第11話「会議は踊る、されど進まず」
カプコーン王国に周辺国が攻めかかりました。
連戦連敗。
ぼろ負けに負けた末に援軍要請が入ります。
公爵家の軍勢を使ってにっくき青眼族を打ち倒してほしいとのこと。
やるわけねーので無視ぶっちです。
何が悲しくて手負いの獅子と戦わねばならないのか。
撤退してから攻めかかれば安全に占領できるわけで、それまではお座りして待ち続けるのがセオリーです。
だいたい撤退なんてのは一番弱い兵隊から順に逃がしていくものでして、後に残っているやつらはガンマジやべーってことなのに。
よくも攻めたりできますよね。
数が減ってるからってなめすぎだと思います。
私なら絶対にやりません。
さて。
今のうちに伯爵領の統一を終わらせてしまいましょう。
一応アヤノ将軍が9歳の三男を誘拐して戦う動きを見せているようですが、これはもう政治的に決着をつけてしまうべきですね。
アヤノ将軍の部下の家族を人質に取って金をつかませて手紙を書かせて。
伯爵家の売国重臣なんかからも説得させて。
ついでにユキさんからも呼びかけてもらいつつ、余った軍隊を南部へと送り込んで行きます。
ゲリラ戦の名手であるアヤノ将軍。
言い換えれば、まっとうな手段による調略政略には全然向いていないお人ということにもなります。
アヤノ将軍の名声は相当に汚れています。
北部でこそ評判がいいですが、南部でのそれは悲惨極まりないものです。
焦土戦術を取って住民に犠牲を強いながら戦い続けたわけで、その被害者たちの恨みは骨髄に達していました。
北部での挙兵ならともかく。
アヤノ将軍は南部で兵を集めて私たちに対抗できるような器ではありません。
支配している街が部下ごと裏切るという事件が2回ほど起こった後、アヤノ将軍は全てを諦めて降伏することになりました。
「私の命で許していただきたい」
「わかりました。アヤノ将軍は死ぬしかないですが、その部下や家族にまで累が及ばないように手配します」
ということで。
あわれアヤノ将軍はギロチン台の露と消えました。
才媛惜しむらくは政治に暗く情勢を見通すための戦略眼を持っていなかったことですね。
青眼族の侵略を防いだ英雄の一人でもあるのに。
身の丈に合わない野望を持ったせいで首をくくる結末を迎えるというのは、コーサカ伯爵なんかに通じるところがあります。
アヤノ将軍の場合はもっとひどいかも。
私やユキさんに対して忠誠を誓っていれば戦争の功労者として引き立ててもらえたはずなのに、野心を持ちすぎたせいで死んでしまいました。
アケド伯爵領の統一が終わりました。
ユキさんを当主とする体制がどんどんと整備され、街道の安全がもたらされたおかげで進軍もできるようになっています。
どこに進軍するのか。
もちろんカプコーン王国への進軍です。
軍使キャミーさんに追撃はしないという約束はしましたが、それと軍を動かさないというのは全く別次元のお話です。
そもそも約束の金貨1000万枚自体、いまだに到着していませんし。
借金の取り立てをやらないと。
金貨1000万枚。
これは青眼族に貸し付けてあるも同然です。
手付けの300万枚については送られてきましたが、何もせずに残りを払ってもらえると考えるのは怠けすぎというもの。
貸し金を取り立てるのに暴力はほぼ必須。
軍隊が弱い国は他国に貸した金を回収できないなんてことも多々あるわけで、それを避けるためにも、返済の督促をするためにも攻めかからねばなりません。
まず、カプコーン王国北部にあるブランカの都に進軍。
略奪した食料を南へ持ち出そうとする部隊に圧力をかけて物資を放棄させ、こちらで確保します。
各地の進駐軍に使者を出して移動をせっつき、軍隊をぴたりと横につけてプレッシャーを与えますね。
しょせんは地方軍。
食料の輸送を任されているだけのお使い部隊です。
こちらの正規軍を相手にしてまともに戦えるわけがないので、特に戦闘にはならずに逃げだしてくれました。
「カルラ様。金銀財宝が届きました」
「確認しなさい」
なんとか金貨400万枚程度の財宝をかき集めて送ってきた模様。
まだ足りませんが。
これはつまり、ちょっとだけ足踏みしておいてくれというメッセージなわけですね。
いいでしょう。
しばらく駐留しておきますか。
周辺国の侵入や地方領主の反乱などが立て続けに起こり、各地を支配していたロジョウ将軍の軍が続々と退いていきます。
どうやら南部に集結をはじめている模様。
うむ。
支配している領域が少ないほうが兵力も少なくて済むので、そろそろ本格的な撤退行動に移ったと考えるべきでしょうね。
空白地帯に周辺国や豪族が攻めかかって占領していきます。
私たちも足並みをそろえて進みます。
10万程度の即席連合軍が生まれ、みんな仲良く手を取り合って青眼族を追い出すために戦うことになりました。
その間、トータルだと金貨900万枚ぐらいの財宝が届けられましたが。
金が足りないです。
どんどん進軍して突撃の構えを見せます。
シャドル港を取り巻く私たち公爵軍にあてて、人や情報、物資集積所の場所なんかを記した手紙が届きました。
……まだ足りませんが。
おそらく、これが彼らからの最後の連絡になるでしょう。
そろそろ決断しなければなりませんね。
シャドルの港に残っている軍勢はだいたい1万から2万。
こちらの連合軍部隊は10万です。
戦果を求めるという意味においては、ここから突撃をかけて残存勢力を滅ぼすという選択肢もありえます。
「どうします? 突撃しますか」
「いいえ。彼らは十分に誠意を見せました。これで軍を引きましょう」
ささっと退却します。
一緒に包囲していた連合軍の人たちからはすさまじいクレームが来ましたが。
知ったことじゃありません。
カルラちゃん関係ないのです。
あんな窮鼠中の窮鼠を相手にトッコーかますだなんて、あまりにも現代人ではなさすぎます。
時代はニートです。
働かなくても人は生きていけるのです。
さて、私たちが抜けた後の連合軍5万。
彼らはカプコーン王国の豪族や周辺国なんかの寄せ集め軍隊でして、何かを決断することは極めて難しい人々です。
しかし、たいへん珍しいことに。
今回のケースでは復讐や欲望という点で利害の一致を見せました。
彼らは青眼族の持っていた財宝や港湾利権を求めてシャドルの港を攻撃。
5万対1万の戦いに敗れてさんざんに追い立てられ、大量の死傷者を生み出した末に空中分解してしまいました。
連合軍の残した首や装備なんかをはぎ取って。
青眼族の部隊はゆうゆうと退却し、海の向こうへと逃げ去ってしまったとのこと。
いやはや。
青眼族、まじつえーです。
やはり私が勝てたのは単なる偶然でしたね。
そりゃもちろん、今回港に残っていたのはロジョウ将軍が持っている最強の部隊なわけで、この結果も無理はないですが。
さわらぬ神にたたりなし。
今後、あいつらとは絶対に関わることのないように、強く自戒しておきましょう。
12歳になりました。
本国から連れてきた10万はアケド伯爵領やカプコーン王国の治安維持のために使われています。
できればシャドルの港をこちらで押さえたかったのですが。
さすがにそれは無理でした。
アケド伯爵領から出張しても無理のない範囲で兵を駐屯させて支配下に置き、現在は周辺国や地方豪族との住み分けに関して模索しているところ。
「カルラ様。国際会議への出席を求められておりますが」
「行くわけねーです。代理を送りなさい」
国際会議。
おぞましい響きです。
あんな世界一不毛なところで真面目に議論する人の気持ちがわかりません。
戦後の利権分配について話し合いましょう、という、建前だけは立派な会議なのですが。
その実態はカオスそのものです。
代表者を送って、あとは放置でいいですね。
以下、その会議内容をダイジェストでお送りいたします。
「んじゃ、領地わけの会話をはじめよーぜ」
「どのへんで線引きする?」
「俺、港欲しい」
「俺、街たくさん」
「俺は山とか街道とかでも」
「ちょいまちちょいまち」
「どしたん?」
「そもそもさあ、カプコーン王国って全部俺らのものやん?」
「はあ?」
「なに言ってんのこいつ?」
「青眼族に勝ったのって俺らだけやん。お前ら全部負けてるのに、何一人前の顔してんの?」
「お前も大して働いてないだろ」
「そうそう。戦ってねーやん。相手が逃げたとこに進軍しただけやん」
「あほかっちゅーねん。俺ら8万のうちの6万を相手にしてたわ。終戦のどさくさでちょっと戦っただけのお前らが一人前にさえずるなよ」
「でも、最後の戦いにいなかっただろ。お前らが5万も抜いたせいですっげー苦労したし」
「そうだそうだ!」
「謝れ!」
「謝罪しろ!」
「かってに攻めてかってに負けて、それで文句かよ。おめでてーな。いいから死ねよ」
「うっさい死ね!」
「お前が死ね!」
「ぶっころすぞ!」
「はあ? 5万で1万に負けるやつらが? どーやって俺らを殺すんだよ? まとめてこいや!」
「横暴だ!」
「領地は公平にわけろ!」
「参加した国の数で公平に」
「いや、参加した兵の数で公平にわけるべきだろ」
「ちがうちがう。被害者の数でわけるのが公平なわけ。わかれよそれぐらい」
「はあ? 活躍でわけるのが公平やん。お前らゼロ。俺全部。決まってんだろ」
「ふざけんな! 占拠はみんなでしてるんだよ!」
「そうだそうだ!」
「ここは俺たちの国だぞ!」
「つーても、お前らのとこに有力者からの誓紙とか来てる? 来てねーでしょ。俺んとこには来てるよ。だって誰がどう見ても、ここはもう俺らの国だもん」
「ぐううっ」
「紅眼族はこれだから!」
「もういいよ。領地はもういいから金だけ出せ」
「そうそう」
「金大事。ちょーだいじ。たくさんくれ」
「はあ? お前らたっぷり略奪しただろ? まだ足りんの?」
「つーか一緒にいた時も食料恵んでもらってたやん。ここは乞食だけかよ」
「俺らは国元から持ってきたっつーの」
「はあ!? 兵士は出したし! 食料は現地徴発が基本だし!」
「でも、略奪したんだろ!」
「そうですけどね!」
「もっかい略奪しとけよ。俺はしらねー」
「俺も俺も」
「くれくれうざい」
「いやでも、青眼族のやつらに略奪させてたやつとかおらんかった?」
「いたな」
「それな」
「美味しいとこだけ受け取ってたやついたな」
「手を汚さずに上前だけはねるって、すげーな。そのこころ。悪魔かよ!」
「ぶー。違いますー。あれは賠償金だもんねー。略奪は向こうが勝手にしただけ。僕に関係はありませんー」
「俺にもわけろ!」
「俺も俺も!」
「うまいことやりやがって! 許せねえ!」
「あの、みなさんもっとなかよく。落ち着いて話し合いをですね」
「200は黙れ!」
「お前らんとこ200しか兵隊連れてきてねーだろ! しかも負けたし! お前に発言権ねーから!」
「……くすん」
「ぷーくすくす。弱いものいじめかよ。雑魚が雑魚を笑って恥ずかしくないんですかー!」
「調子に乗るなよ、うんこ野郎!」
「それはお前だろ、ちんこ野郎!」
喧々囂々の会議は何も決まらないまま物別れになりました。
当たり前です。
そもそも彼らには決断能力がないのです。
国境線を決める権限を与えられていない人物をずらりとそろえて話し合っているわけで、その実態は「いじめってどうしたらなくなるの?」みたいな益体もない会話と全く同じです。
領土の問題は話し合いで解決したりしません。
重要なのは無理なく実効支配できているかどうかという一点だけになります。
最寄りの軍事基地よりも近ければ保護しやすい。
遠ければ保護しにくい。
違いはそれだけです。
話し合いをするぐらいなら砦を建設して兵を送り込むほうがなんぼか現実的でして、対話なんてくだらないことに労力を費やすのは時間と人生の無駄というものでしょう。
そんなことよりも重要な問題があります。
今のうちに、カルラちゃんの人生における一大イベントをはじめねばなりません。
それは。
ずばり、友達作りです!
実のところ、私は最近自分でも気づかないうちに正気を失いつつあるような気がします。
なにせ最強ですからね。
人というのは孤独でいると頭がおかしくなるので、それを埋めるための友人は必要不可欠です。
最近までの私には、それを願ったとしても相手がいませんでした。
しかし。
今は違います。
私が目をつけているのは、ずばり言ってアケド伯爵家当主のユキさんです。
ユキ・アケド。
12歳。
同い年。
伯爵家当主。
私と属性が近いので、もしかしたら友達になれるかもしれません。
近頃の私は友人欠乏症がぽつぽつ出始めているので、どこかで友情パワーを補給して孤独を埋めたいと思っていたところ。
なにせ上級貴族というのはガチャを100万回まわしても現れないスーパーレア。
伯爵級以上の後継者といえば人類比率で言って1000万分の1、さらに私の年齢の前後5歳で限るんなら……1億人に1人というギャグみたいな数字になってきます。
それほどの極めて難しい条件を満たしているのがユキさん。
すばらしい。
この出会いは運命ですね。
ぜひとも彼女と友達になって、文通とかいろいろやって楽しみたいものです。




