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着のみ着のまま転生記  作者: 名波 和輝
7 ギャリットの日常
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7.5 エウロメのお姫様


 窓からの日差しが顔にあたって目覚めると小綺麗な天井が開いた目に映る。


 俺達は式以降、帝国が手配した宿屋に泊まっている。帝国が手配しているだけあって高級感のある綺麗な宿屋だ。しかも、宿代は帝国が払ってくれている。ただ書状を待っているだけの俺達には身に余る贅沢だ。


 目が覚めた俺が部屋を出ようと着替えているとドアがノックされた。カレンかジンだろうな。今日は仕事をするって約束していたし。


「はいはいっと、ちょっと待ってくれー」


 急いで上着を羽織(はお)り、ドアを開けると、そこにいたのはカレンでもジンでもなく、メイドさんだった。


「おはようございます。ご連絡もなく訪れてしまった無礼をお許しください」


「あー、はい。で、あなたは誰ですか?」


「申し遅れました、私はメイと申します。メアリー姫に仕えております」


「はあ、それで何の用でしょう?」


「姫様にお逢いしていただけませんか?」


 どうしてこんな話になっているか、さっぱりわからない。俺、姫になんかしたかな。


「わかりました。それで城に行けば良いんですか?」


「いえ、姫様はこの宿屋にいらっしゃっているので、城にお越しいただく必要はございません」


「そうなんですね。姫様は何の用でわざわざいらしたんでしょうかね?」


「申し訳ございません。今朝突然決まった事なので、私もそこまでの事情は把握していないと言うのが正直なところです。ただ、ケン様とお話がしたいと言う事でした」


「なるほど。それなら俺の部屋で話すって事で良いですかね?」


「そうですね、姫様に確認してみないことには返事ができないので、ただ今確認して参ります」


「わかりました。じゃあ部屋で待っています」


―――


 結局、俺の部屋で話すことが決まり、姫様は俺の部屋へといらっしゃった。


 宿屋の一室に姫とメイドがいるという若干奇妙な状況下に置かれている。目が覚めた時の俺は、数十分後こんな状況に置かれているなんて思ってもいないだろうな。


 それにしても姫様は美人だな。金髪ロングで青い瞳と日本人がイメージする外国人そのものみたいな見た目をしている。身長もなかなかに高く、俺よりもわずかに低いくらいだ。


 そんな事を考えながらも、とりあえず間を繋ごうと俺が差し障りの無いような日常会話の内容を考えていると、俺の部屋の扉が勢いよく開いた。


「ケン、いつまで寝てるんだい?今日は仕事行くって約束してただろ?…って、ケンが朝から部屋に女の子連れ込んでる!」


「そんな!ケンさん、不潔です。こんな日の高い時間から!」


 姫様の前だからか、ため息しか出てこない。


「はあ。2人共、今2つの意味で恥ずかしいぞ。まず部屋に入る前に中を確認してくれ、礼儀知らずだと思われるだろ。そして、別に俺は連れ込んでないし、ただ会話しているだけだ。2人の方こそ日の高いうちから何考えているんだ?」


「ケン様、こちらがジン様とカレン様ですね」


「はい、そうです。2人共普段は頼もしい仲間なのですが、お恥ずかしいところをお見せしました」


「いえいえ、お気になさらず。私は現エウロメ帝王の娘、メアリー・エウロメです。カレン様、ジン様、よろしくおねがいいたしますね」


「ジン・クロスです、どうぞお見知り置きを」


「ミヤモト・カレンと申します。お、お目にかかれて光栄です」


「あー、そんなわけで俺は姫様と話があるから、話が終わり次第そっちに行くわ。ところでメアリー様、御用件はなんでしょうか。2人に明確な時間を伝えておきたいので、お教え願えますか?」


「はい、今日はケン様に私の買い物に付き合っていただきたくて伺いました。もし皆様の方で既にご予定がお決まりでしたら、私は日を改めますが」


 姫様と買い物?


「ケン、オレ達は良いから姫様と買い物に行ってきなよ」


「そうですね。せっかくお姫様がいらっしゃったので、私もジンさんの言う通りケンさんはお姫様と買い物に行く方が良いと思います」


「そうか?2人がそういうならそうするか」


「皆様、申し訳ございません。私のわがままに付き合っていただきありがとうございます」


「いえいえ、とんでもないです。オレ達の仕事はいつでもできますから、お気になさらず」


 と、そんなわけで俺は姫様と買い物に行くことになった。


―――


 さて、買い物に行くわけだが。


「メアリー様、その服ではちょっと目立ちますね」


「そうですね。でも、ご安心ください。服を別に用意しておりますので、その服に着替えます」


 姫様がそういうと、メイさんが服を出した。確かにこれなら目立つことはないだろう。


―――


 姫様の着替えが終わり、俺達は街へ出た。


「メアリー様、護衛の者はお連れにならないのですか?」


「ええ、せっかく街に出ているのに供を連れては楽しめませんからね。それに何かあってもケン様がいれば心配いらないでしょう」


 そこまで信頼を置かれても困るな。


「俺のことを買い被りすぎですよ。それと様付けはやめていただけますか?一国の姫様に様をつけられるほどの人間ではありませんので」


「では、私のこともメアリーと呼んでください」


「それは無理ですよ。そんなことしたらお叱りを受けてしまいますから」


「お父様の命を救ってくださったケンになら、私もお父様も、そして国民も誰も不快に感じる者はおりません」


「そこまで仰られるならばわかりました。ではメアリーと呼ばせていただきます」


「敬語もおやめください」


「わかりま…、わかった。でも、それならメアリーも敬語をやめてくれよ」


「いえ、私はこの口調以外での話し方を知りませんで」


「…そういうことなら仕方ないな。わかった」


 俺達は街へと向かった。


―――


 買い物はあっという間に終わった。


 体感にしては一瞬だったが4時間ぐらい買い物していたはずだ。姫様に何かあったらマズいので常に気を張っていた。そりゃ時間なんて一瞬で過ぎる。


 買い物のルートとしては街を出てすぐに服屋へ行き、そこから飯屋、宝石店の順に回った。


 今は買い物もひと段落して広場でベンチに座って休んでいる。


「カレン、ジン、いるんだろ?」


 俺が名を呼ぶと広場の木の上からジンが、木の陰からカレンが出てきた。


「ケン、やるね。完璧に気配は消していたと思ったけど、なんでバレた?」


「いや、正直今出てくるまでジンの気配は微塵も感じなかった」


 元暗殺者なだけあって気配の消し方は一流だったな。


「じゃあ、なんでわかったのさ」


「そりゃ、カレンのせいだろ」


「あー、そうだね」


 一方でカレンはめちゃくちゃ下手だった。姿はチラチラ見えるし、音は立てるし、挙動不審だし。逆に気がつかない奴はいないだろう。


「カレン1人でこんな事考えないだろうし、カレンがいるならジンもいると思って鎌をかけたのさ」


「見事に一本取られたわけだね」


「まあ、御二方もいらっしゃったのですね。私全く気が付きませんでした」


「俺の仲間が何度も悪いな。そろそろ頃合いだし帰ろうか」


「ケン、少しお待ちください。帰る前に言いたいことがありまして」


「ん?何だ?」


 メアリーは深呼吸をして息を整えると、流れるようにこう言った。


「私と結婚していただけませんでしょうか?」


 俺は辺りの時間が止まったように感じた。

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