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第3話「ドラゴン探し」

 ドラゴンの拠点がある山はわかっています。

 ドラゴン自体は動けても財宝や家具は動けませんからね。

 竜の巣穴には各地からさらってきた娘さんとか子飼いの部下とかもいるはずですし、その場所を中心にして飛び回るので、出没しやすいポイントというのははっきりしています。


 ドラゴン側の戦力はドラゴン本体が9割でして、後はさらってきた奴隷とか孕ませた子供とかが雑用係としてついてまわります。

 知性のあるモンスターを従えていることもありますね。

 基本的に高い実力を持っている魔物ほどドラゴンには従いません。

 竜はあくまでも一匹狼であり、部下や仲間を従えるのは面倒だという感性を持っているのが普通です。


 なので、ドラゴン退治はドラゴンさえ倒してしまえばそれで完結します。


 どの場所で竜と戦うべきか。


 それは極めて重要なポイントです。


 山の奥深くに分け入って巣の近くで戦うのは無謀というものでしょう。

 勝てなくはないかもですが、地の利は圧倒的に相手側にあるのでやりにくいです。

 できれば平地でやりあいたいところ。

 広い場所ならば攻撃を避けやすいですし、追い詰められてブレスでこんがり焼かれる、なんて場面もかなり回避できます。


 ドラゴン自体も動きやすくなりますが……なにせあの巨体ですからね。

 軽く10トンはあるんじゃないでしょうか。

 狭い場所だとパワーがものをいうのでドラゴン有利です。

 スピードと数の利を生かせる広場のほうがいいでしょう。



 とはいえ、ドラゴンさんがのこのこ散歩に来たところを襲い掛かる、なんて偶然はとても期待できません。


 エサが必要です。


 さいわい、カルラ討竜隊のメンバーには食客のラトリさんという美味しそうなエサがいます。

 彼女はドラゴンが好みそうな16歳の美少女ちゃん。

 これで竜を釣って任務達成を目指しましょう。



 …………気になる人がいるかもしれないので、ラトリさんの略歴を説明しておきますね。

 10歳で仕官に誘われ、12歳で野に下り、それから半年ほど放浪して公爵家にやっかいになって、後はずっと私といっしょです。


 10歳で仕官とか意外に思われるかもしれませんが、ラトリさんの10歳時点ならまともな大人は勝てません。

 十分すぎるほど戦場で通用するレベルです。

 原作主人公とかもケンカのはずみで村の子供や青年十余名を撲殺してしまい、7歳時点で王立魔法学校に入学してますからね。

 倫理は子供で体は無敵という、ガイキチに刃物状態の人たちです。



 ラトリさんの中身は野獣ですが、見た目はか弱い女の子なので問題ありません。


 生贄の祭壇を作ってドラゴンを招きます。

 村人は古来この儀式を通じてドラゴンのご機嫌を取っていたそうです。

 処女の村娘とかが適任なのですが、今回は狩る気満々なのでラトリさんをおそなえします。


 ドラゴンが好む香を焚き、目立つために魔石を暴発させて爆音をバンバン生み出します。


 近くから動物の気配が消えました。


 人がいるというメッセージをわかりやすく発することで、縄張りを主張してドラゴンを挑発するという手筈です。


 広場の周囲一帯にはドラゴンの領地であることを示す爪痕や糞がたくさんあるので、その中で人間が目立っていれば排除しに来てくれるかもしれません。



 この作戦はしかし、なかなか成功しませんでした。



 風向きが悪いのか。


 あるいはドラゴンがお昼寝をしているのか。


 古竜相手ならば使者に手紙を持たせておびきよせる、なんて方法も取れますが、若いドラゴンにその手は通じません。

 9割がた人語を話すことのできる古竜とは違い、若い竜は竜言語しか使えないことが多いので。

 向こうから来てくれるのを待つしかないのです。


 3時間ぐらいたっても変化がないので、ラトリさんを呼び寄せて美少女冒険者のパールさんに代わってもらうことにしました。


「エサが悪いんじゃねえか?」

「なんだとぅ!?」


 つぶやいたヤクシャさんに向けて帰ってきたラトリさんが罵声を放ちます。

 しかしこの二人、ほんっとーに仲が悪いですね。

 いや、逆に超いいのかもしれませんけれど。

 ケンカばかりしてる気がします。


 いつものことなので止めませんが、あんまり空気に慣れていないパールさんとかはハラハラしている様子。


「いっそ姫さんが座ったらどうだ? ラトリよりはたぶん食いつきがいいだろ」

「私は食いでがありませんからね。いやいや、そもそも公爵令嬢さまをエサに使わないで下さいよ。死んじゃったらどーするんですか」

「そりゃー困るが、姫さんがピンチになった場面を見たことがないからな。いつもの強運でなんとかなるんじゃね?」

「黙ればかヤクシャ! お前が食われろ!」


 ラトリさんがいじめられている私をかばって援護射撃をしてくれました。


「使えないエサがなんか言ってるな」

「ホモのドラゴンにケツ掘られろ!」

「…………おそろしい未来を口にするな。つーか姫さん、それってありえるの? まじな話?」

「絶対にありえないとは言えないんじゃないでしょうか。紅眼族の女は母体として優秀なのでどんなモンスターからも襲われますが、その延長上で倒錯した趣味を持っているドラゴンがいないとは言い切れません。その場合はヤクシャさんを生贄にささげることになりますね」

「なぜ俺なんだ。ほかにもいるだろ」

「いますけど、一番きっちり生き残ってくれそうですからね。誰かを選ぶならヤクシャさん一択です」

「うへぇ。愛されててうれしーぜ」


 すごく嫌そうな顔でヤクシャさんが降参のポーズを取りました。


 しかしまじめな話。

 これで来てくれないと山狩りをしなければなりませんからね。

 探索は地味で面倒な上に遭遇戦の危険があるので、脱落者ゼロというわけにはいかないのかもしれません。


 エサが悪い、ということはないと思います。

 ブタの丸焼きとかは秋ドラゴン向けのおそなえなので。

 春ドラゴンであればお香とドラゴンベリーと春爪草で鉄板のはず。

 女もつけてるんだからドラゴン垂涎の祭壇です。


 この時期のドラゴンはベジタリアン。

 冬眠でたまった過酸化脂質を落とすため、抗酸化作用のある野草をたっぷりとらなければならないのです。

 過酸化脂質がたまったままだと血管がつまって栄養がいきわたらないため、ぶっちゃけ太ります。

 動けないデブになってしまうのです。

 動けるデブと動けないデブの違いは、だいたい血液がどれぐらいスムーズに体を巡っているかで決まります。


 ドラゴンさんは重力魔法を使って飛ぶのでそれほど体重は問題ではないのですが、やっぱり軽いほうが動きやすいみたいです。


 しばらく待っていても来ないので、カルラ隊のみなさんは炊事をしながらカードゲームに移行することにしました。

 適当にだらけて遊びます。

 ラトリさんとパールさんが交代で生贄の祭壇にあがり、ピクニック気分で暇つぶしをすること3時間。


 状況に変化がありました。


 


 その竜人は白旗を振りながら近づいてきました。

 気配を隠そうとしていないので1キロ先からでもわかります。

 ぱっと見た感じ人間のような輪郭なのですが、近づくにつれて腕や足の一部が鱗に覆われているのが見て取れるようになります。

 なかなかの美少年……いや、美少女なのでしょうか?

 両耳の上には角があり、肌の色もうっすらと緑がかっていて、明らかに人間でないことは一目瞭然でした。


 かなり強力な竜人です。

 帯びている魔力が桁違い。

 ここにいるメンバーと比べても決してひけをとりません。


 警戒の視線にさらされている中を堂々と進み、5メートルほどの距離にまで近づいてから白旗を捨ててバンザイします。


「私の名はカンキタン。ドラゴン討伐のための部隊とお見受けする」

「何用ですか?」

「母上の無事を約束してほしい。かわりにドラゴン退治には全面的に協力させてもらう」

「くわしく話を聞きましょう」


 なんでもカンキタンさんは竜にさらわれた人間女の子供であるらしく、母親を人質に取られてドラゴンに従い続けてきたとのこと。

 しかし私たちドラゴン討伐隊の戦力が明らかに父親を上回っているように思われたため、いっそのこと私たちの方に協力し、その手柄で身の安全をはかりたいという話です。


 まあ、どこにでもこーゆー裏切り者っていますよね。


 ドラゴンは超暴君で有名なので、部下からすれば殺しても足りない存在ではあるでしょう。

 その点だいぶ同情の余地はあるかもしれません。


「わかりました。その母親に敵意さえなければ公爵領で保護します」

「感謝します」

「早速ですが、私たちは情報を求めています。巣の場所やドラゴンの行動パターンについて、知っていることを全て話しなさい」

「はい。付近の地図はありますか?」


 カンキタンさんからドラゴンの巣の場所を聞き出します。

 極めて重要なドラゴンのお散歩コースも教えてもらいました。

 なるほど、渓流の上も通るのか。

 高さの安定した砂場も近くにありますし、そのへんで迎撃するのがベストですね。

 巣を襲撃するよりも安全です。


 さっさと準備にかかりますか。


「よろしいのですか?」

「なにが」

「あの竜人、ドラゴン側の間諜ということも」

「だとしても、です。ほかに手がかりもありませんからね。山の探索で1か月かけるよりも、ひとまずは彼のもたらした情報を使って戦うのがベストでしょう」


 決戦場をどこに選ぶかは私が決めたことですし。

 彼の話しぶりには思考を誘導しようとする気配がありませんでした。

 参考にするぐらいなら許容範囲かと思われます。


 もちろん竜人は裏切りリスクが高いので連れていけません。

 村に送って監視をつけて軟禁し、主力部隊は罠を運び込んで竜退治の準備をします。


 食事を取って寝て起きて、竜の飛んでくる時間に合わせて準備運動をします。

 カンキタンさんの情報は正しかったらしく、1時間も待たないうちに下流からドラゴンが飛んでくるのが見えました。


 点のようだった影がだんだん大きくなってきます。


 ドラゴンが上空に差し掛かりました。


 少し誤差がありますけど十分対応範囲内。

 全員で移動して対空結界を張ります。


 巨大な影の高度がどんどん落ちてきます。

 空を飛ぶ時のドラゴンの体重は10キロ以下になっているため浮力が勝りますが、重力負荷魔法で加重をかけてやればこの通り。

 抵抗することもできずに地面に引き寄せられています。


 不時着のために滑空するドラゴンを鉄索ロープで受け止め、拘束にかかります。


 着陸の大振動。


 竜の巨体が川横の砂地に激突します。


 空に舞う竜は地に落ちて、そして網にかかりました。


 この場所から再び空に飛び立つことはできません。

 ドラゴンが空を飛ぶには高所から飛び降りるか、長い時間をかけて重力魔法で体を持ち上げていく必要があります。

 戦闘中に空へ逃げることは不可能。

 この場所に誘導されたドラゴンは勝敗としてはすでに詰んでいます。


 あとの問題は、被害の多寡ですね。


 どうなることやら。


 緑色の鱗を持つドラゴンは大きく息を吸い込み、竜の咆哮を発しました。


「ギャオオオオオオオオオオオ!」


 空気を震わせる衝撃波がカルラ討伐隊のメンバーを貫きます。

 ちょーこわいです。

 鉄索ロープがぶちぶちとちぎれました。

 不良品か!

 ちぎれなかったロープは杭ごと引き抜かれ、あるいは掴んでいる人の体ごと引っ張られます。


 これがドラゴンの力ってやつですね。


 まあいいです。最初っから完封できるなんて思ってはいませんよ。


 カルラ隊のみなさんが槍やハンマーを手に取り、各々の役割に従って配置につきました。


 狩りのはじまりです。


 狩りのはじまり、のはずです。


 まさか私たちが狩られる側だなんてことは…………その、ないですよね?

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