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着のみ着のまま転生記  作者: 名波 和輝
7 ギャリットの日常
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7.8 男爵の屋敷へ


 俺は今、立派な屋敷の前に立っている。これからとある男爵の誕生日を祝う祝宴(しゅくえん)に参加するのだ。


 事の始まりは2週間前、あの盗賊団を確保した後だった。ギルドに報告を終えた俺達が宿屋へと帰ろうとすると1人の男に声をかけられた。男の名前はビクティム男爵、俺を招待した張本人だ。30代後半の男なのだが、100kgを超えていることが見た目でわかるほど太っているからか、40代後半と思えるほどに老けて見える。


 そんなわけで、招待を受けた俺は今からその宴に参加するわけだ。


 俺は門番に招待状を見せて屋敷の敷地へと入り、会場となっている広いホールへと向かった。


 ホールへと入ると、参加者らしき人達が数人いた。門番曰く、俺が最後に到着した参加者だそうだから、会場はもっと多くの人がいると思ったんだがな。これで全員だとしたら、会場の広さに対して人が少ないんじゃなかろうか。


―――


 しばらく待機していると、ビクティム男爵の挨拶が始まった。


「皆様、本日の宴に参加していただきありがとうございます。本日は時間の許す限り楽しみましょう。乾杯」


 宴が始まると2人組の男性が俺の元へと向かってきた。


「すいません。あなたはもしかして特別名誉騎士のヒイラギ・ケン様ではないですか?」


 2人のうち痩せ細った方の男が俺に話しかけた。


「はい、そうです」


「やはりそうでしたか、私はマイケル・トトリと申します。ビクティム男爵とこちらのマウス男爵と共に帝国内に葡萄(ぶどう)酒を流通させる王令を果たしております」


 マイケルと名乗ったこの人は隣の高身長の男を手で指しながら自己紹介を終えた。


「クリス・マウスです。トトリ男爵の紹介に預かった通り普段は葡萄の栽培を行なっております。よろしくお願いします」


「なるほど、よろしくお願いします。今の自己紹介を聞く限りでは、御二人は帝王の意向でビクティム男爵と葡萄酒の流通を行なっているそうですが、その経緯を教えていただけますか?ビクティム男爵を含む皆さんとの付き合いが浅いものですから、より親交を深めたいと思いまして」


 俺が問うとマウス男爵が口を開いた。


「ええ、もちろん良いですよ。今から10年程前に帝王様から私達3人が葡萄酒をこの国に流通させる王令を受けまして、私が指揮をとって栽培した葡萄をビクティム男爵の使いの方達が葡萄酒を製造しているトトリ男爵の蔵まで運ぶのですよ。そして、出来た葡萄酒をビクティム男爵の使いの方達が街へと運んでいます」


「なるほど、意外と御二人はビクティム男爵と関係が深いわけですね」


「そうですね。王令を受けてからの仲ですけど、とても仲良くさせてもらっていますね。ビクティム男爵からは靴もいただきましたし。今日も履いてきているのですよ」


 そう言うマウス男爵の足元を見てみると高級そうな靴を履いていた。


「あ、私も履いていますよ」


 確かにトトリ男爵も同じ靴を履いているな。


「揃いの靴ですか?」


「そうですね。ビクティム男爵は靴がお好きな方なので、出逢ってすぐに貰ったんですよ」


「10年前に貰った靴なのにそこまで綺麗だなんて、物持ちがよろしいんですね」


「いえいえ、とても高価な靴なので、なかなか履けないのですよ。なんでも世界に3つしかないそうですよ」


「それは凄いですね」


「そうですね。そのため普段使いができずに、ビクティム男爵と会う時ぐらいしか履いていないのですよ」


「なるほど、そんな高価な靴を人に渡せるなんてビクティム男爵は人柄が良い人なんですね」


「いえ、それはどうでしょう」


 先程までほとんど黙っていたトトリ男爵が口を開いた。


「どういうことですか?」


「ビクティム男爵は幼少の頃より相当やんちゃな方だそうで、幼い頃から付き合いのあるものは大変な苦労をしたようですよ」


「そうなんですか」


「ええ!例えばあそこにいらっしゃるラーム男爵は幼少の頃にビクティム男爵から殴る蹴るの暴行を受けていたらしいですよ」


 そういうとトトリ男爵は会場にいる1人の男の方を指した。


「本当ですか!?」


「ええ!酒の席で毎回その話をするくらいにはビクティム男爵を恨んでいるでしょう」


 きな臭い流れになってきたな。


「印象変わりますね」


「ええ!他にもあそこにいるコーンさんはビクティム男爵の指揮の下 動いている葡萄酒等を運んでいる方々の取りまとめをしている方なのですが、彼はビクティム男爵から多額の借金をしているらしいんですよ」


 そう言いながらトトリ男爵はパーティーの場にふさわしいとは言えない格好をした男を指差した。


「借金ですか?」


「はい、なんでもその取り立てが相当酷いらしいのですよ。詳しくは聞いていないですが」


「なるほど…、いきなり印象が真逆に変わったので混乱していますよ」


 てか、トトリ男爵はビクティム男爵の悪口になった途端饒舌(じょうぜつ)だな、興奮して声は大きくなっているし。そういう人よくいるけどな。痩せ細ったその身体のどこからそんなエネルギーが出るんだってぐらいの饒舌さだったな。


「そうでしょうね。これでビクティム男爵のことは十分にお分かりになったでしょう」


「そうですね。ありがとうございます」


「いえいえ。あ、そういえば、私の息子を紹介するのを忘れておりました。」


 トトリ男爵はそういうと隣のテーブルの方を向いて、息子の名を呼んだ。


「おい、ジャック。こっちに来てケン様に挨拶しなさい」


 名前を呼ばれたトトリ男爵の息子のジャック君はこっちに駆け寄ってきた。5歳くらいだろうか?それにしてはスゴい太っている気がするが。つか、父親はあんなにも細いのにそこまで太るって、遺伝ってのは意外と信用ならないんだな。


 俺がそんな事を考えながらを見ていると、ジャック君の肩がマウス男爵の腕に当たった。そして、マウス男爵が持っているワインがこぼれて、服にかかってしまった。


「申し訳ありません、マウス男爵!うちの息子が粗相を!ほら、マウス男爵に謝りなさい!」


「ごめんなさい…」


「いえいえ、気にしないでください。拭き取れば大丈夫ですよ」


「でも、シミが…」


「上に何か羽織れば隠れますし、大丈夫ですよ。ちょうど肌寒いと思っていた所ですから」


 そんな感じのアクシデントがあり、マウス男爵とトトリ男爵、ジャック君は会場から出てしまい、俺1人残されてしまった。


―――


 その後俺は、別の参加者の所へ挨拶に行った。挨拶というよりかは、その人の身元が知りたかっただけなのだが。


挨拶をしてみるとその人が医者であることがわかった。名前はダニエル・エイベルさん。とても気さくで話しやすい人だ。見た目は顎鬚(あごひげ)を生やした高身長で細身の渋めな中年男性だ。俺も歳をとったらこうなりたい。


「それでダニエルさんはビクティム男爵とどういう関係ですか?」


「関係、関係な。ほぼ初対面みたいなもんだな。先週、ある病気の新しい治療法について表彰を受けた後にいきなり男爵に声をかけられてな。初対面だったはずだが今日のこれに招待されてな。ただの医者風情が断るわけにもいかず参加したわけだ」


 なんか、俺と似てるな…。もしかして、ビクティム男爵、友達少ないから、適当に話題になりそうな人招待しているのか?


「ダニエルさんもですか?実は俺もなんですよ。面識なかったのに、2週間前にいきなりギルドで話しかけられて、そのままの勢いで招待されましたよ」


 こんな感じで俺達がしばらく会話をしていると、どこかからか悲鳴が聞こえてきた。


 俺とダニエルさんは悲鳴の発生源を見つけるために会場を出た。


 すると会場のすぐ隣の部屋の扉の前でこの家のメイドさんが顔面蒼白で腰を抜かしていた。


 顔が恐怖の色に染まりきったメイドさんに俺は問いかけた。


「何かあったんですか?」


 メイドさんは(おもむろ)に震える指で僅かに開いた扉から見える部屋の中を指さした。


 その指のさす方向を見てみると、大量の血を流したビクティム男爵の頭が見えた。


 俺はビクティム男爵の身にただならぬことが起こっていることを察して、部屋に入ろうと扉を押す。


 しかし、ビクティム男爵の体が引っかかっているようで、扉を押しても動かない。


「別の出入り口はないですか?」


「こ、この部屋はこの扉以外に出入り口はないです。窓はありますが、ここは2階なので窓が閉まっていたら入るのは難しいと思います」


「わかりました。じゃあ、緊急事態なので扉、壊しますよ。《ウインドナイフ》」


 しかし、魔法は発動しなかった。


 理由はわからないが、とりあえず扉を開けなければ。


「ダニエルさん、手伝ってください。体当たりで扉を破ります」


 俺とダニエルさんが身体を使って2人がかりで扉を押し開けた。


 無理矢理 扉を開けた俺達が部屋に入る。医者であるダニエルさんがビクティム男爵の様子を見る。


「こりゃダメだな。即死だ。後頭部を鈍器で一撃って所だ」


 俺達が押した扉に引きずられてビクティム男爵の遺体の位置は変わってしまっているが、元々遺体の頭部があった扉の脇は大きな血溜まりとなっていて、素人である俺の目から見ても既に亡くなっていることは明白だった。

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