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着のみ着のまま転生記  作者: 名波 和輝
16 帝国の城の中
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16.1 次の目的地は?


 次の行動の指針を決めるべく帝都の城へと足を運んだ俺達4人。


 ヤポンの方はもう昼過ぎなのだが、帝都はまだ早朝だ。


 そんな大迷惑な来訪にも関わらず、今日はメアリーも時間があったようで、早々にメアリーは俺達の前に姿を現した。


 とりあえず、俺はメアリーに近況を伝えた。と言っても、ジンがパーティを抜けたことがメインではあったのだが。むしろそれ以外に伝えることなんて俺が寝込んでいたことぐらいだしな。


「そうですか…、ジンさんはパーティを抜けられてしまったのですね」


 俺の話を聞いたメアリーは溜め息混じりにそう言った。


 メアリーがここまで悲しむなんて思ってもいなかったが、やはり環境のせいもあってメアリーは仲間と言う存在を作るのが難しいことを踏まえると、そんな貴重な仲間が減ってしまったことを悲しむ気持ちはわからないでもなかった。


「ああ、ジンにはいつでも戻って来ていいと伝えてはいるから、もしかしたら案外すぐに戻って来るかも知れないがな」


「そうですね。私はジンさんが一刻も早く戻って来てくれることを待ち望むのみです。それで、今回のご用件は何でしょうか?近況を報告するためだけに来たわけではないようですが」


「いやいや、ジンが抜けたという重要な(しら)せを伝えるためなら、わざわざ足を運ぶのも(やぶさ)かでは無いぞ」


「ええ、そうかも知れませんね。でも、それならカレンと2人きりでいらすでしょう?わざわざアイリーンさん達も連れて来られたと言うことは、そうですね…、今後の行動指針の話し合いでもするおつもりですか?」


 メアリーの持つ(するど)い洞察力に目的を看破(かんぱ)されてしまう俺。


「ああ、そうだな。メアリー相手だと話が早くて助かるよ」


「あら?お()めにあずかり光栄です。ついでに、私の左薬指に指輪を着けていただけると嬉しいのですけれど」


「あー、生憎(あいにく)手持ちにないから無理だな」


「手持ちにあれば可能だと?」


「まあ、物理的にはな。仮に指輪を送ったとしても、それは左薬指に着けるためのものじゃないけどな」


「あら、それは残念です」


 メアリーは話が早くて助かるって言っている割にいつも時間がかかるのは、こう言った話をしてるからなんだよな。


 流石は一国のお姫様と言った所か、狙った獲物は逃がさない腹積もりなのだろう。


「ねえ、ケン。そろそろ本題に入ろうよ」


 俺とメアリーの間に割って入って来たのはウェンディだ。


 さりげなく俺を後方へと押して、メアリーとの距離を離すと、そのまま流れるような動きで俺の左腕を掴んだ。


 ウェンディからメアリーに送られる視線には「ケンから指輪をもらうのは、わたしに決まっているでしょ」と言うような意味が込められていた、ような気がする。自意識過剰か?


 ほんの一瞬、ウェンディとメアリーの間で火花が散る。


「そ、そうだな。そろそろ話そうか」


 やばい雰囲気を察した俺は、ウェンディに抱きつかれた左腕を するりとその拘束から抜きながら、慌ててそう言った。


「そうですね。それでケン、何か聞きたいことでもあるのではないですか?例えば、アイム・アホープ様の居場所とか」


「ああ、まさしくそれだよ。この間のカチュウさんの話で引っかかる点があってな。ゲオルクの生前(?)の知り合いをあたりたかったんだ。そんな提案が出てくるってことは、もうメアリーはアイムさんの場所を掴んでいるんだろう?教えてくれよ」


 さて、2人の人名が出てきたので整理しよう。


 まずはカチュウさん。カチュウさんは生前(?)のゲオルクを知る人の1人で、共に遺跡の探索等をしていたらしい。彼自身は元紫階級(上から2番目)冒険者という異色の経歴の持ち主である。


 俺が金(もう)けのために訪れた水晶の街・セートで出会った人だ。


 出会うよりも前に名前だけはメアリーに聞いていたので、ゲオルクの知り合いだと気付くことができ、色々と話を聞くことができた。


 次に、アイム・アホープさん。彼については、ゲオルクの元助手で今も研究者として研究を行っていると言う簡単な素性を知っているだけで、実際にあったことはないのでどんな人かは詳しく知らない。


 それこそ、カチュウさんと同じく、ゲオルクの知り合いだと、メアリーに教えてもらっているだけなのだから。


 この間は偶然にもカチュウさんに出会うことができたが、この広大な世界でそんな偶然に再び巡り会えることなんて期待するだけ無駄と言うものなので、今回はメアリーに直接確認をしに来たと言うわけだ。


 以前、メアリーにゲオルクの知り合いを訪ねた時には2人の名前しか挙がらなかった。


 まあ、いきなり何年も前に亡くなった研究者の名前を伝えて、その知り合いの名前が挙がってくるってだけでもメアリーは常軌(じょうき)(いっ)した記憶力を持っているのだが。


 そのため、その時は彼らの居場所についてはメアリーが別途調査をしておいてくれるということで話がまとまっていた。


 そして、今回そろそろその調査も終わったことだろうと踏んでメアリーに調査結果を聞きに来たわけだ。


 自由奔放(ほんぽう)に各地で仕事を行う冒険者のカチュウさんと違い、帝国の管理下に置かれている研究者であるアイム・アホープさんであれば、居場所を掴むのは容易だと思っていたのだが、この調査は案外時間がかかっていた。


 まあ、きっとそれなりの事情があるのだろう。


「ええ、彼が現在いるのは、帝国の中央にある都市、デウトスです」


「デウトス?聞いたことがないな。帝国の中心にある国なら、行ったことあってもおかしくなさそうだが」


「もしかしたら、ケンは帝国を横断する際、デウトスの北を通る街道を用いているのかも知れませんね」


「あー、そうかもな。それで、そのデウトスってどんな街なんだ?」


「デウトスは、そうですね…」


 メアリーは言葉に詰まる。


「なんだ?行ってはマズいのような街なのか?」


「いえ、そういう訳では、ただ何というか経済格差が大きくてですね。帝国の中枢(ちゅうすう)にいる者としては、あまり大きな声では言えないのですよ」


「何でだ?」


「その、事情を知っているのに、何もしていないように聞こえるではないですか」


「あー、確かに」


「デウトスの経済格差、そして、そこから派生する差別は目に余るものがあるのですが、解決するのは、なかなか難しい問題がありまして…」


「わかるよ。傲慢(ごうまん)頑固(がんこ)な奴らは本当に悩みの種だよな。こっちの意見を聞こうともしないし」


 まるで王都の貴族どもみたいってことだろうな。


「あ、いえ、そういう精神的なものではなくて、物理的に難しいのです」


 どうやら俺は何もわかっていなかったみたいだ。


「どういうことだ?」


「デウトスの中心部から東側のバーリンと呼ばれる地域には、『バーリンの穴』と呼ばれる大きな穴が空いているのです。それも、この城ですらスッポリと入ってしまうほどの、いえ、この城ならば5、6城は容易に収まってしまうでしょう。それほどまでに大きな穴です」


 この城が5、6城スッポリ入るってことは、深さは100m前後、面積的には東京ドーム3つ分くらいか?


 まあ、あくまで俺の見立てだから、正確性に確証はないが、それでも、そこまで大きくは外していないだろう。


「それで、その穴が街の経済格差や差別に関係するのか?」


「ええ、その穴の中は1種の貧困街なのです。貧困街と言っても街と呼べるような建物は(ほとん)どありはしません。廃棄物の山とその廃棄物で作った建造物が雑多に存在する、そんな区画です」


「なるほどな。でも、何でそんなことになっていんだ?」


「古来より『バーリンの穴』は廃棄物を廃棄するための場所として使われてはいましたが、その穴の中に人が住み始めるようになったのはここ30年程前のこと。全ては当時の街の長、パトル・ドラーによって発せられた言葉、『デウトスに利をもたらすことのできぬ者は、穴の中のゴミに等しい』が始まりとされています。そして、パトルはデウトスに利益をもたらさない者達を次々とバーリンの穴の中へと落としたのです。これがデウトスが現在のようになった経緯です」


「なるほど、(ひど)いことをする奴もいたもんだ」


「ええ、人道的に考えれば、ここまで悪どいこともないでしょう。しかし、その後のデウトスの発展を見れば一概に否定できるものも無いのです」


「穴に落とされたくない一心で、みんな懸命に働いたってことか?」


「まさしくその通りです。明確な敗北者を設定することで、残りの人民はそれこそ身を粉にするように働きました。結果として、デウトスは帝国への納税の額は年々額を増やしていったのです」


「いくら額が多くても、それが人を酷使(こくし)して得たものだと考えるとな」


「私も同意見です。その時代に私が生きていたならば、すぐさま廃止を命じていたでしょう。しかし、その時は私も生まれてすらいませんでしたから、どうすることもできませんでした」


「いや、メアリーのことを責めたわけじゃないんだがな。それにしても酷い政策だ。これじゃあ、富める者はさらに富み、貧しい者はずっと貧しいままじゃないか」


「実は、そうとも言い切れないのです」


「と言うと?」


「パトル・ドラーが考えたこの政策は突拍子のないものではあったものの、これは彼の平等で公平な性格に(そく)した政策だったのです。そう、それは、例え、優秀な彼の右腕であろうとも街の資金を着服すれば穴に落とし、彼の幼少期からの友人であろうとも傷害事件を起こせば穴に落とし、そして、莫大(ばくだい)な富を持つ由緒(ゆいしょ)正しき権力者であっても悪どい犯罪に関わっていれば穴に落としたということです」


「なるほどな。これなら確かに、格差は多少是正(ぜせい)されているかもな。でも、やっぱり貧しい人に対しては厳しい政策だよな。金持ちなら悪い事をしなければ良いだけなのに、貧しい人は利益をもたらすために常に頑張り続けなきゃいけないんだから」


「そうですね。でも、パトル・ドラーは穴へ落ちた者にも(わず)かな希望を残していたのです」


「僅かな希望?」


「ええ、穴の中の住民もある程度の功績を残せば、穴の外で生活する権利を得ることができるのです」


「そうは言っても、穴の中でできることなんて限られているしな。それは実際にはあってないようなものなんじゃないか?」


「穴の中の住民は外に出れますよ。もちろん許可は必要ですし、ある程度の制限はある上に、外出中に悪事を行えばその許可は2度と降りなくなりますが」


「なるほどな。人を酷使する酷い政策であることには変わりないが、そこまで理不尽(りふじん)な政策ではないんだな。それで、そんな街でアイムさんは何しているんだ?」


「研究ということまではわかっているのですが、なんの研究をしているかまでは私も把握できてはおりません」


「そうなのか。まあ、実際に訪ねて見れば、わかるだろうしな。とりあえず、行ってみるよ」


「ええ、道中お気をつけて」


「みんなもデウトス行くで良いよな?」


 気がつけば俺とメアリーだけで話してしまい、3人を置き去りにしてしまっていた俺がそう声をかけると、3人は一様に首を縦に振った。


「ところでケン、デウトスへの案内役は必要ですか?」


「確かに必要かもな。でも、地図とかがあれば、それで良いんだが」


「地図、ですか?あるにはありますが、もしかして今まで地図も使わず冒険していたのですか?」


「ん?ああ、言われてみればそうだな。何だかんだ言って、今まではほぼ一本道だったからな」


 メアリーに盲点を突かれた俺はそう言った。


「多くの街道は整理され始めているので、地図がなくても冒険できないことはないですが、安全のために持っておいた方が良いですよ。帝国の地図はお渡ししますね」


「悪いな。ありがとう」


「礼には及びませんよ」


 俺達の話を聞いていたメイドのメイさんが地図を持ってくるために、ガチャリと部屋の扉を開けた。


「あ、メイさん、すいません。ついでに紙と鉛筆を持ってきてくれませんか?」


 部屋を去ろうとするメイさんに俺は慌てて声をかけた。


「かしこまりました。大きさと枚数はいかがなさいますか?」


「あー、大きさはこれくらいで、枚数は5枚、鉛筆は1本でお願いします」


 俺が両手でA4くらいの大きさを示してそう言うと、「承知いたしました」と言ってメイさんは部屋を出て言った。


「ケン、紙と鉛筆なんて何に使うのですか?」


「まあ、見てればわかるよ」


 俺達はメイさんが戻ってくるのを待った。

読者の皆様、お疲れ様です。作者です。

早いもので実は今回が100部目でした。

これも熱心な読者の皆様のおかげです。

今度ともご愛読よろしくお願いします。


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