7.1 ギャリット散策
さて、やることがない。
カレンやジンと話し合った結果、俺はカレンに
「大金があるからと言って働かないで生活するのは良くないですよ。お金に依存してしまうことが良くないという意味だけでなく、生き甲斐もなく生きるだけなんて植物と同じじゃないですか?」
と言われてしまったため、ギルドの仕事は続けることにした。
しかし、2人は今日やりたいことがあるそうなのでギルドの仕事はまた後日となり、今日は自由行動となった。
そして、2人とは違って俺はやりたいことがないので、ギャリットの街を散策することにした。
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そんなわけで俺はこの街の人民区にある図書館を訪れた。
ギャリットはエウロメ帝国の帝都の他にも学者の街と言う一面を持っている。
それゆえに、街には図書館が置かれていたり、研究区なる研究所ばかりが密集している区画が存在していたりする。らしい。
そんなわけで図書館に行くことでこの世界の学力水準について学ぼうと思ったのだ。仮に元々いた世界の学力水準の方が高いのであれば、どこかで俺に有利に働くときもあるだろう。価値というものは差異から生じるものだしな。
―――
さて、1時間ほど図書館内にある本を見てみたが、数学、歴史学、生物学などの学問は概ね存在していることがわかった。しかしながら、学問のレベルとしては俺がいた世界には及ばなかった。
一方、魔法分類学、魔導解析学等のこの世界特有の学問も存在していた。
俺の所感になるが魔法分類学は面白そうだった。この図書館には魔法分類学の研究成果として魔法図鑑があり、そこに書かれた魔法の説明などの内容は俺にとって非常に興味深い内容だった。
現に様々な学問に目を通し終わった俺は今、魔法図鑑を見ている。言葉だけでは伝わりづらい魔法について説明図が描かれているので非常に理解しやすい。
そんな訳で俺が魔法図鑑を見ていると1人の若い男が俺に話しかけてきた。
「すいません、特別名誉騎士のヒイラギ・ケン様ですよね?」
「はい。確かに俺は柊健ですが、あなたは?」
「申し遅れました。私はこの街で研究者をしております、クリフ・スライです」
「研究者ですか。それで何か御用ですか?」
「いえ、用と言うほどのことではないのですが、近ごろ街で話題になっているケン様が私の研究分野の図鑑をご覧になっていましたので気になって声をかけてしまいました。私に協力できることがあれば是非お手伝いさせていただきたいです」
なるほどな。俺は意外と有名になっているようだな。ほんの数日しか経っていないというのに顔まで知られているとは軽く驚いた。
「ありがとうございます。では、お願いしたいのですが、研究区内を案内していただけますか?この図鑑を見ていたら興味を持ちまして」
「研究区の案内ですか…?」
「もしかして部外者が立ち入るのは難しいですか?」
「いえいえ、ケン様は特別名誉騎士ですので研究区内を自由に歩くことができるでしょう。ただ…」
「ただ?」
「研究区には多くの研究棟が建っているのですが、基本的に研究者はそれぞれ自分の在籍する研究棟のことしか知らないのですよ。そのため、ケン様にご満足いただける説明は難しいと思いまして」
「ああ、なるほど。軽く視察がしたいだけなので俺としては問題ないです。それに、魔法分類学の研究が見ることができれば満足ですから」
「承知いたしました。至らぬ点もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします」
「それと、お願いがあるのですが」
「もっと砕けた感じで会話していただけるとありがたいです」
「特別名誉騎士のケン様に一般庶民出身の一研究者に過ぎない私が砕けた言葉使いなど恐れ多いです。もしかして、私の言葉遣いが間違っておりますか?一般庶民出身なうえに研究しかしてこなかったので、目上の人に対する言葉遣いというものが苦手でして。聞くに堪えないとおっしゃられるのでしたら今すぐにでも辞めさせていただきます」
「いや、聞くに堪えないとか、そういうことではないのです。ただ俺はクリフさんが思うほど大した人間じゃないっていうことですよ」
「そんな、ご謙遜を。王から特別名誉騎士の称号を与えられた、ケン様の偉大さを示すにはそれだけで充分でしょう」
これは本当に謙遜でも何でもない。称号を得るきっかけとなった将軍達との戦いを思い返してみても、俺がしたことと言えばチームとしての方針を決めたことと囮になったことだけだ。讃えられるべきはカレンとジンの2人であって俺ではない。
「本当に俺は褒められるようなことはしていないですよ。ただ、素晴らしい仲間に恵まれただけです。だから、同僚と話すような砕けた言葉遣いでお願いします」
「わかりました。ケンさんの気持ちを汲みましょう」
「ええ、ありがとうございます。早速で悪いのですが、研究区の案内をお願いします」
「はい。では、付いてきてください」
俺はクリフさんの後を付いて歩き、研究区へと向かった。




