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第4話「粛清、そしてニート生活へ」

 私の命令を受けた部下さんから次々に苦情が入りました。

 一番上であるカルラ印の命令書を持っているのに従ってくれないケースがあるとのこと。

 おっけー、予想通り。

 すぐに許可を出します。

 抗命罪の名目でガンガン牢屋に放り込みますね。

 処刑については後日にまとめてやりましょう。


 目に見えるゴミの処置についてはそれでいいとして。


 目に見えないゴミである汚職者については、調査によってあぶりださねばなりません。


 組織運営を健全化するために必要なのは内部調査です。

 これは組織の自浄を目的として行われるものでして、代理領主のカルマンさんが自分の手の者を使ってあれこれ調べてくれています。

 自信満々に請け負ってくれていたので、それなりの結果は出ていました。


 でも、組織にはなれ合いというものがありまして。

 はみ出し者の横領とかは防げますが、組織ぐるみの横領に対してはあまり意味がなかったりするのです。


 組織ぐるみの横領を防ぐには外部調査…………まあ、私の手の者を使ってやるわけです。

 これに時間をかけるつもりはないので、簡単に済ませてしまいましょう。


 まずは倉庫の現金をチェック、売掛買掛なんかの数値を帳簿と照らし合わせ、取引先に手紙を送って実在確認を取ります。

 あとは各地の倉を回って中身を確認…………って、ここでトラブルがありましたよ。

 任せてた部下が盗賊に襲われたみたい。

 護衛につけてた食客さんがふんじばって連れてきてくれました。


 軽くごーもんにかけて聞き出したところ、文官アパームさんの息がかかったごろつきであることがわかりました。

 物資の横流しがばれるのを恐れたみたいですね。

 細作部隊の調査でも危険人物の筆頭でしたっけ。

 ちょっと時期的に早いんですけれど、さっさと粛清してしまいますか。


「助けてください!」

「無実です!」

「これは陰謀ですよ!?」


 関係者をみんな呼び出して地下室に案内、つぎつぎごーもんにかけて隠し財産を聞き出します。

 ついでに私の指示に逆らって怠業してた人とか、反抗的な言動が目立つ人なんかも処刑台に送ります。

 港の文官の1割ぐらいを皆殺しにしちゃいますね。

 家族の資産も没収、足りなければ奴隷送りにしてしまいます。

 冤罪については特に考えません。

 粛清は殺すこと自体に意味がありますからね。

 生贄として機能していればいいのです。

 殺されなかった人は自分の幸運をかみしめつつ身を引き締め、不幸な死者をあざ笑うことによって幸せになれるというシステムです。


「この土地はもうだめだ」

「なにもいうな」

「くちをきけば殺されるぞ」


 すさまじい悪評が生まれているのは間違いありませんけれど……こーゆーのって定期的にやらないといけませんからね。

 だいたい10年に1回ぐらい。

 汚職をはたき出すためのお掃除です。

 汚職というのは経済の潤滑油でして、毎年毎月取り締まるのは明らかにやりすぎです。

 賄賂を贈ったり受け取ったりしなければ取引が成立しない相手とかもいるのです。

 ただ、放っておくと段々悪化して組織ごと乗っ取られてしまうので。

 悪はのさばらせるだけのさばらせ、適当なタイミングで浄化するのがセオリーです。


 そういう意味では今回の粛清はちょっと早かった気がします。

 もっともっと調子に乗らせて悪を栄えさせるべきでした。

 ただまあ、今回は私の使いの部下が襲われちゃっているので…………まだまだ人望が足りない私は放置することができなかったのですね。

 一度粛清すると最低でも数年は置かなければ仕事がしにくくなります。

 それが適度なバランスというものなのです。


 徴税とかでも同じようなことが言えまして、平時はともかく臨時徴収については注意が必要です。

 借金持ちの領主は少しずつの財政健全化なんてものをするべきではありません。

 領民の機嫌を取るために毎年少しづつばらまき、どこかのタイミングで領民財産を総没収して帳尻を合わせればいいのです。

 借金はこつこつと、踏み倒しは一気にというのが国家運営のセオリーです。


 もちろん借金をゼロにするほどの税金をかければ向こう10年ぐらいは経済大混乱の暗黒時代を迎えますが、人間は忘れっぽいですからね。

 大量の自殺者と餓死者を出しながら立ち直り、すぐに平常運転に戻るでしょう。

 歴史に学べる人なんて少数派です。

 デフォルトという言葉は知っていても意味を理解している人はほぼいません。

 年間税収の10倍を超える借金があってなお、それでも社会保障と減税を求めてやまないのが人の本能というものなので。


 苦しいことは一気にすさまじく、楽しいことはゆるーく長くが運営の基本です。

 アメとムチのたとえはよく使われますが、鞭はできる限り一度にたくさん当てた方がいいのです。

 あとは恐怖だけで意外と持つものですからね。

 飴の味についてはすぐに忘れてしまうので、定期的に与えたりニンジンをぶら下げたりして甘やかしてあげなければなりません。



 父上からは汚職者全員殺していいと言われました。

 とはいえ色々しがらみもありますし。

 外部の領地から縁故登用している人とかはさすがに控えるべきでしょう。

 男爵家の五男さんとか子爵家の三女さんとか、伯爵じきじきの紹介者とか。

 罪状とセットで送り返すことにしましょうか。

 ぜんぶで10人もいないので、それほど手間でもありません。


 別のポストを用意する準備がある、という手紙は添えておくとして。

 毒にも薬にもならない楽な仕事を用意することにします。

 世の中には何の役にも立たない給料だけが払われる部署というものがありまして、それは彼らのようなゴミ人材用の掃きだめでもあるのです。



 粛清が終わりました。

 やろうと思えばあらさがしをしてもう1割ぐらい殺すこともできますが……それはやりすぎですね。

 どんな組織にも2割ぐらいは屑野郎がいるものです。

 彼らは追い詰められた時には奮起して働くこともあるので、一定数のダメ人間は確保しておかねばなりません。


 汚職官僚は組織の汁をすすって幹を枯らす害虫ですが、たんなる怠け者や無能なんかを粛清するのは過剰反応というもの。

 現段階では汚職もまだまだ足りません。

 もっと時間をかけて汚職官僚が3割以上という状態まで悪化させてから皆殺しにするのが最高ですからね。

 それまでは忍耐あるのみです。

 今回かんたんに掃除しておいたので、これで後3年ぐらいは持つでしょう。


 次はまあ、私が公爵位を継ぐちょっと前ぐらいのタイミングでやることになりますね。

 そのころには悪徳代官もだいぶ育っているかと思われます。




 あんまり委縮しすぎると困るので、私が視察する前の横領罪は以後問わない、という恩赦令を出しました。

 

 これで部下さんもそこそこ安心するはず。


 あとは告げ口してきた人を怒ったり追い返したり吊し上げたりして、多少の罪なら見逃されるというアットホームな土壌を作ります。

 密告が奨励されるようでは組織は終わりですからね。

 消えた文官のポストを埋める形で直接雇用の部下をあてがい、組織を再編成します。


 並行して海軍のひな型なんかも組織しておきますね。

 交易船をちょっとだけ武装化して弱い海賊ぐらいなら追い払えるようにして、水兵のいくらかを直属の正規兵待遇にして形をととのえます。

 半年程度の調査期間ではこれはという人材は見つかりませんでしたが……まあ、あとは実践で見つけるしかないですね。

 交易と治安維持をしてもらえれば誰が有能なのかはすぐ明らかになります。


 細作部隊なんかも増員して、監査部門は独立化させましょう。

 以前の3倍ぐらいの規模にしちゃいます。

 金はあるので、やろうと思えば10倍ぐらいにもできますが…………急に頭数を増やすと統制が効きませんからね。

 何年か寝かせる必要はあるかと思われます。


 あとは、新しい港の縄張りですか。


 既得権益を握っていた地元の大商人さんに話をつけに行きましょう。




 屋敷の前に兵を展開させ、取り囲みます。

 護衛にはパールさんとヤクシャさんとラトリさん。

 他近衛を2人ぐらい連れていきますね。

 商人のエッジさんが涙目になってます。

 強面を4人ぐらい横につけてるんですが、その人たちもはっきりと顔色が悪いです。


 応接室に案内されたので、テーブルをはさんで向かい合って座ります。

 エッジさんは40代後半の太っちょおじさんですね。

 禿頭です。

 ハゲです。

 女の子に嫌われそうなタイプ。

 しわくちゃの顔に脂が浮いているため、服装は高級品なのに不潔な感じがしちゃいます。


 エロゲーの凌辱担当で出てきそうな外見……と言ってしまうのはあんまりですが。

 実際にそういうこともしているので偏見というわけではありません。

 権力をふりかざして女の子にひどい仕打ちをするという噂が絶えない人なので、まあ少なくとも善人ではないですね。

 この屋敷の地下室にもたくさん繋がれているみたいです。


 さて、交渉をはじめますか。


 でもその前に。


「さっさとその気持ち悪いの、下げた方がいいですよ。いても私の不興を買うだけなので」


 わざわざ強面さんを指さして教えてあげたのですが、エッジさんはかたくなに護衛を下げようとはしませんでした。


 あー、これ、あんまり状況が理解できてないですね。


 いままでさんざん脅して取引を優位に進めてたんでしょうけれど、公爵令嬢の私に向けてその手を打つのは分が悪すぎるってもんなのに。

 むしろこの場に連れてくるとかバカなんじゃないですかね?

 あんな暴力的な外見の護衛を使って取引の場に臨むだなんて、私をそこらの木っ端商人と区別できていないとしか思えません。


「ずいぶん、派手に動いておるようですな」

「ええ、お調子者の部下といろいろお話ししてきました」


 その話の内実が広まっているみたいなので、さすがにこれについては商人のエッジさんも誤解はしませんでした。

 文官の1割を処刑というのはウルトラスーパーな大事件なので。

 過去のエッジさんも文官相手に色々鼻薬をかがせて美味しい汁を吸わせてもらっていたはずですし。

 決して他人事ではありません。


「次は商人さんとお話しする番かな、と思ったので。こうしてお邪魔したというわけです」


 その言葉に秘められた意味を悟り戦慄したらしく、商人のエッジさんは顔を真っ青にして震えます。


「わ、わたしに手を出したら、護衛が黙っていませんぞ!」

「それで?」

「エリアンの街の商人ギルドの力は大きなものです! 公爵家の後ろ盾があっても、無茶が通るわけではありません!」

「だから?」

「わ、わたしに手をだしたら!」

「別に私は何もしませんよ? そちらから手をださない限りは。たとえばそちらの護衛さんがたが襲ってきて、その『もののはずみ』としてこの屋敷の人間が皆殺し、ぐらいのことはあるかもしれませんけれど。何もしなければ大丈夫。私は善良な商人さんの味方です」


 私はにっこりほほ笑みながら脅し文句を口にします。


 もちろん交渉の結果次第では『襲われたから仕方がなく』この屋敷の人間を皆殺しにするつもりではありますが。


 それぐらいはわかるみたいですね。


 エッジさんの呼吸が荒くなり、ひゅーひゅーという呼吸音だけが静かな部屋に響きました。


「よ、要求は」

「港の移転についてです。妨害をやめて、協力してもらえますね?」

「妨害? はてさて、いったいなんのこと」

「そーゆーのいいですから」


 ガン、とテーブルを蹴って脅しつけると、商人のエッジさんは小動物のようにおびえました。


「協力するのかしないのか。イエスかノーか」

「み、見返りは?」

「質問しているのは私です。聞かれたことにだけバカみたいに答えなさい」

「…………はい。協力させていただきます」


 まだまだ面従腹背って感じは否めませんが、とりあえずエッジさんは承諾してくれました。


「あと、あらたな港の商売への参加料としてガメルド金貨20万枚を支払いなさい」

「ふざけるな!」

「これは断れませんよ。断ったらさきほど断ったのと同じ結果になります。あなたの未来はあまり明るくはないでしょう」


 さっと手を挙げて合図をすると、パールさんたちが魔力をまとわせて臨戦態勢に入りました。

 向こうの強面さんたちがめっちゃおびえています。

 剣に手をかけることさえできません。

 この場で戦えば後は死ぬしかないので、まあ当然の反応ですね。


 この屋敷の人々の命は エッジさんの回答ひとつにかかっています。


 どうなることやら。


 まあ、私としては商人側からも多少の生贄は欲しいなーと思っていたので、どっちでもいいのですけれど。


 粛清のうわさが広まっているため、これ以上の生贄はいらないという意見もあります。

 商人さんに嫌われて困るのは間違いないところ。

 でも、ここで断られるのなら話は別ですよ。

 まだまだ死体が足りなかったということなので、今後の発展の妨げになったとしても殺しておくしかありません。


「わ、わかりました。金貨20万枚、たしかに用意させます」


 エッジさんは震える声で正解を口にしました。

 

 まさか殺されはするまい、という誤解をエッジさんがしなかったのは喜ばしいことですね。

 彼の判断は的確でした。

 私が何をするかわからない、という狂気を演出してハッタリを利かせているだけだ、と感じる人も多いので。

 その判断に沿っていれば彼の命はすでになかったでしょう。

 結果としてアークエリアンの発展も3年は遅れていたはずです。


 なかなかどうして。


 エッジさん、あなた、やるじゃあないですか。


「よかった。これで私たちは仲間になれましたね」


 私は天使の笑顔を浮かべ、それからパールさんから受け取った絵図面をテーブルに広げます。


「街の縄張り予定なんですが、こことかどうです? 一等地の中の一等地なので、その交易利権は莫大です。ここを中心に活動すれば金貨20万枚ぐらいなら3年もあれば余裕で取り戻せるでしょう。うまくやれば一年以内に回収可能とさえ言えますね」

「…………私はそれでいいとして。他の商人への説明についてはどうされるおつもりですか?」


 エッジさんは眉をひそめて聞いてきました。


 おお、ちゃんとその辺も考えてくれるのですね。

 とりあえず合格点をあげましょう。

 彼の意識はただの敵対者だったさっきから、これからの港を作る同盟者のものへと移行しつつあるようです。


「それなら、3割ぐらいでどうです?」

「3割とは?」

「ほら、この地図。ここ3割ぐらい色塗りしてあるでしょ。ここをエッジさんに預けるので、地元の商人さんへの割り振りに協力していただければ」

「なんと!?」


 与えられた利権の膨大さを瞬く間に悟ったらしく、エッジさんの顔色が変わりました。


「かわりに、文句を言ってくる人についてはそちらからも根回しや説得をお願いします。細かいことは私の部下と相談ということで」

「しょ、承知しました。それならどうにでもしてみせます」

「一応説明しておきますが、これがエッジさんへの見返りということになりますが?」

「それぐらいはわかります! というより、最初からそう言っていただければ」


 エッジさんが勝手なことを言ってきます。

 いやいや、私だって、最初から誠意が通じる相手ならそうしていたんですけどね。


「…………それだと、ごねませんでした?」

「ああ、それはまあ。いやはや、まったく。カルラ様にはかないませんな」

 

 降参のポーズをとって、エッジさんは年寄のようなため息をつきました。




 だいたい3か月ぐらいがたちました。


 港の拡張も軌道に乗り、新しい組織も動きはじめ、こまごましたトラブルについては代理領主の権限で解決できるぐらいには安定しています。


 後はほっといてもいいですね。


 港なので何でもそろいますし、長居できるぐらいには便利な場所でした。

 居心地は悪くなかったです。

 でも、やっぱり住み慣れた土地のほうが快適に暮らせますし。

 食客さんたちも向こうでの生活が懐かしくなる頃合いかと思うので、帰ることにしましょうか。


 いざゆかん!


 主都デジーコでのだらだら生活へ!


 カルラちゃんと仲間たちのニート人生はこれからだぜ!

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