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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第11章 世界の監視者
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第90話

生活環境の激変で遅々として原稿が進みません……(´;ω;`)

「くっそぉ! しつけーんだよ!」


 カイルが怒声を上げて槍を振るう。その槍に薙ぎ払われ、四足歩行の獣型の魔獣が三体まとめて崖下に転落した。


「おっし! こっちは片付いたぜ!」


 目の前の魔獣を全て薙ぎ倒したカイルが辺りを見回す。それとほぼ同時に、フィゼルも最後の一匹を斬り伏せた。


 王都を目指すフィゼル達一行は、ついにゼラム大陸最大の難所と言われる“デモンズ・バレー”に入った。荒涼とした景色が延々と続く渓谷で、強力な魔獣が数多く生息している危険な地帯である。


「さあ、グズグズしてると置いて行くよ! 早く乗り込みたまえ!」


 レヴィエンを除いた四人が導力車を取り囲んだ魔獣の群れを追い払ったのを確認して、レヴィエンが再びエンジンをかけた。


 後ろから再び魔獣の群れが迫って来ている。このデモンズ・バレーに入るまで、一行はほとんど魔獣に襲われることは無かった。主要な街道には導力技術を用いた魔獣除けの仕掛けがあり、一行の乗る導力車にもその装置が搭載されているからだ。しかしここに生息する魔獣はそんなものはお構いなしに襲い掛かってくる。


「これがデモンズ・バレーの魔獣か。まさかここまで熱烈に歓迎してくれるとはな!」


 後ろから追いかけてくる魔獣の群れを振り返りながら、カイルが忌々し気に吐き捨てた。


「いえ……確かにここの魔獣は好戦的ですが、今日は特に殺気立っているように感じます……」


 以前、アレンが王都からフレイノールを目指してこのデモンズ・バレーを通った時はここまで魔獣が襲い掛かってくることは無かった。それからまだ幾日も経ったわけではないのに、渓谷に漂う空気が明らかに一変してしまっている。


「前からも来たか。どうやらまた戦わないといけないようだ!」


 アレンがこの異変に考えを巡らしていると、運転席のレヴィエンから声が上がった。顔を上げると、前方から有翼の魔獣が群れを成して飛来してくるのが見えた。


「“ハーピー”か……なかなか面倒な相手だね」


 軽く舌打ちをして、レヴィエンは懐の導力銃を取り出した。


 ハーピーは半人半鳥の魔獣である。力はそれほど強くないものの、素早い動きで上空を飛び回り、剣や槍の届かないところから攻撃を仕掛けてくる厄介な相手だ。飛び道具でもなければ苦戦は免れない。


「そのまま! 停めないで走って!」


 ハーピーとの距離が完全に詰まる前にブレーキを掛けようとしたレヴィエンに、ミリィが叫んだ。そして右手を空に掲げ、密かに練り上げていた魔力を放出した。それは遥か上空で巨大な冷気の塊となり、そこから生み出された氷の矢が次々とハーピーの群れに襲い掛かる。


「す……すげぇ……!」


 思わずカイルが感嘆の声を漏らすほど、ミリィの放った魔法は圧巻だった。生み出された無数の氷の矢は回避しようとしたハーピーをどこまでも追尾し、一匹残らず撃ち落としていく。甲高い鳴き声だけを残し、あっという間に前方のハーピーの群れは殲滅された。


「ハッハッハ、さすがミリィ君だ。ますますボクは君の虜になってしまったよ」


 運転席からレヴィエンがさりげなくミリィの肩に手を回そうとする。その気配を察知したフィゼルが咄嗟に拳を振り上げた瞬間――


 ――ヒュッ


 ハーピーを追い回していた氷矢の一本が、急降下してレヴィエンの正面から顔のすれすれを通過して運転席のシートに突き刺さった。


「あら、ごめんなさい」


 レヴィエンの方に顔を向けることもなく、ミリィは涼しい顔をしていた。さすがのレヴィエンもこれには顔を蒼褪めさせ、ミリィへと伸ばした手をさっさと引っ込める。


「……こりゃ苦労するぞ、お前」


 これでもしレヴィエンが運転操作を誤って崖下に転落したらどうするんだと内心ぞっとしながら、カイルは同情めいた顔でフィゼルの肩に手を置いた。


「えっ、俺!?」


 突然カイルに話を振られて、フィゼルは驚きに声を上擦らせた。そして顔を赤くしたフィゼルを見て、カイルは分かりやすい奴だと心の中で笑った。


 昨夜のフィゼルとミリィのやりとりを聞いていたわけではないが、二人の様子を見ればその関係に変化が生じたことは明らかだった。二人とも憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとした表情をしている。


「しかし凄い魔法ですね。これはもしやリオナの……?」


 アレンもカイル同様、いやそれ以上にフィゼルが元気を取り戻したことに安堵した。そして先程ミリィが放った魔法にどこか懐かしい気配を感じ、前方のミリィの背中に問いかける。


「はい、これはお母さんの力。私の中でお母さんが力を貸してくれているんです」


 自分の中にあるリオナの力を確かめるように、ミリィが眼を閉じて胸の前で手を組む。意識を沈めれば、確かにそこにリオナの存在を感じられた。


 元々メフィストフェレス程の大魔族に見初められるほどの素質は持っていた。それがリオナの魔力を分け与えられたことにより一気に開花し、今や賢者に匹敵する程にまでなっている。


「よーし! 俺も!」


 ミリィの活躍に触発されたフィゼルが、疾走する導力車の中で勢い良く立ち上がり、そのまま後部座席からさらに後方の荷台に飛び移った。そして足を開いて腰を落とし、腰に差した剣の柄に手を掛ける。


「フィゼル? 何を――」


 それは自身が得意にしている居合斬りの構えによく似ていた。しかし後ろから追いかけてくる魔獣の群れとはまだ距離が離れている。アレンが怪訝に思い、フィゼルに問いかけようとした時――


「うおりゃあ!」


 フィゼルが気合と共に剣を抜き放ち、真一文字に振り抜く。すると弓月形の衝撃波が発生し、魔獣の群れへと襲い掛かった。それは先日フィゼルがガーランドとの闘いで見せた、“疾風の御剣(はやてのみつるぎ)”による風の魔力の放出だった。あの時の記憶はフィゼルには無かったが、その感覚だけは確かに残っていた。今ではその風の魔力に“宝剣”の力も加わっている。


「おお……! できたっ!」


 イメージした通りの結果に自分でも驚きながら、続けて一振り二振りと同じ斬撃を飛ばしていく。それは正確に魔獣の群れを蹴散らし、ついには退散させることに成功した。


「よっしゃ――って、うわぁっ!」


 魔獣の追手を撃退し、意気揚々と拳を突き上げたフィゼルだったが、次の瞬間、突然激しい横Gを受けて荷台から転げ落ちそうになった。


「ああ、急カーブだから気を付けたまえよ」


 タイヤを横滑りさせながら猛スピードでカーブを駆け抜けながら、レヴィエンがしれっと言ってのけた。


「それはカーブの手前で言えよっ!」


 すぐ横は崖である。万が一落ちたら絶対助からない。寸でのところで転落を免れたフィゼルが怒りに震える声で叫んだ。


「まあまあ、フィゼル。しかし凄いですね。私もかつてはその剣を使っていましたが、そんなに早く“力”を使いこなせませんでしたよ」


 先程の斬撃をレヴィエンの後頭部に向けて放ちかねない形相のフィゼルを宥めて、アレンが驚きと感心の念を込めて言った。


「そ、そう?」


 アレンに褒められたことに気を良くしたのか、フィゼルはレヴィエンに対する怒りを忘れ、照れくさそうに頬を掻いた。


(しかし、この魔獣の動きは異常ですね。やはり“彼”に会わなければ……)


 フィゼルに関してはもう心配いらないだろうと確信し、アレンは改めて以前とは様変わりしているデモンズ・バレーの魔獣達に考えを巡らした。そして、恐らくその鍵を握っているだろう男の姿を思い浮かべる。


 王都からフレイノールに向かう際、アレンがこのデモンズ・バレーを横切ろうとしたのは、単にそれが最短ルートだからという理由だけではなかった。ワイズマンの二人――ガーランドとヨシュアによって阻まれる形となってしまったが、アレンはその男に会うつもりだったのだ。











 その夜、一行は少し拓けた場所に導力車を停め、野営することにした。導力車に備え付けられている魔獣除けの仕掛けだけではここの魔獣には通用しないため、レヴィエンが周囲に結界を張って魔獣除けの備えとしている。


「しっかし、何気に一番働いてんのはアイツなんだよなぁ」


 小さく起こした焚き火の前に座ってコーヒーを飲みながら、カイルは三つ並んだテントの内の一つに眼を向けた。その中ではレヴィエンが休んでいる。


 実際、たった一人で導力車の運転を担い、こうして魔獣除けの結界まで張っている。本人はフィゼルをからかったりミリィにちょっかいを出したりと、相変わらず飄々としているのだが、かなり疲労は蓄積しているはずだ。


「分かってるよ。認めたくないけど、ね」


 焚き火を挟んでカイルの正面に座り、同じようにコーヒーを飲んでいたフィゼルが応えた。その言葉に「それは俺も同感だ」とカイルが笑った。


「ところで、アレンさんはどこ行ったんだ?」


 もう一度並んだテントの方に眼を向けて、カイルがフィゼルに訊いた。夕食の後、「朝までには戻ります」とだけ言い残し、アレンはどこかへ行ってしまった。当然どこへ行くつもりなのか問いかけたのだが、アレンは答えてくれなかった。


「さあ……でも、先生のことだから心配はいらないよ」


 マグカップに残ったコーヒーを一気に飲み干し、フィゼルはごろんと寝転がった。アレンがどこへ何をしに行ったのか気にならないわけではなかったが、あれこれ考えても仕方がないと思っていた。


 フィゼルもアレンに話していないことがある。それでもアレンは自分のことを信じてくれた。ならば自分もアレンを信じるべきだ。


「……ふぅん。なんか急に大人びやがったな。昨日の夜、ミリィと何かあったのか?」


 カイルが少々意地の悪い笑みを浮かべながら質問すると、それまで落ち着いていた雰囲気が嘘のように狼狽した表情でフィゼルが飛び起きた。


「なっ、何かって……別に……っ!」


「はっはっは、隠すな隠すな。いいぜ、そういうの。ちゃんと“この次”を考えてるんだな」


 フィゼルとミリィが何を話したのかは分からないが、二人は明らかにこの戦いが終わった後のことを見据えている。未来など完全に諦めていたかつてのミリィを知っているからこそ、カイルにはそれが何よりも嬉しかった。


 フィゼルにはカイルの笑顔の理由が分からず、ミリィとの約束を見透かされたような気がして恥ずかしくなった。赤くなった顔を誤魔化すためにそっぽを向き、焚き火の陰に隠れるように再び寝転がる。まだまだ当分大人にはなれないようだ。











 フィゼル達から離れ、アレンはとある断崖絶壁の淵に立ち、どこを見るでもなく遠くを眺めていた。谷底から吹き上げる風がビョウと音を立て、アレンの前髪を揺らしている。


「久しいな、“剣聖”よ」


 そのアレンに声が掛けられたのは、それからしばらくしてからだった。ようやく待ち人が現れたことに安堵の溜息を漏らしながら、アレンがゆっくりと振り返る。


「本当に久しぶりですね、ゲルディオス」


 二十年振りの再会だった。アレンは目の前の人物――いや、正確には“人”ではない。人間の姿をしてはいるが、その正体は――


「貴方に訊きたいことがあります。竜の王よ」


 久しぶりの再会を喜ぶでも懐かしむでもなく、アレンは固い表情でドラゴンの頂点に君臨する“竜王”ゲルディオスに問いかけた――


≪続く≫

次回は10/1(土)19:00更新予定です。

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