16.3 姫と2人きりで…
城を出て、ギルドまでの道のりを2人で歩いている俺とメアリーだったが、衆目を集めていた。
と言うのも、前にメアリーと街中を歩いた時とは違ってメアリーは変装しておらず、ドレス姿だからだ。
それに、あまりの自然な流れでこの時の俺は気付いていなかったのだが、城を出た時からずっと俺とメアリーは手を繋いでいたのだ。
そんな目立つ格好をしたメアリーと手を繋ぎながら街中を歩いていたなんて、思い返すだけで恥ずかしくて顔が赤くなってしまいそうだ。
そんなわけで俺達はむやみやたらに目立ちながら街中を歩いていたのだが、今思えばこれも全てメアリーの策略なんじゃないかと思う。
そりゃ姫様なんだから護衛の騎士(一応、俺の帝国内での立場は特別名誉騎士)と一緒に街を歩いているのはそこまで不自然なことではないのだが、今回は2人の位置関係が問題だ。
本来護衛である騎士は姫様の後ろを歩くものだろう。まあ、姫様が歩く道を切り開くと言う意味で前を歩くこともあるかも知れないが。
しかし、今回はそのどちらでもない。あろうことか俺はメアリーの真横を、それも手を繋いで歩いている。
果たして、これは姫様と護衛の騎士の位置関係であろうか。
答えはNOだ。側から見れば、カップルにしか見えなかったことだろう。
そんなわけで、俺は気付かぬうちに、帝都の人達を証人とした既成事実を作られたのであった。
―――
さて、そんな俺達はギルドへと到着するなり、まっすぐ異能の診断をしてくれる場所へと向かった。
「すいません、異能の診断書が欲しいのですが」
「では、こちらの石板に手を置いてください」
俺が手を置くといつもと同じように石板がうっすらと光って、受付の人が石板の下に敷かれた紙を取り出した。
「こちらの紙に書かれたものが あなたの先天的な異能になります。全部で…」
と、ここまではいつも通りだった。そう、ここまでは。
受付の人は途中で話すのを止めてしまったのだ。
「あの、どうかしたんですか?」
「26個」
「はい?」
「あなたは26個もの異能をお持ちです!さらにそのうち超体質が2個で、魔術も1個持っておられす!」
「は、はあ…?何かマズいんですかね?」
俺からしてみたら別段おかしなことでもないのだが、やたらと驚く受付の人。
「ギルドでの統計では異能の数が20を超える人は滅多におらず、1000人中2人と言った割合です。その上、今までギルドが集めた記録上では最大の異能保持数は24個。あなたはその記録を上回ったのです!」
「ありがとうございます」
個人的には「魂の名前」がある以上、いつの日か20個を超える日が来るなんてことは想像に難くないわけで。それを賞賛されてもあまり嬉しくなかったりする。
「申し訳ないのですが、あなたの診断書をギルドでの保存しても良いでしょうか?」
「はい、構いません」
「では、もう1度石板に手を置いて下さいませんか?」
「あ、はい。わかりました」
俺は言われるがままに手を石板の上へと置く。
ギルドの人が大きな声を出したせいで、他の冒険者から注目を集めてしまっている。
そして、周りで見ていた冒険者の1人は俺の正体に気付いたようで、「特別名誉騎士のヒイラギ・ケンじゃないか?」なんて声も聞こえてきた。
その声を聞いた冒険者達にも伝播するように俺の正体はバレ、「流石は特別名誉騎士様だ、俺達とは生まれ持った才能が違うわけだ」とか、「私はもしかして歴史的な瞬間に立ち会っているのかも」とか、少々オーバーな反応が聞こえてきた。
別にそんなスゴいことでもないと思うがな。
そうなって来ると、注目はそんな俺と行動を共にしているメアリーにも行くわけで、当然メアリーの正体もすぐにバレた。
そんなガヤガヤとした空間の中で、ギルドの人は黙々と記録をつけていたが、俺の名前を見た時に、こう言った。
「ヒイラギ・ケン…?あっ!あなたはもしかしてあの有名な特別名誉騎士のヒイラギ・ケン様なのですか!?」
「はい、そうですが」
周りの冒険者達とワンテンポずれた反応を見せるギルドの人に、俺はそう答えた。
「これは、大変な失礼を」
「あ、いえ、気にしないでください。大した者ではありませんから」
「流石は特別名誉騎士様、人間ができていらっしゃいますね」
「いやいや、謙遜じゃないですよ。ところで、それは何を書いているのですか?」
「ギルドの書庫に保存するための資料です。きっとあなたは、異能の最高数保持者として末永く賞賛されることでしょう」
「ありがとうございます。ちなみに、彼女の診断もしたいのですが、大丈夫ですか?」
「お連れ様の診断ですね。承知いたしました。では、お連れ様もこの石板に手を…って、メアリー様ではございませんか!」
いや、気付いてなかったんかい。
周りの冒険者達なんて、とうにその存在に気付いて、俺らの周りには既に人集りができているレベルなんだが。
驚く職員を横目にメアリーは指示された通りに石板に手を置いた。
石板がうっすらと光ったかと思うと、またもギルドの人は大きな声を出す。
「えっ、えぇっ!?」
「今度はどうしたんですか?」
いきなりの大声に耳を痛めた俺は少し怪訝な表情でギルドの人に問いかけた。
「め、メアリー様の異能の保持数が…」
そう言ったかと、思うと口をパクパクと魚のようにして紙を見るギルドの人。
どうやら数を数えるのに手間取っているらしい。
俺もその紙を覗きこむようにして見てみると、診断書はびっしりと文字で埋め尽くされ、真っ黒になっていた。
しかも、そんな真っ黒な診断書は1枚だけではない。なんと何十枚にも及んでいたのだ。
あまりの驚きに俺も頭が真っ白になる。
数分の沈黙の後、ギルドの人はようやく言葉を続けた。
「412…。メアリー様の異能の数は412個です!!」
そっかあ。俺の数の15倍以上かあ。
26個だとか、24個だとかがどんぐりの背比べのレベルだよな、本当に。
当然、こんな驚きを見せたのは俺だけではない。
その声を聞いた瞬間、周りの冒険者達も一気に騒ぎ出す。「流石はメアリー様だ」とか、「ば、バケモノだ」とか、「おい、そんなこと言ったってバレたら、処罰されるぞ」とか、ともかく俺の正体がバレた時とは比べ物にならないほど、多くの大きな歓声(?)がギルド中に響き渡った。いや、確実にギルドの外にも聞こえたであろう騒ぎ声だ。
当然、他のギルドの職員もこの騒ぎは何事かと集まってくる。
集まってきたギルドの職員達は診断担当の人に話を聴くと、騒ぎの沈静化が始まった。
一方で、メアリーに対しても、このギルドの支部で1番偉いであろう人が対応をしていた。
呆気に取られて、立ち尽くしていた俺はしばらく蚊帳の外だったが、衝撃が現実に追いつくなり、メアリーの所へ向かった。
「今日ばかりはギルドに応接室がないことを悔やむばかりです。メアリー様をこんな粗末な場所に留めてしまうのは、我々の不徳の致すところでございます」
ギルドの偉い人(どうやら自己紹介は終わってしまっているようで、この人の名前はわからない)はそんなことを言っている。
「いえ、お気になさらないでください。私達はただ異能を診断するために訪れただけですから」
やけに腰の低いギルドのお偉いさんにメアリーはそう言った。
呆気に取られていようがいまいが、俺はどの道蚊帳の外だったようで、ポンポンと話は進んで行った。
最後に記録保存用にもう1度メアリーが診断書を発行し、俺達はギルドを去った。
この日、ギルドから紙がなくなった。




