#5
巨大な樹。
それは童話に出てくるような、
非現実的な樹だった。
朽ちかけており、ホラーな雰囲気がある。
枝からはトランプの赤いダイヤが垂れ下がり、
幹から根にかけての方には大きな穴が空いている。
着ぐるみ泥棒はこの穴の中に入っていったようだ。
「よしっ」
そして息を整え、穴にジャンプした。
少年が何やら叫んでいる。
傍からみたら頭のおかしい人だろう。
躊躇いもなく落ちていくなんて。
でも私にはこの現実の方がおかしすぎて
何も考えずに飛び降りてしまったのだ。
周りには古ぼけた本棚があったり、
鼠が走ったりしている。
下を見ると白い動物が地面に着いているのを見つけた。
着ぐるみ泥棒め。
「成敗してやる……っ!」
上からは少年の叫び声が聞こえた。
なんだかんだで飛び降りてきてくれたみたい。
何十、何百メートル落ちて、やっと地面に着いた。
周りをみると、少し広い大広間のようだ。
ドアが何個かあり、
引っ張ったりガチャガチャやってみるが、
どうやら開かないようだ。
すると、一つの三脚テーブルを見つけた。
上には小さい金色の鍵と
《ワタシヲオノミ》
と書かれた瓶が置いてあった。
「これは……?」
瓶の中には液体が入っていて危ない雰囲気だ。
飲まないようにしよう。
他に何かないかと見回すと
鼠が走ってカーテンの後ろに行ったのが目に入った。
その後ろには何故か梟などの鳥や、蟹やらが
参列していた。
近寄ってみると、
そこに動物サイズ……猫用のドアのような物を見つけた。
動物達はそこから外に出たいらしい。
鍵はどこにあるのかと話している。
カーテンから覗いている私を見て
「キャー、人間だ!」と騒いでいる。
…………。
……騒いでいる?
おかしい。動物が人間のようなことを……
「ドードーさん、早く!」
「鍵が見当たらないんだ!」
もちゃもちゃとして何処か可愛げがあるが、
喋っている。
「何してんの。」
「うわぁ!?」
「わぁぁ!人間が増えたぁぁ!」
後ろから急に声をかけられてびっくりしたが、
私の声に動物達もびっくりしたようで
パニック状態になっている。
「ちょっと、お姉さん……」
振り向くと置いていった少年が
呆れた顔をして立っていた。
すると少年は足の近くにいた蟹を
なにこれ、という感じで軽くつまみあげた。
「そこの人間!私を食べようとするんじゃない!!
生で食べるのか!?茹でて食べるのか!?」
「は?喋ってる……?」
ギャーギャーと喚く蟹をじーっと見ながら言う。
周りの動物は、
蟹さんをいじめるのはやめて!!と叫んでいた。
少年は蟹を下ろした。
ドアの前のドードーは「鍵は!?」と周りを探っている。
私はテーブルの上に置いてあった金色の鍵を見せた。
「もしかして、これのこと?」
ドアにさして、カチャリと開けた。
「おお!これは悪い人間ではなさそうだ!
ありがとう!」
頭を下げて礼を言われる。
鳥に礼を言われるのはなんだか変な感じだ。
それに吊られて周りがお礼を言う。
「そうだ、お礼に彼女にはお茶会に招待しよう」
「それはいい!賛成だ!」
がやがやとしているが、
私はどうやらお茶会に招待されるらしい。
着ぐるみ泥棒を一刻も早く捕まえたいが、
他に当たってみる所もないので
行ってみることにしよう。
「でも彼女は大きくてこのドアを通ることができないよ。」
そんな動物の声が聞こえた。
周りは確かに、という感じで悩んでいる。
「じゃあ彼女が小さくなればいいんだよ!」
楽観的な声が聞こえた。
周りはまたもや賛同してうんうんと頷いた。
「でも、小さくなるって……」
普通に考えて人間の身長は
そんなに簡単に伸び縮みできない。
できていたら私はもっと大きくなって
モデル体型にしている。
悩んで周りをみると少年が
《ワタシヲオノミ》と書かれた瓶を手にしていた。
「お姉さん、これじゃないかな!」
キラキラした目で私を見ている。
こういう目をしたときはお話に関係したことが
あったときに見せる目だ。
「家に居たとき、話してたじゃん!
僕たちの境遇、お話とそっくりだよ!」
ぐいっと近づいきて、瓶を渡してくる。
少年は私が受けとらないのを見て
少年は瓶をちびっと飲んだ。
そして「あ、大丈夫だよ。美味しい」と私に渡した。
「いや、君が口つけちゃった時点で全然大丈夫じゃないよ!
気にしないの!?間接的に!」
私がそういうと
「何なの……」と呆れた表情をして
瓶の半分くらいを飲んで私に押し付けた。
すると、少年の体が縮んでいく。
だんだん小さくなって動物のドアを通れるくらいになった。
「あ、ちょっと!」
「さっき置いてきぼりにした仕返し」
ふっと笑って
「早く飲みなよ」と催促してくる。
年頃の男の子は怖い。
お姉さんなのに少年の方が一枚上手じゃないか。
悔しくなって一気に瓶を飲み干した。
変な味がするが、飲めないこともない。
甘い香りがして結構美味しい。
そして小さくなって動物と同じ目線になった。
どんどん動物が外に出る。
庭のような所で道が続いている。
薔薇があったり、いろいろな植物が生えている。
手入れがされていないのか、
ぐちゃぐちゃとしたお庭だった。
小さくなった反動でクラッとする。
フラフラとすると、少年が支えてきた。
「ほら、早く行こう」
手を引かれて連れていかれた。
なんだか、また年下のくせに、とムカついた。
私の方がお姉さんなのに。
「そうだ、お姉さん、
僕が木の穴に入る前のことなんだけど。」
ふっと思い付いたかのように
こっちを見る。
何か話したいことがあるみたいだ。
「木の穴にお姉さん入っていって、
僕が少し怖くて躊躇したときなんだけど……」