16.4 布石は根のように
正午を少し超えた頃、俺とメアリーは城へと帰って来た。
本当はもっと早く帰って来れたのだが、「せっかくケンと2人きりでのお出かけですから、もう少し楽しみたいです」と言うメアリーの意見を尊重しないわけにもいかず、5時間みっちり買い物に付き合った。
その道中でメアリーの診断書(数十枚に及んでいるので、もはや紙の束だが)を見せてもらっていると、ある共通点が見て取れた。
メアリーの異能は412個全てが超能力だった。それどころか、「上」や「極」と言った上位の超能力すら1つも存在していなかった。
それは、一芸に秀でてはいないものの、あらゆることができていると言うことを示しており、まさに「万能」と言う「魂の名前」に相応しい様であった。
後日、メアリーが異能の保持数の最高記録を更新したことが帝国中に知れ渡り、それに伴って、メアリーと並んで歩いていた俺も、そんなメアリーに並び立つ存在として帝国民の間で敬意を表されるようになるのだが、俺がその事に気付くのにはもうしばらくの時間を要する事になる。
―――
さて、俺達がカレン達の待つ部屋の扉を開けると、カレン達はでろでろに溶けていた。
いや、まあ、比喩なんだが、それほどまでに3人は恍惚の表情を浮かべて、椅子にもたれかかっていた。
曰く、メイさんに身体のありとあらゆるところを揉みほぐしてもらった結果らしい。
当のメイさんに話を聞くと、この程度は使用人の嗜みらしい。
いや、本職のマッサージ師だって、ここまでのマッサージはできないだろう、と思ったが、圧を感じたので、俺はとりあえず納得した。
それにしても、美味い飯を食って、上手いマッサージを受けるなんて、なんて贅沢だ。
さらに言えば、俺が知らないだけでもっと贅沢三昧だったのだろうがな。
それこそ、時間は5時間もあったわけだから。
「なあ、メアリー…」
「どうしました、ケン?」
「今日この3人をもてなすために、いくら使ったんだ?こんな贅沢三昧、とても俺の口からは言えそうにない額がかかっていると思うんだが」
「あら?たいしたことありませんよ」
「そうなのか?なら、良…」
「ケンと2人きりで半日お出かけできるのではあれば、安いものです」
俺が安堵したのも束の間、俺の言葉を遮って、ちょっと怖いことを言い出すメアリー。
今までの言動から考えると、実はとんでもない額がかかっているような気がする。
いや、これ以上の詮索はやめておこう。
世の中には知っちゃいけない真実がある。
「そ、そうか」
自分が目を背けた真実に慄きながら、俺は適当にそんな返事をした。
「ところで、ケン」
「ん?なんだ?」
「先程話していたデウトスにはいつ行かれるのでしょう?」
アイム・アホープさんのいる街、デウトスか。
アイムさんにゲオルクの素性を聞くならなるべく早い方が良いか?
「そりゃ、一応俺達が冒険者やっている理由に直結するわけだし、なるべく早く行こうとは思っているが」
「それなら、明日出発してはどうでしょう?」
「明日?そこまで急ぐ必要もないとは思うんだがな」
「本当に良いのですか?ケンがこうして手をこまねいている間に、ゲオルクは次のキメラを着々と用意しているかも知れませんよ。思い立ったら吉日、善は急げ。やると決めた時にとりかかるのが良いのではないですか?」
「でも、ほら、準備とかできてないしな。向こうで寛いでいる3人もな」
俺が向こうででろでろに溶けている3人を指差して言うと、どうやら会話が聞こえていたようで、カレンが答える。
「ケンさん。実はケンさんがいない間に、お城の人達が、色々と準備してくれたんです。あとはヤポンに戻ってマイさんに家の番をお願いするだけです」
「嘘!?」
「ケン、これで懸念する事柄は何もないのではないですか?」
「確かに、そうだが…。まあ、他の3人が明日出発で良いって言うなら、俺は別に構わないが」
俺が視線を向けると、3人は各々OK的なジェスチャーをしていた。
「問題ないようですね」
「ああ、そうだな。じゃあ、とりあえず、今日はヤポンに戻るとするか、それで家の番を任せてから、明日改めて帝都に移動して出発する感じで」
「ケン、待ってください。それでは『テレポート』の魔法を使う分、カレンの魔力を無駄に浪費してしまうのではないでしょうか?ヤポンに戻らず、帝都で寝泊まりした方が良いかと」
「まあ、それもそうだが、今から宿取りに行くのも面倒だしな」
この言葉に対しては、カレンの面倒も考えず、自分の面倒しか考えない俺最低だな、と後から思った。
「ここに泊まれば良いではないですか。と、言うより、すでに部屋のご用意はできておりますので」
あ、メアリーの中では既に俺を説得すれば終わりの段階なのね。
「そこまで用意周到なら、断ることもできないな。今日はみんなでここに泊まって、明日の朝から出発するとしよう。カレン、マイちゃんに家の管理お願いしてくるから、ヤポンまで連れて行ってくれ」
「はい、わかりました」
この後、カレンの魔法でヤポンへ行った俺は、マイちゃんに家を託し、帝都に蜻蛉返りした。
帝都はまだ昼間だったが、ヤポンはとっくに夜だったので、マイちゃんには少し悪いことをしたかもな。




