#3
「最後までイケメンだった……って何。
そこまで男に飢えてるんだ……」
哀れんだ目で見つめてくる少年は
「そろそろ行かないと」と丸太の椅子から下りた。
「行くって何処に……?」
「ついて来れば?
……街の中歩くからそのキグルミってやつ脱いでよ?
それで一緒に歩くの嫌だから」
上から目線で言われた事に少しイラッとしながらも
頷いて頭を外す。
トリップしたのなれば
これから何をどうすれば良いか分からないので
私はついて行くしかない。
中に着ていた白Tシャツと動きやすい黒ズボンに変身した私は
黙って先を歩く少年についていった。
デカい着ぐるみは、持って歩くことは難しいので
少年の秘密基地らしい先程の場所に置いていった。
愛する商売道具を置いていくのは心が痛んだが
絶対に見つけられない秘密基地らしいので
泣く泣く置いていった。
路地裏から出ると、確かに遊園地ではない、
西洋の街の中だった。
市場でフルーツを売っていたり、
男の人達が端の方でお金を賭けて何かのゲームをしていたり。
中世の雰囲気で、遠くに時計台と大きなお城が建っていたりしていた。
「ねぇねぇ、まだ君の名前聞いて無かったよね」
「別にいいよ、自己紹介なんてしなくても。
どんな名前でも呼んでいいから。」
後ろから声をかける私にめんどくさそうに答える。
「えー、じゃあ少年くんって呼ぶね?」
残念。少年くんって言いにくいんだけど。
変なあだ名だし。
すると市場のおじさんがこっちに話しかけてきた。
「おー、リデル!今日も可愛いなぁ!」
「っ、やめてよ、気持ち悪いなぁ」
ニヤニヤしながら話しかけてくるおじさんに
気持ち悪いと反抗している。
反抗期なのか。
「リデルくんっていうんだ。」
と言うと嫌そうな顔をしたので
結局『少年くん』と呼ぶことにした。
何分か歩くと、開けた道にきた。
さっきまでの賑やかさもなく、閑静な住宅街だった。
「何処に行くの?」
横に行って歩くが「もうすぐ着くよ」といって
少年はただ歩いている。
少し拗ねて私も喋らないようにした。
もうちょっと愛想よくしてたらモテるのになぁ。
黙って歩いていると少年が急に立ち止まって
「ここ」と指差した。
それはごく普通の家だった。
周りと比べると少し小さいかな?というだけで、
普通の家だ。
「あれ、少年くんの家?」
「うん、ほんとにトリップしてきたんなら
住む場所無いでしょ。
少しなら僕が親に頼んで泊まらせてあげる。」
「ほ、ほんとに!?」
「それにお姉さんの話、面白いからもうちょっと聞きたい」
とボソッと言った。
その顔は少し赤くなっていた。可愛い。
ドアを開けて「ただいま」と少年が言う。
親に言ってくるからと先に少年だけが入った。
中から「ええっ!?友達!?」と嬉しそうな声が
聞こえたのは謎だったが、とりあえずOKを貰えたみたい。
お邪魔しますと言って入ると
お母さんらしき人がバッと飛び出してきて、
「女の子なの!?」と驚かれた。
「え、あ、はい。よろしくお願いします。」
頭を下げる。
「リデルったら、
やっと友達できて良かったわねぇ
こちらこそよろしくねぇ、
この子、少し生意気なとこあるから
愛想尽いちゃうかもしれないけど。」
「もうやめろよ」
キッと睨んだ少年くんにお母さんは口をつぐむ。
すると私くらいの女の人がこちらを見ているのを見つけた。
こんにちは、と一応挨拶すると、
ニコッとして遠くへ行ってしまった。
少年くんによく似ていてお姉さんかな?と思った
「早く来て。」
機嫌が悪いご様子の少年は
足をトントンと鳴らして私を急かした。
階段を上り、少年は右の部屋を開ける。
左と正面にも部屋があり、
二階の部屋は三つみたいだ。
通されたのは少年の部屋で
家具は白と黒でまとめられていた。
こういう年頃の子の部屋に入るのは初めてで、
なんだかお決まりのベッドの下とかを確認したくなる。
本棚があり、そこには教育上よろしくない本……もなく、
シェイクスピアなどの有名な本があった。
ちなみに私はシェイクスピアといったら
ロミオとジュリエットしか知らない。
ボフッとベッドに座った少年は
「なんか話、して。」と隣をぽんぽんと叩いて
隣に座るように言った。
「話……んー何話せばいいかな。」
悩んでいると、パッと思いついた。
「……不思議の国のアリスって知ってる?」
「ん、知らない。どんな話?」
さっきまでご機嫌斜めだった少年に
笑顔が戻ってきた。
「じゃあ、ある昼下がりのお話です。」
私は目を輝かせた少年に得意げに話してみせた。