7.6 姫の真意
あまりの衝撃に頭が真っ白になったが、冷静に事実を捉えようと試みる。
「ちょっと待ってくれ。俺達、今日会ったばかりだろう?何で結婚の話になるんだ?」
「いえ、初めてはありません。式の時が初めてなので、今日は2回目です」
「だとしてもだ。ちょっと早すぎないか?」
「いえ、王家の者ともなれば初対面が結婚式なんてことだってあるくらいですから、決して早くはないですよ」
この辺りでやっと俺は冷静になることができた。とりあえず、俺に結婚の意思はないし、断ろう。姫様 相手だし、やんわりと断ろう。
「うーん。俺、王家じゃないしな。そもそも結婚の話だけでなく、今日1日振り返って見ても違和感があって理解できないところが多々あったんだよなあ。メアリー、もしかして何か隠してるんじゃないか?」
俺から質問を受けたメアリーは俯いた。
そして暫しの沈黙の後、口を開いた。
「実は、お父様にケンと結婚するように言われておりまして。何でも『ケン殿の血はエウロメに必要だ』だそうで」
「父親に言われたからって結婚するってことか?」
「いえ、決してお父様だけの意思と言うわけではございません。失礼ながら私なりにケンを見定めるために今日は買い物に付き合っていただいたのですから」
「なるほどな。全て理解できた」
「買い物の最中もケンにはとても優しくしていただきましたし、一緒にいて楽しかったのです。それで、この人と結婚したい、そう思うことができたので、今 告白させていただきました」
「ああ、事情はわかった。だが、その思いに応えることはできない。少なくとも、お互いのことを何も知らない今はまだな。それにもっと良い人なんていると思うしな」
「わかりました。私も少々焦りすぎたかもしれません」
「すまないな。せっかく勇気を出して伝えてくれたのにな」
メアリーは少し悲しそうな顔をした後、優しく微笑んだ。その目には薄っすらと涙が見て取れた。お姫様がフられることなんてないからな。気を遣ったつもりだったんだが、もっとやんわりと断るべきだったか。
「ケンが謝ることではありません。それに私諦めませんから。私のことをもっと知っていただいて、いずれ射抜いて見せます。そのために1つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ん?内容によるな」
「私を冒険者パーティに入れてください」
「いやいや、一国の姫に危ない事させられるわけないだろ!」
「ダメ、ですか…」
いや、わかってる。姫様 相手に乱暴な言葉遣いで強く否定するのはマズい。やんわりと断らなければならないのはわかっているんだけど、つい反射的に強く否定してしまった。
あ、そうだ。
「冒険者は危ないからな。一緒に冒険者活動はできないけど、仲間としてなら是非受け入れたい」
「一緒に冒険しないにも関わらず仲間ですか?それってどういうことなのでしょう?」
「情報面等での後方支援だな。危なくないし、国同士の関係や国の事情が絡むようなことがあれば俺達では知ることができない情報も多いしな。俺達は政治的な情報を全く知らないからな。もし、俺達が国政を乱すようなことをしてしまいそうな時に、止められる人はいた方が良いだろう?」
「わかりました。それも1つの仲間の形というわけですね」
「ああ、逆に俺もメアリーが困っていたら助ける。仲間だからな」
こうして、俺達のパーティに後方支援という形で1人の仲間が加わった。
―――
その後、メアリーは城へ、俺達は宿屋へと帰った。
「それにしてもケン、良かったのかい?」
「何がだ?」
「姫様の告白を断ったことさ。姫様は美人だし、性格も良さそうだし、悪いところなんてないんじゃない?それにおっぱいだって大きいよ?」
「ジン、お前、そういう人が好きだったのか…?」
「何を言ってるのさ。オレは大きくても小さくても好きだよ。オレは美しい女性を愛しているから」
「そうかい。それで、告白を断ったことを俺は後悔しないさ。一国の姫が嫁さんだなんて俺には荷が重すぎるからな」
「ふーん。まあ、ケンが後悔しないっていうなら良いけどさ」
そんな会話をしているうちに夕日は沈み、エウロメの夜は今日も淡々と更けていった。




