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第8話「戦後の後始末」

 魔族に占拠されていた街では、奴隷として捕らわれていた住民が見つかることがままあります。


 戦闘後に探索したところ、生き残りの人間が100名ほど発見されました。

 凌辱されたり拷問にかけられたりしているので、無事な人はほとんどいません。

 医者が見放すレベルで回復の見込みがない人にはこっそりトドメを入れておきます。

 みんなには内緒ですよ?


 一人一人手を合わせて祈りをささげ、免罪符を張り付けて聖句を唱えます。


 さすがに淡々とやったら人望が減るかもしれませんからね。

 ちょっとだけ苦渋の表情とか浮かべてみます。

 護衛さんが代わりましょうかと申し出てくれましたが、これはどう考えても私の仕事です。

 人にやらせれば人望が減りますし。

 私がやるぶんには大した影響はありません。


 もともと指導者というのは資源の分配者でして、誰を生かして誰を殺すのかを決断するのが生業です。

 少なくとも私の周囲にいる人はそれを知っているので、いまさら幻滅もなにもないでしょう。


 生きてても誰も幸せにならない人を殺すなら、私がはまり役ってことですね。


 とはいえ、まあ、四肢の一部が欠損してるぐらいでトドメを刺すわけにもいきません。


 怪我人は保護し、治療を施します。

 女性とかは見るも無残なことになってます。

 繁殖における役割分担で神様に嫌われているというべきか…………男ならケツを掘られても痔で苦しむぐらいで済むんですけどね。

 女の場合は洗えば済むというわけにはいきません。

 魔族の子供ができちゃってるケースが多いのです。


 魔族さんたちはずいぶんとお楽しみだったようですね。


 今は墓の下ですけど。


 運命の神に愛された魔族さんであれば、特級美人と財宝だけ持ってさっさと地下に逃げることに成功しているかもしれません。

 そーゆーのは魔族的には勝ち組だといえますね。

 連れ去られた人は負け組ですが…………悲惨な未来ばかりを想像する必要もないです。

 ここはプラス思考でいきましょう。

 あんがい種族を超えた愛とかが生まれて、ラブロマンスが発生する可能性とかもありえます。


 地下世界に消えた人はそれでいいとして。


 目の前にある妊婦の群れは悲しい現実そのものなので、いかなる虚飾も許されません。


 元気な人もいるにはいるのですが、たいていの人は虚空を眺めていたり曖昧な笑みを浮かべたりしています。

 助けられたことを素直に喜べる精神状態ではないみたい。

 うわ、なんかすごい美人さんとかも何人かいましたよ。

 私とかわらない年の女の子とかもいます。

 これは街の男の人は泣くでしょうね。

 もったいないお話です。


 見栄えのいい人ほど大事にされていたようで、美少年美少女とかはものすごく高そうな服に身をまとって発見されています。

 体も清潔だし、健康状態も良好。

 ただ、やはり相当ひどい目にはあっていたらしく、自殺を試みたような傷跡も見られます。

 こーゆーのはげんなりしますね。

 せっかく助けてあげたんだから、ありがとうの笑みを浮かべて感謝のキスとかしてほしいのですけれど。


 いやまあ、魔族の下卑た欲望にさらされて可愛がられてきた被害者にそれを求めるのは、さすがに酷であることは私にも理解できるので。


 多くは望みますまい。


 せめて堕胎のためのお薬は用意して、恋人や家族のもとに返してあげるとしましょうか。


 産む産まないについては本人に考えてもらえばいいですね。




 後日、よくがんばった人には褒美を出しました。

 ギルドでの地位向上とか、単純に金とかですね。

 捕らえた魔族の中でも見目麗しい人は屋敷に持って帰りましょう。

 原作ヒロインが魔族にさらわれそうになるなんて場面もありましたが、それの逆バージョンなわけですね。



 一般ギルド員への報酬は金貨1枚ぐらいでいいです。

 街を探索させてあげたこと自体がご褒美というものでして、きっと火事場泥棒を働いてめぼしい財物は他に隠してしまったことでしょう。

 それがRPGの宿命というやつです。

 勇者でさえタンスを開けてゴールドを盗むのに、盗賊もどきであるギルド員にそれをやるなとは言えません。


 ちゃんと活躍した人には個別に報酬を出します。

 パーティーリーダーへの報酬は金貨5枚として、魔族の首を取った人にも金貨10枚ぐらいは支払うべきでしょう。

 正規兵には誘えませんが、恨まれるのもあれなので。



 食客さんは安定の無給一択です。

 彼らはこづかい制なので、欲しい時に金をせびればいいのです。

 せめてもの情けとして、食客さんぜーたく基金にちょっとだけ上乗せプールしておきますか。


 そーいえばカシードの街の娘さんと婚約した食客さんが1人いましたね。

 彼は正規兵への就職を希望しているので、それは手配してあげるつもりです。

 今後私にため口はきけなくなりますけど…………実力は折り紙つきですし、それなりに上手くやっていくでしょう。


 正規兵になった食客さんは昔の仲間から敬語で話されるべき立場になってしまうので、もはや一般人と仲良くやることはできません。

 このへんはおいおい教育していけばいいですね。

 たまに適応できなくて職を辞める人もいるみたいです。

 正規兵になった時点で庶民からは明確な敵意を向けられるので、それにショックを受けて心身を病んでしまうケースもある模様。



 正規兵さんへの報酬は魔族の首で金貨100枚ぐらい、加えて勲章とかになります。

 細部は帰ってから相談して決めることにしますか。

 昇給とか昇格とかボーナスとか、まあ春までの暇なときにでも。


 もちろん私が自分の目で直接働きを見た人は、仮に首を持っていなかったとしても軍功が大きく追加されます。

 隊長からの推薦だと3~7割引きぐらいで考えとけばいいですね。

 自分の部下の働きを大げさに報告してしまうのは上司の本能です。

 現実から極端に離れていなければ問題視することもありません。


 あとはまあ、遅刻してきたのんびり屋さんには後始末を任せておくことにしましょうか。

 正規兵であっても仕事の引継ぎに手間取ったり行軍を怠けたりといった理由で決戦に間に合わなかったマヌケがいるのです。

 さすがに彼らの軍功はほぼゼロでして、私としても最低評価以外をつけることはできません。

 そりゃまあ仕方がなく遅れたのかもしれませんけれど、武功は戦わないと得られないのです。

 これはどーにもなりません。



 え、ギルドマスターですか?

 彼は処刑され、死体は広場でさらし者になってます。

 私に尻尾をふる無能なら生かしておいてあげてもよかったんですけれど、低能は救いようがないですから。



 後釜には有能な人を据えなければなりませんね。

 忠誠心はこのさい不要です。

 あのギルマスよりは誰でもましでしょうけれど、この場所を治めるのは無能な人にはちょっと難しいかと思います。


 有能な人は裏切りリスクも高いので、あんまり活用したくはないのですが…………この土地だけはしょうがないですね。

 大前提として魔族の侵攻を抑えねばならない以上、のーたりんを使うことはできません。

 ギルドの幹部から何人かリストアップしておきましょう。



 屋敷に帰る前に、ささやかながら歓待の宴を開きます。

 よく働いてくれた志願兵とか正規兵とか食客さんとかを集めての催しですね。

 私を嫌っていたギルド員さんもこの時ばかりは喜んでくれました。

 なんせ街を救った英雄さんですからね。

 そこかしこからちやほやされるので、大いに鼻の下を伸ばしてらっしゃいます。


 私も自ら人と話してまわり、ヨイショを繰り返して縁を深めておきます。

 まあ、志願兵やギルド員のことを思い出す機会なんて今後ないと思いますけれど……我こそは公爵令嬢のおぼえめでたき国士なり、とか錯覚してくれれば裏切りリスクが減りますからね。

 ほめておだてて木に登らせとくのがセオリーです。




 北への帰り道。

 一つの季節が終わり、雪が降りはじめました。

 今年はゆっくりと家でくつろぐことにします。

 さすがにこれ以上は仕事も回ってこないでしょう。


 しかしなんというか…………魔族相手の戦いって不毛ですよねえ。

 別に領地が増えるわけでもないですし。

 せいぜい責任者を失脚させて利権を再分配するぐらいしかおいしいポイントがありません。


 もちろん魔族が遺棄していった武具とか財宝とかはゲットしてますけど、それ以上に地下世界へと持ち去られているわけだから差し引きではマイナスになります。

 魔族大好きの変態性癖を持っている人ぐらいしか素直に喜べません。

 騎士爵位のためだからがんばりましたが、こーゆー面倒ごとは二度とごめんこうむりたい感じです。


 今回のイベントの何が不服かって、そりゃあ政治的な影響力を発揮する機会がなかったことですよ。

 父上から受けた任務が『魔族退治』だったせいで町長の首をすげかえたり議員をいじめたりといったお楽しみが発生しませんでした。

 できれば『ミズバラの街の治安回復』に関する全権を与えて欲しかったです。

 それなら私相手にぺこぺこ頭を下げてくる利権おばけをいじめたり接待を受けたりと、いろいろ金の飛び交うシーンを見ることができましたのに。


 屋敷の居住権を争って私に助けを求める民衆の群れとか、最高にそそられるシチュエーションなんですけど。


 指先一つで右往左往。私の機嫌によって今後の人生が決まります。

 そういう哀れな人々の悲喜こもごもを楽しむことこそが戦争の醍醐味ではないですか!


 私って正直、あんまり戦争好きじゃないんですよね。


 自分でも向いてないと思います。


 私が好きなのは権力を振りかざして立場の弱い人をいじめることであって、戦争自体が特に好きなわけではないのです。

 戦争に勝つのはそれなりに充実感がありますが、やはりそのあとの混沌とした状況をまとめて楽しむことこそが戦争の醍醐味です。

 それならギルドマスターを処刑せずにペットとして飼って、私の足をなめさせたりする喜びも味わえましたのに。


 まあ、それは次の機会でいいです。


 父におねだりしてみましょう。


 後始末については任務に含まれていなかったため、今回のイベントはとてつもなく早く終わりました。

 移動時間込みで2か月かかってないですからね。

 いただいた金貨もだいぶ余りましたし、スピード解決という面では満点をつけてもいいでしょう。


 正規兵の損害はほぼなし、ギルド員はどうでもよし、街はほとんど無傷で奪還できたので、総合点ではかなりのものかと思われます。


 欲を言えば人材発掘面で不満がありますね。

 志願兵の中から見つかった正規兵候補は2人だけ。

 士官級の人材はゼロでした。

 まあ、今回使ったのは地元に愛着のある人ばかりだったので…………野心のある人でないと宮仕えは望みません。

 連れてきた正規兵の中から使えそうな人が見つかったのが収穫らしい収穫というところです。


 人です。

 人が足りません。


 今回のような任務を丸投げしても解決してくれる部下に出会いたい。

 そう考えるのはわがままなのでしょうか。

 原作主人公クラスの出会い運が欲しいです。

 婚活に苦悩する女性ってこんな気持ちなんですかね。


 ああ、出会いってどこに落ちているのかしら。


 次から学園編に移るべきな気がします。


 いや、学園編に入った物語は高確率でエタるので、危険度で言えば魔族退治の比ではないのですけれど。

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