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第1話「幼女転生者の目覚め」

 みなさんこんにちは。


 没落寸前の公爵家に転生してしまったカルラです。


 本当にありがとうございました!!!



 …………冷静になれ、私。



 冷静になって前世知識を思い出したところ、現在10歳の私は13年後に公爵領の支配者となり、18年後の28歳時点で公爵領の自治権を奪われ、お飾り領主として2年ほど生かされた後、30歳の時点で暗殺されてしまうということがわかりました。


 お先真っ暗です。


 いったいなぜ私がそんな不幸な目に合わなくてはならないのか。


 犯人は原作主人公です。


 全部あいつのせいです。


 悪役令嬢としてちょくちょくいじめただけなのに、それを根に持って復讐してきやがるひどい奴です。

 別にいじめてなくても新大陸の利権をかけた戦争は勃発するでしょうし、その結果として負けた側は殺されてしまう可能性大なわけですが、やっぱり悪役令嬢のほうが後味すっきり殺せるだろうという理由で用意されたキャラクターこそが私です。

 お前らちょっといい加減にしろよ。

 悪人にも人権はあるんだぞっ!!!


 困りました。


 困りました。


 私は死にたくありません。


 できれば100歳ぐらいまでは生きたいです。

 もちろん悪役令嬢として贅沢しまくって、お金を湯水のように使って、下々のものを酷使しながらたのしく生きたいです!



 …………この性格が地であるのか、それとも転生先のカルラさんと混じったせいなのかはともかくとして。



 没落が約束された公爵家の跡取りである以上、何らかの手は打たなければなりません。


 手を打つ、といっても、今は当主である父が健在なので問題ありません。

 頭からっぽでもへっちゃらです。

 降って沸いた問題は父が片付けてくれます。

 仮に父が頑張ってもどうにもならない問題なら、あーぱープリンセスの私ごときが出しゃばっても無駄でしょう。

 重要なのは父が死んだあと、13年後の激動期をどのように乗り切るかにあります。


 前世の価値観だと女の私が、どーして男限定のはずの貴族位を継ぐことになるんだよって話ですが、この世界では女性が家督を継ぐこともある、というかむしろよくあることみたいです。

 かわりに女もよく戦場に行って戦い、よく死にます。

 なんでやねん!


 13年後、原作通りなら、私は病死した父の後を継ぎ、23歳という若さで公爵領の当主になってしまいます。


 私は公爵位継承権1位のため、次の公爵になることはほぼ確定しています。

 なので、13年後に父が死んでしまえば私を保護してくれる人はいなくなります。

 13年後の私は自己責任で予算と権限とを部下に割り振らねばなりません。

 どのような部下がいてどのような仕事に向いているのか、今からちゃんと確認しておく必要があるみたいです。

 めんどいー。


 いやほんと。


 人付き合いとか、ちょーめんどいです。まじだるです。


 一方的に命令する分には全然問題ないというか大好きです。

 私の都合で人が右往左往するのを見るのはたいへん楽しいものなのです。

 ひかえろ下郎!

 とか言っちゃったり。

 しかしそれだと部下が委縮してしまって力を発揮できないので、ある程度は自由を与え、部下に金と権限とを与えて任務をこなしてもらわねばなりません。


 相手の顔を立てて力を十分に発揮してもらうとか、ほんと最悪です。

 どーして身分が下の人間に気を使わなくてはならないのか。

 不毛な努力するのはとてもつかれることなのです。

 そこまでしても原作主人公に殺されてしまいかねないあたり、最悪の二乗と言えるでしょう。



 あるいはここが優しい世界であれば、私自身の力で未来を切り開くこともできるはずなのですが…………残念ながら原作は剣と魔法の戦争ファンタジーものではあっても、個人の力で万軍を相手に戦えるような化け物は一人も登場しませんでした。


 できれば私は魔法少女の世界に生まれたかった。

 変身して正体を隠して責任を放棄しつつ、悪い奴をやっつけてすかっとしたかった。

 もちろん悪役令嬢カルラちゃんも魔法が使えるので、いちおう分類的には魔法少女なのかもしれません。

 ただ、この世界の魔法というのは体重増加とか防御壁とかがメインでして、物理で殴るための補助装置という位置づけです。

 杖を振ってきゅるるーんとはいかないのです。

 空からお菓子も降りません。



 結論だけいうと、私個人の力で破滅フラグをへし折るのは不可能だということです。


 どうしたって人を使って戦う必要があります。


 人を信じて戦う必要があります。


 それは、私には…………いえ、たぶん誰にとっても、とてもむずかしいことなのです。




 いっそ逃げようかと思いましたが、この優雅な生活を捨ててまで庶民になり下がる気にはなれません。

 原作ヒロインはよくそんなことができたものだと思います。

 食事はゴージャス、ベッドはふかふか、使用人はぺこぺこ。

 庭は一日がかりで探検できるほど広いですし、専用の庭師さんが何人もいるのでとっても綺麗です。


 麦わら帽をかぶってドレスに身を包み、ぽかぽか陽気の中で季節の花を愛でながらお弁当を食べるのが私のしふくのひととき。

 この生活のためなら人だって殺せます。

 それを手放すなんてとんでもない!!!



 とはいえ、残念ながら私は公爵家の継承権1位。

 次期当主様でありますから、遊んでばかりもいられません。


 公爵の跡取り娘として、聞くも涙、語るも涙の訓練をこなす日々です。

 すべてこなせれば晴れて一人前、いろいろと仕事を任されるようになるそうです。


 訓練はストレスがたまるので、とてもたいへんです。



 つい先日も処刑される罪人の首をはねてきたところです。

 剣が血脂まみれで汚かったです。

 知っていますか。

 人は首を落とされた後もしばらく生きてるんですよ。

 おちた首にぎょろりと睨まれました。

 怖いですよね!



 つい先日は暗殺者への対応を身に着けるための訓練がありました。

 むくつけき男が3人がかりでとらえようと襲ってくるのです。

 私が10歳じゃなければ犯罪的な絵面です。

 むしろ10歳のほうがやばいかもしれませんが。

 大男のごつい手で捕まれるのは痛いし、こわいです。


 とはいえ、私もやられっぱなしではありません。

 この世界の貴族はとても力が強く、私はその中でもさらに強いのです。

 なんとか先日撃退することに成功しました。

 いい大人が3人も地面にへばりついています。

 ぶざまです。

 たまっていたうっぷんを晴らすために蹴りを入れるとぐえっと鳴いてもだえました。

 とてもたのしい!!



 つい先日には礼儀作法の訓練が終わりました。

 といってもこれはすぐ終わるようなもの。

 令嬢転生ものだと必死でマナーを身に着けるために勉強している描写がありますが、支配者層にとってマナーは守るものではなく人に守らせるもの。

 簡単に基本だけ抑えれば教育終了だそうです。

 らくちん!


 そもそも『マナーというのはその場のみんなを不快にさせないように身に着けるものであって、人を攻撃する道具ではない』などと教育係の人は言っていましたが、それは真理だと思います。

 貴族社会でも上に行けば行くほど、マナーは雑になります。

 公爵家は貴族社会の一番上なので、超雑です。



 ただ、帝王学とかの教育については別枠できっちりありまして、国家体制とか各地の有力者とか歴史とかに関しては鬼のように厳しく叩き込まれます。

 この辺の勉強に関しては終わる様子が全くありません。

 つらいです。


 算数に関しては前世知識があるのでかんたん。

 物理もかんたん。

 化学はとっても難しいです。

 というのもこの世界と転生前とでは物理法則が微妙に違っていまして、たとえば火薬を合成しても燃焼反応せずに爆発が起きなかったりします。

 共通する部分と違う部分とがよくわからないですし、それを検証するための施設も暇もありません。

 私には内政チートは無理そうです。


 もうすぐ没落するのに、こんなことしてていいのかしら。


 まあ現実問題として10歳児に何ができるんだよという話ですし、大いなる歴史の流れの前では個人の力なんて無力です。

 いくら私が公爵家の当主継承権第1位であるとしてもです。

 親族だって一枚岩ではないですし、直属の部下もほとんどいないのが現状です。

 人生で道を選べる機会というのはそれほど多くはないものでして、その時がくるまでは臥薪嘗胆、じっと耐えるしかありません。


 さて。


 その時なのですが、意外と早くやってきました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み始めたばかりだけど主人公の性格が好きすぎる
[良い点] 消えてしまった作品から読んでいました。 三作の背景は!と楽しませていただきました。 次回作品をお待ちしております。 ありがとうございました
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