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#1

「『化け物』が!!」



私を指差す主婦の人。




「この街にまで侵略してくるとは……!」




そして騎士の鋭利な剣が私の目の前に。




「うわぁ!!私、実は人間なんです!!

許してぇぇぇ!」




腰を抜かして後ろ向きで走る。

騎士の人は血相を変えて容赦なく剣を振ってくる。


実は人間という着ぐるみにはとんでもない暴露をしたが、

聞く気はないみたいだ。



とりあえず死にたくないので体制を変え、

前向きで全力で走った。

道なんてものは気にせず。




何度か角を曲がった所でなんとか振り切れたみたい。




「はぁ……はぁ……」




来たのは薄暗い、

広場のような所だった。



周りに誰も居ないのを確認して

頭を脱ぐ。


汗をかいた、蒸れた空気のクマの頭は

暑くて気持ち悪い。




フッと心地好い風が吹く。

そういえば今の季節は秋だった。


着ぐるみには最も恐れられる『夏』というものを

熱中症もなく乗り切り、

やっと涼しい季節になってくれたのだ。




「お姉さん、何してるの?」



「うわァァァ!?!?」




後ろから話し掛けられる。

先程まで逃げていたので騎士の人が来たのかと思えば

振り向くと中学生くらいの男の子だった。


私のびっくりした拍子にあげた奇声に

少年は怯えてしまった。



薄汚れた白いシャツにカーキのズボン、

ターコイズ色のくもりのない瞳、明るめの茶色の髪。

顔は整っていて将来有望の顔だ。




少し見とれていると、



「な、なんか変な格好だね……?」



「ええっ!?あ、これは、その……」




格好を指摘されてしまった。


確かに今の格好は

着ぐるみの頭を抱え、もふもふの身体をした、汗だくの女……


少し怖い。





「あ、ごめんね!怖いね!

ちょっと変身するから後ろ向いてもらっていいかな?」




「あ、うん。」





すかさず頭を被り、「ででん!」と

効果音を出し、可愛いポーズをとる。





沈黙。





「……さっきの被っただけ……?」



「い、いや、違うよ?

僕はクマちゃん!さっきのお姉さんは幻覚さ!」




少年の冷静な指摘に動揺する。

私が馬鹿みたいだ。



「……何、そのクマちゃんって。

外の『化け物』の真似したの?


お姉さん結構趣味悪いね……」



「ば、化け物?」




広場にあった木の丸太に腰掛けた少年は

私に対して明らかに引いている。


さっきの人にも化け物と呼ばれたが、

ゆるキャラを知らないのだろうか。


変な人たちだ。



「外の『化け物』を信仰してる変な宗教があるって聞いたけど

本当に居たんだね。変な人。」




宗教……?




「え、私、宗教は信仰してないよ!


っていうか、着ぐるみを知らないなんて

そっちの方が変な人って言いたいんだけど!」




「え?『キグルミ』っていうのを知らないと変なの?

初めて聞いたけど……」



『着ぐるみ』のイントネーションが変だ。

本当に着ぐるみっていうのを知らないみたい。




「それと!


ば、化け物って何?どこからどう見ても可愛いクマちゃんだよ!」



くるりと回ってポーズする。

少年は『は?』という感じで見ている。





「え、もしかして、『化け物』って知らない?」




「ん?化け物は化け物でしょ?

そ、それぐらいの言葉は知ってるもん!」




「外の世界の、『化け物』ってことだよ?」





頭が混乱する。

少年の言っている『化け物』と、

私の言っている『化け物』は違う意味……?




「え、ちょっと待ってごめん、

よくわかんなくなってきた。言葉を整理しようか。」




「うん、まず、僕の言っているのは、『外の世界の化け物』は、

他の言い方をすると、モンスター、とか。

大人はクリーチャー、なんて言い方もするね。


お姉さんの着ているのは、『クマのキグルミ』っていう、

モンスターってことでしょ?」





「え?まずさ、外の世界って何?ここも外じゃない?」





「……外の世界って、ここの街の囲いの外って意味だけど。


もしかして、お姉さん世間知らず?引きこもって生きてきたの?

それか、他の世界から転移、してきたとか。」




目の前の少年が言っている事が分からない。


すくなくとも、私はニートではないし、

転移してきたとか…………





「……ん、転移?」





転移ってなんだっけ。


まず、私の住んでる世界があって、

それからなんやかんやして、

その姿のまま、異世界に来るってこと?


あんまり転生との違いが分からないけど……

多分トリップと同じ意味。


そんな可能性は……?




遊園地でのあの事件で死にかけて


主婦の人に会って、化け物って言われて

騎士の人に殺されそうになったり、

目の前の少年が意味不明なことを言っている。



有り得る。





私の職場の遊園地としては、暗めの路地が多い。

路地の端にゴミが落ちていたり、汚かった。


遊園地には完璧な清掃員さんがいるので

ゴミが落ちていることは少ない。



職場の遊園地とは、違う。




「もしかして……?」



「……なに?」







「私……トリップしちゃったかも!!」

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