プロローグ
俺は天才だ。
多くの才能に恵まれていて、できない事など人生において何一つなかった。
そして、俺は死んだ。
そりゃ歴史に名を残すような偉人の中には短命の者も多くいたわけだし、天才である俺が短命である事もまた至極当然であると言えよう。
しかし、俺は今 生きている。正確に言えば蘇ったのであろう。元の世界ではない異世界に。
現状、俺は今までの記憶をほとんど持っていない。死んだショックで失ったのか、転生した時に誰かに消されたのかは定かではないが、とりあえず思い出に関する記憶はほとんど残っていない。
かすかに記憶の中に残っているのは、死んだ時の状況と死んだ後に誰かと話した事だけだ。
確か死ぬ直前、俺は学校から帰宅している最中だった。後ろから誰かに鋭利な物で唐突に刺されて死んだ。
我ながら呆気ない最期だとは思ったけれど、人の死とはそういうものだと常々考えていたから、思ったよりも冷静に逝けた。いや、突然の死に そうとしか考えられなかったのかもしれない。
そして、死んだ後に俺は誰かと話していた。白い髪の人物と話していたのだが、その人は年老いた爺さんだった気もするし若い美女だった気もする。ただ はっきりと覚えているのは、俺は その人に
「世界を救うために異世界に転生して欲しい」
と頼まれた事だ。何を言っているかはさっぱりわからなかったけれど、俺だってせっかく生まれ持ったこの多くの才能を発揮しないまま自分の存在が消え去る事には心残りがあったので快諾した。
そして気が付いたら、この草原の丘の上で寝そべっていた。
どうやら世界を救うための第2の人生が始まったらしい。