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第1話「カルラの超悪いうわさ」

 みなさんこんにちは。

 公爵領随一の嫌われ者として噂されているカルラです。

 魔族退治やドラゴン退治で持ち直した私の人望が再びデビュー当時の段階に戻ってしまいました。


 執務室に呼び出した父上が呆れたような視線で私を見ています。


 なんか家庭教師の何人かが退職願とか出して逃げ出してしまったとのこと。

 殺された文官の親戚だったメイドさんはクビになったみたいです。

 それだけならいいのですけれど、何の関係もない文官さんからもカルラはやばいと恐れられている始末。


「むしろどうやったらここまで評判が悪くなるのだ」

「知りませんよ!」

「文官から泣きつかれたぞ。カルラ様の下でだけは仕事をさせないでください、だそうだ。武官からの評判はものすごくいいのだが」

「ひどい話です」

「お前には軍事だけを任せるべきだったか?」

「私はどちらかというと政治のほうが得意だと思うのですけれど」

「世間の評判は逆だな」


 すっかり文官のみなさんから嫌われてしまいましたからね。

 いやまあ、命令すれば聞いてもらえますけど。

 とゆーかむしろ、嫌われてるぐらいのほうが仕事をしやすかったりもしますけど。


 嫌われるのが悪いことだとは限りません。


 人望はデビュー当時に戻りましたが、それはプラスとマイナスの差し引きでゼロになったというだけです。


 私の発言力が減ったということじゃなく。


 むしろ増えてます。


 デビュー当時と比べれば激増です。


「世間の評判なんてあてにならないものですよ。私はちゃんとがんばりました」

「それについては認める。俺の判断もお前の自己評価と同じだ。部下から評判が悪いことは無能であることを意味しない。むしろ逆だからな。お前の場合はもう少し、武官に対しては乱暴にふるまっても問題ないほどだ」

「でもでも、武官の人たちって戦争で死ぬじゃあないですか」

「そうだな」

「だったら生贄としては足りてるってことですよ。加えて殺すべきじゃないと思います。気の毒です。文官さんは死なないので、定期的に殺さないと生贄が足りなくなります」

「それも一つの真理だ。しかし文官を殺せば評判は悪くなる。これは放置できまい」

「ううっ。これ以上どうしろというのですか」


 私だってがんばってるんです。

 領地をよくしようとしただけだったのです。

 なのに誰もわかってくれません。

 人の評価というのは冷たいものですね。


 まったくもう。

 まったくもうもう。

 まったくもうもうもう!!!


 なんなんですか!


 ひどいです!

 これはあんまりだと思います!

 私みたいな善人に悪役令嬢の濡れ衣を着せるだなんて!


 ちょっと100人単位で首を切っただけなのに!


 そりゃー解雇じゃなくて殺害だから恨みもひとしおでしょうけれど、あいつら組織の最底辺だったんですよ!

 害虫ですよ!

 リストラ候補最上位どころか、横領罪でブタ箱行きのやつらですよ!


 死ぬべき人は死ぬべきなんです!

 他の文官さんだって上のポストが空いたし、仕事がやりやすくなったし、領地は発展に向かって動いているし!

 いいことばっかりじゃないですか!

 なんで嫌われ役なのです!?

 むしろ私に感謝すべきだろー!!!


「まあいい、ちょうどいい案件がある」

「行きませんよ」

「公爵領南部にあるカプコーン王国。その跡目争いの混乱につけこんで、青眼族の軍団が攻め入り占拠したらしい。それだけにとどまらず、王国北にあるアケド伯爵領にまで軍の手が伸びているそうだ。今回の任務だが、そのアケド伯爵領の防衛を」

「ガチじゃないですか!?」


 おぞましいほどの難題がやってきましたよ!?


「青眼族とか! 大陸南部最強の武装集団ですよ! しかもこんな北部近くにまで攻めてきてるんだから精鋭中の精鋭だし! 絶対無理! むりすぎ! 11歳児に対処できる領域を超えています!」

「それほどではない」


 お父様は憎らしいほどクールな表情で答えます。


「青眼族は確かにおそるべき集団だが、今回の相手は空白地点に進軍して占拠しただけの、むしろ補給を無視して突出しすぎたイノシシだ。将軍のロジョウこそ名前は知られているが、行動をみればそれほど優秀とも思えん。公爵家の援軍だけで十分対応できると判断する」

「ロジョウ将軍ですか」


 聞いたことあります。

 確か原作で、間抜けにも突出しすぎて部隊をあたら無駄死にさせたバカ男の名前でしたっけ。

 原作時点ではもう死んでましたが、敵よりも味方を多く殺した無能将軍として有名でした。


 ……これ、もしかしておいしいクエストなんじゃないですかね?


 北部に攻めてきた青眼族の撃退とか、考えうる限り最高に武勲を稼げる戦です。

 これに関して敵が弱かったとは誰もいわないでしょう。

 私の人望を高い位置で確定させるのであれば他にはないというぐらいの状況です。


「お前がだめなら、長男のコウモクにまかせるが」

「ううっ」

「もちろん大将ではなく武将扱いになる。とはいえそれなりの権限は与えるつもりだし、かなり活躍するかもな」


 それはまずいです。

 うちの兄様の戦についての手腕はそれほど明らかではありません。

 私に対して不愉快な態度ばかり取る人ですし、母親も庶民以下の最下層民なのですけれど……覇気があるという点だけは間違いないので、もしかしたら能力もあるのかもしれません。


 こんなおいしい戦を兄様にゆずると、あんがいバカ勝ちして、下手すれば人望面で私を上回ってしまう可能性さえありえます。


 なんせ敵は敗北がほぼ確定している部隊なわけですからね。


 それは超困ります。


「わかりました」

「わかったか」

「可能な限りの精兵を集めてほしいです。相手は腐っても青眼族なので」

「当然だな。どれほど欲しい?」

「正規兵で、最低でも2000ぐらいは」


 父が驚きで目を見開きました。


「そんな少数でいいのか?」

「最初は動きやすいほうがいいです。もちろん後詰めは多ければ多いほどいいですけど、まずは士気高揚すべきだと思いますし。無理して集めるほどでもないかと」

「お前は弱気なのか強気なのかさっぱりわからんな」

「集められるんなら5000ぐらいはいてもいいんですけど、できそうです?」

「1万は余裕だ。俺は少なくとも2万を集めるつもりだったが」


 2万人ですか。

 それはブロッコリー公爵領に属する正規軍の1割近い数字です。

 さすがに公爵家の当主様は言うことがでかいですね。


「2万って、正規兵で?」

「もちろんだ」

「なら、それでお願いします。足の速い精鋭2000を私と一緒に先行させるということで」


 どうやら無謀な発言に聞こえたらしく、聞いていた父上の表情が曇ります。


「お前、死ねない立場なのだぞ。わかっているか?」

「あんまりわかっていません。かわりはいると思います。今ならまだ、私が死んでもそれほど公爵家にダメージはないでしょう」


 死にたいわけではないですが……客観的に見た場合、それが公平な評価というもの。


 公爵家の跡継ぎというのは家の力があるから偉いのです。

 誰がやってもそれなりの結果は出ます。

 20歳の私が死んだら大事ですが、11歳の私が死んでも他の誰かが育つでしょう。


「私はお前以外の後継者など考えたこともない。それは間違うなよ」

「ありがとうございます」


 まあ、父上の心配もわからないではありません。

 明らかに人の上に立つことに向かないという性格もこの世には存在します。

 特に人の心がよくわかるタイプはだめですね。

 思いやりがあって優しい、というのは隣人として見れば得難い資質ですが、指導者が一番持ってはいけない要素でもあるのです。


 なにせ世の中の人は、公爵が地に落ちてもがく様を見たいと思っている民衆が大多数ですからね。


 そんな人の気持ちを汲み取ったらえらいことになります。


 優しさや思いやりは対等以上の相手に対してのみ使うべき概念でして、自分の下にいる人にそれを向けるのであれば私財を投げ打って同じ場所にまで落ちていくしかありません。

 そんなことをしたら公爵家は滅びます。

 施しをして感謝されるのならばやるべきですが、受けた恩を瞬く間に忘れて平然としているのが下賤の民というものなので。


 上の人間から施されても不愉快なだけ。


 それが感謝を忘れた人という生き物の悲しきサガなのです。


「…………ところでお父様、私が働くためには兵数だけではなく権限も必要です。全権委任の命令書をくださいませ」

「用意しよう」

「できれば防御だけではなく、自分の判断でまわりに援軍とか求められるぐらい自由なやつがいいです」

「言いたいことはわかるが……多少制限付きになるぞ。進軍は自由にしていい。外交条約を独断で決めるような許可は出せん」

「手持ちの物資で呼ぶぐらいはいいですよね?」

「それなら問題ない。占拠した土地の利権であれば多少はかまわん。領土の割譲であれば俺の許可をあおげ」

「あいあいさー」


 そういうことになりました。




 出発に先立って、屋敷の食客さんを集めます。


「とゆーわけで、今回は青眼族の正規軍が相手です」

「まじで!?」

「敵兵はおよそ3万。率いるロジョウ将軍は青眼族386期の魔法学校卒業生次席ということで、ようするに青側人類の新生軍ナンバー2だった経験のある人です」

「ぱねえ!」

「敗戦や派閥争いなどで内部分裂したために勢力自体は弱まっているのですけれど、それでも手ごわい相手です。正直なところ厳しい戦いなんて言葉ではくくれないほどの激戦になるはずなので、来たくない人は別に来なくてもいいです。向こうで死んでもいい人だけ来てください」

「やべえ!」


 食客さんからものすごく雑な合いの手が入っています。


 この人たち、ちゃんと話を理解してくれてるんですかね?

 いや、そりゃあ自分の命にかかわることですし、わかってやってるんだとは思いますが。


「姫さんは行くんだよな?」

「当たり前ではないですか」

「なら、俺も行く」

「私も私も! 仲間外れにしないでよ!」

「俺も行くぞ。ここで勝てば何年かだらけてても肩身の狭い思いはしなくていいだろうし」


 ヤクシャさんやラトリさんをはじめとして、食客の中でも一目置かれている実力者たちが次々と参加を表明してくれました。


 ありがたいお話です。


 食客さんは死地に向かう戦いにはついてきてくれないんじゃないかと思っていたので、感動もひとしおというもの。


「…………生還者には金貨10枚のボーナスを出しましょう。もちろん、活躍した人には上乗せします。希望者にはそれなりの地位や名誉も用意するつもりです」


 それを聞いた食客さんは大喜びではしゃぎまわりました。

 自分が死ぬことなんて考えてもいないといった調子です。

 実際にはそんなわけでもないのでしょうけれど、勝利を疑っていない姿を見るとこちらの気分も上向きますね。


「それでは、がんばって悪い奴らを倒しましょう!」

「おおー!」


 前祝いとして主都デジーコで夜通し宴会をして楽しみ、それからぐっすりと眠り、翌々日にはみんなでアケド伯爵領へと向かう旅の人になりました。

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