第2話「説明回」
どーもみなさん、カルラです。
食客のみなさんがのきなみ正規兵になってしまったので。
遊び友達がいなくなりました。
そして。
話題はよりアダルトに。
社会的に。
全方位の知人から「正規兵ってなんなの」とか「キャリアプランってなんなの」みたいな質問をされまくっているこのごろです。
ということで。
ここは一つ。
公爵家における軍制について語ることにしましょう。
ぱんぱかぱーん。
……いや、おもしろいかどうかはともかく。
ドラマチックさはないので。
物語としてはびみょーな気はしますね。
でもやるもん。
だって女の子だもの。
…………いちおう、興味のない人へのフォローをしておきますと。
これは説明回なので。
読み飛ばしオーケーです。
物語の背景について興味がない人は、そのまま次話に進むことにしましょう。
トラブルはありません。
何の問題もなくストーリーを読み進めることができます。
さて。
準備はよろしいでしょうか。
これから以下、長々と解説が続きます。
しゃららん。
まずは最初に、みんな大好き正規兵。
少年少女のあこがれ。
結婚したい職業ナンバーワン。
彼らがどういった感じで働くことになるのか、ざっくりとまとめましょう。
正規兵はだいたい3~7人ぐらいの民兵を率いて戦います。
仕事は部下を殴ること。
部下をあごで使うこと。
あと、ごくごくまれに勇気を出して敵と戦うことが義務付けられますね。
もちろん部下が死んだ後でいいです。
どれだけ強かったとしても。
自分で矢面に立って戦いたいと願うような責任感のない人は、正規兵には向きません。
矢に刺されて石をぶつけられて骨を砕かれて剣を差し入れられて。
血と涙と糞尿を垂らしながら逃げる部下さんを斬り殺す。
それが正規兵のおしごとです。
率先して戦って死んでしまえば率いている部下さんは機能しなくなります。
つまりは全滅です。
全滅を避けるためにも、正規兵は最後の最後まで生き延びて部下を活用しなければなりません。
民兵というのは正規兵へ向けられている攻撃を吸収するためのデコイである。
この事実を受け入れられない人がたまにいて。
そういった人は部下を使えません。
困ったものです。
人を使うというのは人に嫌われることなのに。
わからない人もいる。
どうも人から給料をもらうということを根本から勘違いしている人が多いみたいですが、あれはなんなんですかね。
世の中には部下から尊敬される上司、なる意味のわからない概念がありまして。
これなんかは上に立つ者からすれば噴飯ものと言えます。
下には上を尊敬する権限なんてありません。
尊敬とは評価すること。
評価とは本来、上から下へと向かうもの。
逆はありません。
下の分際で上を人間ヅラして評価しようだなんて。
それはあまりにも。
下郎ごときが増長しすぎだというものです。
上司を選ぶ。
上司を評価する。
上司に反論する。
これらはみんな禁忌です。
反論というのは意見を求められたときだけ許されるのであって。
それ以外は禁止。
イエスマン以外には組織人はつとまりません。
上司が決めたことは絶対に正しい。
それが組織です。
その是非を判断するような権限は部下にはありません。
もちろん、職分として選択肢を提示することはやらねばなりませんが。
決まった後。
命令されたことについてはロボットのように無条件で従うのが、組織人としての正しい態度というものです。
さて、そんな正規兵。
みんな大好き正規兵。
彼らは与えられている役割の関係上、そこにいるためにはそれなりの資格が求められてきます。
前提として10人に1人ぐらいの健康体であることが必須であり。
それに加えて、さらに上の体力とか、上流階級へのコネとか、特別に恵まれた運とかが必要です。
いやまあ、特別に恵まれた、といっても、10人に1人ぐらいのものでいいですけど。
人生を変えるレベルの賭けに3回ほど必ず勝てる、というぐらいが、だいたい10人に1人の幸運ということになります。
正規兵は出世街道のスタート地点。
この職業につくということは人間をやめるということです。
いままでの説明を聞いただけでも正規兵がいかに人から嫌われるかというのは容易に想像がつくはず。
それをやろうというのです。
尋常の覚悟ではとてもつとまりません。
一般人と正規兵とでは生きざまが異なります。
正規兵から小隊長になるのは比較的簡単ですが。
民間人から正規兵になるのは想像を絶するほど難しい。
それはそういうものです。
すまじきものは宮仕え。
なるほど。
よくいったものですね。
子供はなぜか、人から尊敬されるために正規兵を目指すようですが。
あれはそういうものではありません。
世間から見た正規兵というのは人間の屑そのものです。
公爵令嬢なんかもそうですが。
庶民が上のポストについている人間を嫌うのは本能であり、おおむね正しいことなのです。
悪役令嬢ものの小説なんかでは、主人公が評判をよくするためにがんばったりするシーンがありますけど。
現実であれをやっても無駄です。
公爵令嬢はたんに公爵令嬢であるというだけで無条件で嫌われます。
優しくても。
公正でも。
有能でも。
どれだけ努力を重ねても。
まったくそれは無駄なことなのです。
下賤なる者が上をあおがねばならない時の鬱屈とした気持ちというやつは、創意工夫によって取り除けるような種類のものではないので。
解決策はありません。
力で押さえつけて。
嘘でだまして。
法で搾取する。
下の者と付き合うというのはそういうことです。
正規兵をやめる人が出てくるのは当然のことですね。
昨日までは人間だったのに。
今日から正規兵だなんて。
ギャップに戸惑うどころの話ではありません。
もちろん、正規兵になれるほどの器量がある人間には守るべき者がいるので。
やめられはしないのですけれど。
人というのはもしかすると、愛なんか捨てて自由で孤独に生きていくのが幸せなのかもしれません。
というわけで。
鉄の意志によって出世街道を進むことに決めた正規兵のみなさんは、足の引っ張り合いをしながら頂上への道を進みます。
その道のりは長くてけわしいものですが。
実のところ、どの程度のけわしさであるのか。
それを紹介したいと思います。
まずは小隊長。
ここに上がるには運と才能とコネのうち2つぐらいは必要です。
ただし、100人に1人ぐらいの超運や超才能や超コネがあれば、それだけでもなんとかなります。
100人に1人の才能。
ちょっとイメージしにくいですかね。
だいたい東大にギリギリ入学できる成績で100人に1人ぐらいです。
正規兵の場合は総合力。
体力に優れていて部下からの信頼が厚く頭の回転も速い、みたいな完璧超人であれば、それで小隊長になれます。
小隊長はだいたい3~7人ぐらいの正規兵を率いて戦います。
兵数だと小隊ひとつで30人ぐらい。
辺境の村で魔物退治とかをやる場合には一番オーソドックスな編成になりますね。
小隊は実働面では一番重要な部隊です。
そのトップである小隊長にはさまざまな仕事がおりてきます。
食料、資材の調達。
道の整備。
小規模戦闘。
建築。
民間人への指導や各種交渉など。
これを遅延なくこなすために、小隊長には部下の正規兵の適性を見抜いて、個別に仕事を割り振るというセンスが求められます。
正規兵はいっても個性的なのですが。
小隊長あたりからだんだん、個性がなくなってきます。
有能も無能も数で薄まって平準化され、全体として見れば他と大差ないような小隊になるわけです。
みんなといっしょ。
なんでもできる。
それが定期的に壊滅する小隊に求められる第一の資質です。
もちろん軍隊編成の時からある程度注意して、できるだけ異なった得意分野を持っている正規兵を組み合わせるように配慮しなければなりません。
小隊長にもランクがあって、上中下の3種がいます。
率いる兵力は同じですが。
大きな戦で上小隊長が手柄を立てると、下中隊長にランクアップします。
トラブルなく怪我もせず失敗もせずに叩き上げが40歳ぐらいまでつとめれば、だいたいこの位置にきます。
もちろん。
一生を正規兵のままで過ごすという人もいて。
そういう人は退職しちゃったり閑職にまわされたり僻地へと派遣されたり。
スタートラインには立てたけれど、次のステップには進めなかったと。
そういうことになります。
正規兵のうちで次のステップに進めるのは5人に1人ぐらい。
残りは死んだり失敗したり引退したりして、出世街道を正規兵のままで終えることになります。
さて、幸運にも次のステップに進めた小隊長さん。
次は中隊長になります。
ここに上がるには運と才能とコネの全てが必要です。
ただし、100人に1人ぐらいの超運とか超才能とか超コネのどれか1つがあれば、残り1つでもいけるかも。
中隊長はだいたい3~7人ぐらいの小隊長を率いて戦います。
兵数だと中隊ひとつで200人ぐらい。
この辺から戦う相手が組織に変わります。
統制のとれた人間や魔物を相手に戦うための部隊。
盗賊に占拠された村の制圧とか、魔物が大繁殖している森での間引き活動なんかがメインになりますね。
中隊長さんを呼んで「この街道を保安しろ」とかの命令を出せば、あとは何も考えなくても向こうで勝手にしてくれます。
中隊長にもランクがあって、上中下の3種がいます。
率いる兵力は同じですが。
大きな戦で上中隊長が手柄を立てると、下大隊長にランクアップします。
トラブルなく怪我もせず失敗もせずに叩き上げが60歳ぐらいまでつとめれば、だいたいこの位置にきます。
正規兵のうちで中隊長になれるのは30人に1人ぐらいです。
叩き上げだとこのへんが限界ですね。
ここから上はコネの世界。
もしくは突出した才能や運を持った、英雄の世界になります。
中隊長の上は大隊長。
ここに上がるには超運と超才能と超コネのうち2つぐらいは必要です。
ただし、10000人に1人みたいな超々々運とかが超々々才能とか超々々コネとかがあれば、残りは何もいりません。
大隊長はだいたい3~7人ぐらいの中隊長を率いて戦います。
兵数だと大隊ひとつで1000人ぐらい、
この辺から戦う相手が軍隊に限定されます。
あの街を奪還しろ。
あの丘を奪え。
この砦を守れ。
後ろを突け。
援軍として指示を受けろ、などなど。
大隊に戦術目標を伝えるだけで、あとは何も考えなくても向こうで勝手にしてくれます。
大隊長にもランクがあって、上中下の3種がいます。
率いる兵力は同じですが。
大きな戦で上大隊長が手柄を立てても、ランクアップはしません。
勲章がもらえるだけ。
トラブルなく怪我もせず失敗もせずに叩き上げが死ぬまで勤めても、この位置にはふつう来れません。
もちろん、サラリーマンの生涯年収とかみたいに、キャリアプランとしてはここまで来ることが前提に組まれているわけですが。
そんな人はいないので。
決して一般人には手の届くことのない、ガラスの天井に阻まれた釣り人参というのが大隊長という職業ということになります。
強いて言えば、まあ。
将軍が何人も死ぬようなレベルの戦いで上大隊長が手柄を立てれば、少将になれますが。
それをキャリアプランと言ってもいいものかどうか。
組織存亡の危機なので。
出世とか考えてる場合じゃない、と、まともな人なら思うでしょう。
正規兵のうちで大隊長になれるのは200人に1人ぐらいです。
民兵だと1000人に1人。
人類で言えば10万人ぐらいの人口で大隊長を1人生み出せます。
ここまで来ると。
もはや小国の王様レベルなので。
目指してどうなる、という話でもないかもしれません。
庶民にとっては夢の終着点。
たどり着けたならば末代まで自慢できるポスト。
それが大隊長です。
ということで、出世のゴールは大隊長。
その次はありません。
ただし。
いちおう、大隊長の上に特別大隊長というやつがいます。
私が直接指示を出しているカルラ隊ABCの隊長なんかがそれですね。
将軍には届かないけれど。
大隊長よりはもう少し権限が大きい。
そういう人をまとめて使うためのポジションということになります。
私が公爵になった暁には少将になることがほぼ確定している人たちなので、やはり例外でしかないですが。
正規兵だと1000人に1人。
民兵だと数千人に1人。
人類で言えば30万人ぐらいの人口で特別大隊長を1人生み出せます。
30万は男爵領の平均人口よりも多い数字です。
もうね。
キャリアプランとか。
そーゆーのとは違います。
統計学的にはほぼゼロ、みたいな感じで。
なにがなにやらわかりません。
特別大隊長ともなると。
もはや。
ふーんの世界です。
僕は将来ノーベル賞を取る、とか。
総理大臣になる、とか。
そういうのと庶民感覚的には大差ありません。
ぶっちゃけ小隊長以上だったら特別大隊長でも変わりはないのです。
私には違いがわかりますが。
庶民にはわかりません。
100億円と1000億円の違いが庶民にはわからないように。
意味不明。
なんとなく不気味。
ここから上は、そういう世界の話になってきます。
さて、次からが将軍です。
原作ヒロインのシエラが「私は絶対に将軍まで上り詰めるのよ!」などと吹いていた、あの将軍です。
将軍になるためには超々々運と超々々才能と超々々コネのうち1つぐらいは必要です。
加えて超運と超才能と超コネのうち、どれか1つがいります。
だいたい100万人に1人。
それが将軍という職業のレアリティー。
人口1億ともいわれる公爵家でも将軍級のポストというのは100個ぐらいしかないので。
それは当然のことですね。
将軍は貴族あつかい。
というか、彼らは王家から騎士叙勲を受けて就任するわけなので。
まぎれもなく貴族そのものです。
大将ともなると、世界有数の商人とか文官のトップクラスとか大臣とか伯爵級の当主とかとでも対等に付き合えてしまいます。
将軍の仕事は私がかつてやってきたことと全く同じです。
父に「やれ」と言われたことをやります。
私の場合は実質的にガネーシャ将軍がやって私はその上でふんぞり返っているだけでよかったわけですが。
それが私の持っている1億人に1人の超々々々々々々コネというものですね。
あまりにも「々」マークが多すぎてゲシュタルト崩壊してます。
しかしまあ。
なんのことはない。
10の8乗で1億です。
必要なのはそれだけ。
コネというのは強力無比な力なので、他には何もいりません。
超々々々々々々コネの持ち主は働く必要がありません。
みんな部下がやります。
それでまわります。
まわらないというのなら私が悪いんじゃない。
組織が悪いのです。
とはいえ、みんなおまかせすると裏切られてしまうので、適度にしゅくせいして仕事の邪魔をしなければなりませんが。
以上が公爵家における軍制です。
参考になりましたでしょうか。
ちなみに将軍、というのはだいたい2~4人の特別大隊長、もしくは3~7人の大隊長を率いる人のことでして。
正規兵換算で言うと数千人という集団のトップです。
一般兵換算だと1万人以上になりますね。
うちの領地には100人程度います。
さすがに大将は5人しかいませんけれど。
100人もいればあんまりありがたくないというか、レアリティーとしては低そうな気がしますね。
侯爵領だと将軍は数十人。
伯爵領だと数人です。
子爵領の場合は軍部のトップが将軍と呼ばれます。
男爵領の場合は『ジェネラル』という爵位ともつかない名誉称号を三公会議で与えられた時のみ将軍が生まれます。
あとはまあ。
王立魔法学校の卒業成績トップ3は将軍と呼ばれます。
彼らは文句なく『ジェネラル』です。
平民が将軍職を目指すのであれば、それが一番かんたんかもしれません。
紅眼族とは関係ない国家の場合にも将軍はいるわけですが。
それはもう評価基準が異なるので。
呼び名だけ将軍、みたいな感じですね。
ぶっちゃけ率いる兵が100や200でも将軍を名乗れなくはありません。
それは大企業の班長と零細企業の部長のどちらが偉いのか、という問題なのであって。
言ったもん勝ち。
子供が「絶対無敵斬り」と叫んで剣を振れば、地は割けて天がとどろきます。
小国の将軍とはそーゆーもの。
あえて解説はいたしません。