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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第9章 フレイノール炎上
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第65話

新章突入です。

大規模な戦闘が勃発する予感です。

「なぁなぁ、フラン。ウチな、ずっと前から気になっててんけど」


 ワイズマンの面々は今、フレイノールの街中に潜伏している。それぞれ好きな場所で待機し、“その時”を待って行動を起こすということだけ申し合わせていた。


「何だ、バネッサ?」


 手頃な建物の屋上でぼんやりと風に吹かれながら、バネッサは同じ場所で待機しているフランに日頃の疑問をぶつけた。


「フランってNo.2やんかぁ。ウチな、No.1の顔見たこと無いねんけど。それ以外はみんな知っとんのに」


 ワイズマンはそれぞれ固有のナンバーと二つ名を持つ。フランのNo.2を筆頭に、それ以降のナンバーを持つ仲間は知っているのだが、一番若いナンバーを持つ人間だけ顔も名前も知らなかった。順当に考えるならその者こそがワイズマンのリーダーであるべきなのだが、その役目はフランが担っている。


「ああ、そのことか。別に特別な意味は無い。ただ単にNo.1が居ないだけだ」


 バネッサの疑問ももっともだと思いながら、フランは極めて単純な理由を口にした。しかしバネッサがそれに新たな疑問を持つ。


「居らん? なんや、死んだんかいな」


 自分達の任務は常に危険と隣合わせだ。バネッサもとある自治州の長を努める賢者を暗殺したことがあるが、その時はかなり苦戦を強いられたものだ。


「いや、確かに任務中に命を落とした奴は居るが、No.1だけは別だ。最初からその席は空けられたままになっている」


「はぁ? 何でそないなややこしいことすんねん?」


「そこに据えたい人間がいた(・・)らしい。が、結局“あのお方”はその者を我らのようには扱えなかったようだ」


「何やそれ? ますます訳分からんわ。誰やねん、それ? ってか、なんで“あのお方”はそいつをワイズマンにせぇへんかったんや?」


「さあな、あのお方にはあのお方なりの考えがあったのだろう」


 特に興味も無いといった感じで、フランが薄く笑う。バネッサも「ふ~ん」と相槌を打ったきり、それ以上は何も言わず、ただぼんやりと眼下に広がる街並みを眺めていた。











「王国軍が動いたというのは、具体的にはどういうことですか?」


 大聖堂の執務室で、アレンは胸騒ぎを必死に抑えながらケニスに訊いた。


「今朝、王都に派遣している調査員から連絡が入ってね。王国軍の軍艦が次々とグランドールから出港しているとのことだ。その数は王国軍の大半に上るらしい」


 そんな大軍を率いて向かう先は一つしか考えられない。


「ディーンは……フレイノールを潰す気ですか」


 アレンが拳を握りしめた。その表情はかつての戦友に対する怒りと悲しみに満ちている。


「今、王国軍に対抗できるのは僕達だけだろうからね。ディーンとしては王国軍の全勢力を傾けてでもフューレイン教を叩き潰したいのだろう。たとえ、フレイノールの街を灰燼に帰してでも」


 ケニスの言葉に、皆が一様に顔を強張らせる。もし本気で王国軍がフレイノールに攻め込んで来ようものなら、本当にこの街は壊滅に追い込まれてしまうだろう。


「どうするんだい、ケニス?」


 それまで黙って聞いていたアリアが口を開いた。ケニスがこのまま何もせずに指を咥えているはずがない。アリアもアレンもそう思っていた。


「もちろん、考えはある。街を戦火に晒さないためにも、こちらからも打って出て、海上戦にて迎え撃つつもりだ」


 フューレイン教の私設騎士団である“神託(オラクル)騎士団”が王国軍に匹敵すると言われているのは、あくまでも例えである。本当に全力でぶつかり合えば王国軍の方が圧倒的に数の上で勝っているのだ。だが海上戦ならば導力技術の発達したフレイノール製の軍艦の方が性能面では勝っていた。


「恐らくは互角以上の戦いができるはずだ。すでにレヴィエンには手筈を整えさせている」


 ケニスがレヴィエンの方に視線を向け、それを受けてレヴィエンも無言で頷いた。


「猊下のご命令通り神託(オラクル)騎士団の大半を出撃させましたけど、本当に良かったんですか? おかげでかなりこの街の守りが手薄になりましたけど」


 ケニスに命令を下されてから、レヴィエンはずっとこのことを懸念していた。今、フレイノールにいる神託(オラクル)騎士団はほんの僅かなのだ。


「仕方ないさ。相手もほとんどの戦力をつぎ込んできている。元々数で劣る我々が出し惜しみをするわけにはいかない」


 レヴィエンの懸念ももっともだが、ケニスの考えも当然のように思えた。どの道フレイノールに上陸を許せば、勝敗がどうなろうと街は壊滅状態になってしまうのだ。たとえ街の守りを薄くしてでも、海上で王国軍を叩かねばならないだろう。


「おい、俺達はどうするんだ? まさかこのまま留守番じゃないだろうな」


 話が進むにつれ、カイルの心は焦燥感で一杯になっていった。間もなく世界の命運を分けるかもしれない大戦が始まろうかという時に、ただじっとしている己の身がもどかしいのだ。


「もちろん、我々は我々で行動に出る」


 カイルの問いを予想していたように、ケニスは机の引き出しから一枚の地図を取り出して広げた。


「僕達はこれから陸路で王都に向かう。アレンがそうしたように、真っ直ぐ大陸のど真ん中を横切れば、ちょうど王国軍とオラクル騎士団が海上戦を展開している最中に王都に辿り着けるはずだ」


 地図の中央に描かれた大陸の西の端――フレイノールを指で示し、それをまっすぐ東側――王都まで動かす。


「アーリィが王都からフレイールを目指した道を逆に辿るのですね?」


 ケニスが示したルートを同じようになぞりながら、しかしレヴィエンはその途中――地図上に“デモンズ・バレー”と記された個所で指を止めた。その場所をトントンと叩き、溜息をつく。


「ここを抜けるとなると、少々危険が伴うねぇ。ボクは遠慮しようかな?」


 もちろん冗談で言っているのだが、アリアとカイルは一人緊張感の見られないレヴィエンをギロリと睨みつけた。


「まあ、確かに危険なことには違いない。だからアリア君には残ってもらう。でもレヴィエンにはついて来てもらうよ。君が居ないと――」


「ちょ、ちょっと待って下さい。いくら大陸を真っ直ぐ突っ切ったとしても、時間的にそれは……」


 ケニスの言葉をアレンが遮る。アリアが同行しないということには賛成だが、自分達の足でも王国軍と教会の軍艦が衝突するより早く王都に辿り着けるとは思わなかった。大陸の沿岸を各港に停泊しながら進む連絡船とは訳が違うのだ。


「ああ、それなら心配いらないよ。“導力車”を使うからね」


 言葉を途中で遮ったアレンに微笑み返して、ケニスはレヴィエンに視線を向けた。その視線の意味を理解して、レヴィエンが小さく肩を竦める。


「導力車? しかし、いくらなんでもそれで大陸横断というのは……」


 ケニスの案に難色を示したのはヴァンだった。経験上、導力車がどういう物か知っているのだ。


 現在運行されている乗用導力車は、都市から都市へときちんと整備された街道を走っているだけである。その用途は単に馬車の代わりであるが、能力的には馬車のそれを上回るというほどのものではない。平坦な道だけなら大丈夫だが、大陸横断となると当然そういうわけにもいかないはずだ。ましてや、あの“デモンズ・バレー”を抜けるとなると――


「ああ、その点なら心配無い……と思う、多分ね」


 ヴァンの懸念にケニスが曖昧に応える。その言葉に、ヴァンだけでなくカイルも不安そうな眼差しをアレンに送ったが、アレンは困ったような苦笑で頷くだけであった。


「まあ、百聞は一見に如かずさ。導力車は街の外にすでにスタンバイ済みだから、これから早速出発するとしよう」


 それ以上の説明はせず、ケニスが立ち上がった。これからすぐに出立ということに全員が驚きの表情を見せたが、そんなことはお構いなしに皆を部屋から押し出した。


「あ、そうそう。あの二人はどうするんだい、アレン?」


 大聖堂の長い廊下を並んで歩きながら、ケニスは隣のアレンに視線と問いを投げかけた。あの二人とはもちろんフィゼルとミリィのことだ。


「…………」


 アレンはしばらく無言のまま歩き続けた。ケニスの問いの意味を理解し、その答えもとうに自分の中で固まっているのだが、それをなかなか口に出すことができずにいる。


「僕としては戦力は少しでもあった方がいいと思っている。だけど、二人の抱えている事情を考えるとね……」


「……もしフィゼルやミリィさんが一緒に戦いたいと言うのなら……」


 最初はできるだけフィゼルやミリィをこの件に関わらせたくないと思っていた。だが、もはやそれは叶わない。ミリィはもちろんのこと、フィゼルも自分の運命に立ち向かおうとしている。ならばアレンもその運命に共に挑もうと思った。


「いいんだね?」


 ケニスが改めてアレンの覚悟を問う。それに対し、アレンは強い決意を秘めた眼で僅かに微笑みながら頷いた――


≪続く≫

大規模な戦闘……

もうちょっとお待ちくださいm(__)m


次回は8/4(木)19:00更新予定です。

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