!」
「この屋敷では魔法は使えないんですよ。ですよね?」
「はい、確かにケン様の仰る通りです。旦那様は魔法道具を用いて、この屋敷内での魔法や魔術の使用ができないようにしております」
「な、なら、なら…」
「もう終わりにしましょうよ。なんでビクティム男爵を殺害したんですか?」
俺のその言葉にトトリ男爵は暫く硬直した。そして、一筋の涙を流した後、ゆっくりと口を開いた。
「実は…」
―――
動機を語った後、トトリ男爵は兵士の人に連れていかれた。
まさか、嫁さん寝取られていたとはな。ジャック君はトトリ男爵の子ではなく、ビクティム男爵の子だったわけだ。確かにジャック君の体型はトトリ男爵よりもビクティム男爵よりだったしな。
息子が日に日に自分の嫌いな男のようになっていく様を見てたら、そりゃ殺意が湧いてくるわな。
それにしても危なかった。マウス男爵が殺してない証拠がない、暗号だって自作自演だ、なんて言われたら反論できなかったんだよなぁ。
話の流れが良い方向に行ってくれて助かった。
まさか探偵のようなことをするとは思わなかった。疲れたし、さっさと帰って寝るとしよう。
こうしてビクティム男爵殺害事件は幕を閉じた。
しかしこの事件の真相を俺が暴いたことが国民に知れ渡り、俺が別の事件に巻き込まれるのはまた別の話。




