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第6話「盗賊退治」

 足場固めが終わりました。

 そろそろ盗賊退治のほうにかからなければいけませんね。



 この一か月何もしてなかったわけではありません。

 地理を調べて偵察を繰り返しています。

 カルラ隊Aに自由裁量を与え、交通を確保し、包囲するだけで取れそうな拠点は奪い取ったりですね。

 当然ですが本拠地への攻撃は許可していませんよ。

 それは私がやるのです。

 

 盗賊もいろいろ対抗していたのですが、勢力自体はあんまり変わってないようです。

 びびって離散したり、飢民を取り込んで増えたりのとんとんといったところ。

 まあ逃げちゃった人はそこそこ賢いんじゃないでしょうか。


 ハムスター領主ブリトラの暴虐を訴え、自治権を認めてほしいという書簡が届いたこともありました。

 できるわけがないので無視ぶっちです。

 人が欲しいものはみんなが欲しいのですよ。

 だからそれを巡って醜い争いが起こるのです。


 価値あるものの傍らには常に屍があります。

 逆に言えば、人が傷つけ合って奪い合わないものに大した価値はないのです。


 盗賊が持っている素晴らしいもののうち、貴族が手に入れられないのは友情ぐらいでしょうか。

 友情というのは同格の間での共感という形でしか成立しないので、盗賊と同じ貧困層にならなければ手に入らないもの。

 友情は私も欲しいです。

 ただし、盗賊に成り下がりたい貴族なんてほぼいませんけれど。


 友情よりも利権のほうがはるかに価値があります。

 原作の言葉を借りれば『友情よりも金でつながった関係のほうが強い』というやつですね。

 友情は金で買えない。

 それは典型的な負け犬のセリフです。

 そもそも貧乏人と金持ちは違う人類なので、買う買わない以前に友情の成立する余地はありません。


 まあ、彼ら盗賊が私たちカルラ公爵軍を打ち破り、対等な関係を作り上げることができたなら、その時は友達にだってなれるかもしれませんが…………できるもんならやってみろっていうんですよ。

 主人公にならできることでも、お前らには無理なのだと教育してあげます。




 さて、盗賊退治ですが、できるだけ被害が出ないように進めねばなりません。


 この場合の被害には徴兵された人は含まれません。

 被害が出るというのは正規兵が死ぬということです。


 一般兵だけ突っ込ませて戦わせることができればいいのですが、さすがにそれは不可能です。

 どうしても正規兵を入れて背中を押してあげる必要があります。

 そんなことをすれば正規兵だって死にます。

 一般兵なんていくら死んでも全然惜しくないけど、正規兵が死ぬのはめちゃくちゃ困ります。

 彼らは公爵家の発言力そのものと言うべき存在なのですから。


 募兵に応じる人というのはある意味盗賊と同じ社会階層でして、くいつめた人々が軍隊めしにたかっている状態だともいえます。

 くいつめた人々はどこにでもいるので簡単に補充できます。

 逆に正規兵の補充は困難です。

 正規兵には他者を納得させるだけの実力とか、十分な従軍経験とか、訓練施設での教育、上流階級からのコネとかが求められるのです。


 人を雇って今日からお前が正規兵、ということも絶対に不可能ではないですが、それをやると自軍が盗賊化してしまうので、ものすごく統制の取りにくい部隊になってしまいます。

 極端な話、城攻めを命じても無視して動かない、なんてことにもなるわけです。


 ここを踏まえて、これからはじまる城塞都市メジャーハでの攻城戦をみていきましょうか。




 偵察によって判明した落とすべき重要拠点なんですけど、城塞都市メジャーハを中心に複数の砦があり、その各々に盗賊が詰めているようですね。

 先に城塞都市メジャーハを落とせば他の砦は自然と立ち枯れるでしょう。

 逆にメジャーハを最後に残せば、先に砦を落としていくという手間はかかりますが、メジャーハの攻城戦自体はだいぶ楽になります。


 被害を無視してメジャーハを攻めるか、手間をかけて他の砦を落とすか…………悩ましいジレンマです。


 よし、決めました。


 すぐに落としましょう。


 被害は減らしたいですが、戦後処理とかにも色々時間がかかりますからね。

 時間がかかればかかるほど経費もかさむわけですし、最大都市ザビコニンに軍がいない期間が続くと政変が起きる可能性もありますし。

 迅速拙速に進めるのがベターかと。

 

 カルラ全軍を集めて城塞都市メジャーハに進みます。


 野戦で決着をつけられるのがベストでしたが、さすがに盗賊もバカではないので籠城しています。

 メジャーハの城壁はそんなに高くはないですが、それでも苦労はしそうですね。


 実のところ、原作主人公とかならローリスクで勝てる方法を思いつくのではないでしょうか。

 たとえば先に砦を落として盗賊を追い立て、城塞都市に工作兵を紛れ込ませ、中から門を開けたりとか。

 相手の裏切りを誘発したりとか。

 偽文だけで内部崩壊させたりとか。


 ただ、これは私のデビュー戦ですからね。


 小細工を使って勝ってしまうと、変に策士のイメージがついて後々やりにくくなるかもしれません。

 正攻法で勝てるんなら正攻法のほうがいいのです。

 力でねじ伏せるほうが人々の評価も上がりやすいですし。


 原作主人公ならば主人公補正があるので作戦成功率はほぼ100%なんですけど、普通人の私がやれば2割を切ってしまいます。

 そんなもののためにあれこれ手を打つのはばからしいですからね。

 失敗すれば私の発言力も減りますし。

 ただでさえデビューしたてで少ないんだから、できるだけ温存しておかないと。


 とゆーわけで、超正攻法で攻めます。


 カルラ隊Aを東門に配置し、南大門にはカルラ本隊、北山のからめ手にはカルラ隊Cの一部を置きます。

 残りはカルラ隊Bと合流させて西門から離れて布陣しておけばいいですね。

 西門から逃げ出す盗賊達をガンガン追撃してもらいましょう。


 私たちに対して死ね死ね光線を出しているハムスター子爵軍もいちおう連れてきてますが、この人たちは使いようがないですね。

 彼らが勝てるんならそもそも私たちは必要なかったわけですし。

 かといって最大都市ザビコニンに置いといたら裏切って独立しかねません。

 いくらカーリー文官が有能でも、カルラ隊不在の状況でそれに対抗するのは無理があるでしょう。


 置き場所に困ったのでカルラ本隊の添え物として連れまわすことにしました。

 この判断の是非はわかりません。

 場合によっては逆に襲われることさえありえます。




 さて、最初はとにかく総攻撃をかけるしかないわけですが。なんか楽な方法とかないですかねえ。


「ガネーシャ将軍、おいしい作戦とかあります?」

「ハムスター子爵軍を使うのがよろしいかと」

「あいつら使えるんですか? 負け癖がついた部隊とか、こっちの士気まで減るからかかわりたくないんですけどー」

「督戦しましょう」


 ガネーシャ将軍はあたりまえのようにいいました。

 う、うわぁ。

 さすがの私でもドン引きです。

 公爵家の軍勢じゃないからって無茶苦茶いいますねこのひと。


 とはいえ、手持ちの兵を傷つけずに済むならそれにこしたことはないですね。


 ハムスター子爵軍のみなさんに南大門の攻撃を命じます。

 嫌そうな顔でぞろぞろ連れ立って進んでます。

 城壁にとりつこうとしたところで上から矢の雨、石の雨、油壷、溶融金属なんかが降り注ぎ、無数の悲鳴とともに死体が量産され、同時に士気が決壊しました。


 ハムスター子爵軍はあっさり反転。

 こらえしょうもなく逃げ出してしまいました。


 …………まったく、これだから負け犬は。


 とはいえ想定範囲内。


 最初から彼らの奮戦なんてものには期待していなかったので、カルラ督戦隊を前面に出して矢をつがえ、一斉に弓撃を浴びせます。

 率先して逃げ出していたハムスター子爵軍の雑兵たちに鉄の矢が突き刺さり、ハリネズミ状態になってばたばた倒れました。


「逃げれば殺すぞ!」

「戦え!」

「逃げるな! 戻れ! 城壁へ進め!」


 ハムスター子爵軍は泣きながら反転して城攻めをはじめました。


 彼も必死。

 我も必死です。

 城門を破られれば殺されてしまう城兵のみなさんも、逃げれば殺されてしまうハムスター子爵軍も死力を尽くして奮戦しています。

 でもこれはどうなんでしょうね。

 いちおう鍵梯子などは固定されつつありますが、しょせんは負け犬のやっていることなので。


「…………いけそうですか?」

「微妙ですね」

「本陣を前に進めなさい」


 カルラ本隊にも矢が飛んでくる距離まで来てしまいました。

 正規兵でさえも緊張に震えています。

 でもさすがに、私がいるここよりも後ろに下がることはできませんよ。


「とつげき!」


 かかれー、かかれーと叫びます。

 みんなで唱和させます。

 カルラ本隊の食客さんとか正規兵さんとかが矢よけのハムスター肉壁軍団を突っ切って鍵梯子をかけあがり、城壁の上に躍り出て門兵を切り殺し、ついには中で大暴れして城門を押し開くことに成功しました。


「とつにゅうせよ!」


 私の子供っぽい高い声が戦場に響きます。

 聞こえにくいので周囲にも唱和させますね。

 突入、突入とどんどん兵隊がなだれ込み、砦の兵士たちを斬り殺しまくってくれました。


 食客のヤクシャさんやラトリさんは相変わらず獅子奮迅の活躍です。

 正規兵でさえてこずるような賊将に次々挑みかかり、カカカッ、とよくわからない金属音がしたと思ったら次の瞬間には敵将の腕や足が落ち、気が付いたら胴体が滑って二つにわかれていました。

 あんなのとやりあう相手は災難ですね。


 門の奥へと突っ込んでからは魔力を感じることもできなくなりましたけれど、きっとみなさん、楽しく暴れていることでしょう。




 都市があかく燃えています。

 西門から逃げ出した賊がカルラ隊Bに追い散らされています。

 東や北からもカルラ隊ACが突入し、あとは単なる略奪凌辱劇へと移行しつつあるようです。


 盗賊に支配されたあげく、助けに来たカルラ隊からも襲われるって……住民のみなさんは呪われています。

 超不幸です。

 しかし私の統率力では止められないので諦めてもらうしかないですね。

 ごめんー。


 いやまあ、どんなけ統率力のある人でも、この状況で略奪を止めるのは無理ですけど。


 火事場泥棒は戦につきものです。


 安全な場所にいる人には理解不能でしょうが、死と隣り合わせにいる兵士って少なくない割合で常識が壊れちゃってるんですよね。

 傷の痛みを止めるためにアドレナリンとか出まくりです。

 明日があるのかさえわかりません。

 こういう人たちに悪いことはダメだぞ、とか言ってもまあ無駄でして、見せしめに何人か処罰してさらし者にするぐらいが現実的な対応ということになります。


 それさえも私はしませんけどね。


 だってあんまりにも可哀想じゃないですか。


 矢が刺さり、皮膚は焼け、小便を垂らしながら血臭ただよう戦場を進んでいるような人たちに、安全な場所にいる私から言えることは何もありません。


 今の私は軍人なので、被害者よりも加害者の立場でものを考える悪癖があるのです。

 日常に戻った時にそんなことをしている人は治安維持の名目で処刑しますけれど、今だけは目をつぶります。

 もちろん奨励はしないし略奪厳禁ではありますが、悪いことをしても捕まらない犯罪者天国とでもいうべき状態ですね。


 犯罪者を取り締まるための力を使って殺し合いをしているわけですから。


 どうしても無法地帯になってしまうのです。


 いちおう宝物庫や物資倉庫を探して保全するための部隊は送ってあるのですが、はてさて、どこまで効果があることやら。


 南大門の周辺には血と金属と糞尿の混じったにおいが充満し、転がっているヒトガタは生きてるのか死んでいるのかもわかりません。

 真っ二つになった上半身だけでぴくぴく動いている人は生きているほうに分類してもいいものなのでしょうか。

 不気味でグロくて気持ち悪いです。

 あーやだやだ。

 さっさと帰ってお湯につかって休みたいぜ。


「そろそろ終わりですか」

「おそらく」

「全体の2割も殺せば、人間は素直になれますからね」


 


 ほかの砦は簡単に落ちました。


 城塞都市メジャーハの西門から逃げた兵が流入してるので数自体は増えましたけど、これはむしろありがたいぐらい。

 負け犬が混じっているほうが砦は落ちやすいのです。

 そもそも戦いにさえならず、交渉で決着がつきました。


 反乱軍の主だった将の首を投げ込み、降伏すれば命は保証する、断れば他の砦の交渉にはお前たちの首が加わる、といったところ、ごく普通に武装解除して捕虜になってくれました。

 素直なのはとってもいいことですね。


 捕虜の処理に関してはいろいろ考えなければなりません。


 ハムスター子爵領は鉱物資源が豊富なところですし、新大陸や王都との貿易なんかはできるだけスムーズに進めたいですからね。

 街道整備や採掘所などに振り分けてタコ部屋労働をしてもらうことにしましょう。

 逃げるのに失敗した大部分の人は5年以内に死ぬでしょうけれど、もともと盗賊なんて明日をも知れない身の上。

 世界からいらないと言われた経験のある人たちです。

 死んでも誰も泣かないことうけあいですね。


 むしろ世間の役に立って死ぬ場所を与えるというのは為政者としては妙手ではないでしょうか。

 少なくとも最低限の食べ物だけはありますし、これこそ誰も困らないウィンウィン、いいことしたなあって思えます。


 ただ、それを自分でやる必要はありません。


 このへんの奴隷管理については公爵家の事業でやるには面倒すぎですし、貧困ビジネスについては適当な商人さんを間にはさんで実施するべきでしょう。

 ムチの打ち方とか手枷足枷の使い方とか、私たち貴族はあんまり詳しくないですし。


 まあぶっちゃけ、全員首をはねちゃったほうが楽なんですけれどー。


 それをやると人望を失ってしまいますからね。


 人を死ぬような状況に追い込むことと、人を直接殺すことの間には大きな隔たりがあります。

 追い込むだけなら別に殺人ではありません。

 それは人が生きている以上誰でも多かれ少なかれやっていることなのです。

 餓死する子供に食べ物を与えないでぬくぬく生きてる人間は全員同罪だと言えないこともないです。


 直接殺した場合は別です。


 人の非難というものは最後にトドメを入れた人間に集中します。

 これはその人の死亡に直接的な責任を負っているわけですから当然のことですね。

 公爵令嬢も人気商売ですから、あんまりアイドルイメージに傷がつくようなことはしたくありません。

 ただでさえ今回、ちょっぴり汚れ役を演じすぎちゃった感はあるのです。

 

 だから、たとえ盗賊であっても殺すのはよくありません。


 私のあずかり知らないところで死んでくれるか、もしくは有効活用できる人は資源として有効活用しておくのがよいでしょう。


「捕虜の人たちですけど、見目麗しい人はわけてくださいね。領に持って帰ります。もちろん頑健な人、魔力量の多い人、明らかに有用な特殊技能を持っている人も別枠です。10人単位で簡単に面接して、それでわかる範囲だけでいいですけど」

「ご随意に」


 何人かの最上級品は父上に献上するとして、あとはオークションで売りさばくのが基本になりますかねえ。


 よく働いた人に対してご褒美に与えるということでもいいです。


 一応肩に焼き印はしておきます。

 これは今回のことで恨みを持った人を要職に就かせないようにするための処置でして、元盗賊とかが公募面接に紛れこんでいた場合、素性を調べるまでもなく肩をさらしてもらえれば一発で仕分けできるという御手軽システムです。


 ほんとは首とか顔とかに焼き印したいんですけれど、愛玩奴隷の場合は容姿に傷がつくと価値が落ちてしまうので。


 しかたがなく肩で妥協です。


 …………さて、上澄みを除いた奴隷たちはどこにドナドナしましょうか。

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