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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第8章 絡み合う運命の糸
58/94

第55話

ケニスのキャラはほぼレヴィエンと同じですね^^;

レヴィエンをもうちょっと大人にして落ち着かせた感じでしょうか。

「それで、ルー君と母君はどうしているんですか?」


 一夜明けて、自室でガウンから再び煌びやかな法衣に着替えるケニスの背中に、レヴィエンが問いかけた。


「セリカ君には今日一日の務めは全て休んで、娘さんと一緒にいてやるように言っておいたよ。今日は二人でフレイノールの街でも見物するんじゃないかな」


 ケニスも背中越しに応えながら、意味ありげに含み笑いをした。その気配にレヴィエンが首を傾げる。


「随分とあの子を気に掛けるじゃないか。君が特定の女の子にここまで優しくしてあげているのを見るのは初めてだったものでね」


 身嗜みを整えたケニスがレヴィエンの正面のソファに腰を下ろし、からかうような視線を向ける。レヴィエンはその視線を軽く笑って受け流した。


「“家族”というものに少々思い入れが強いだけですよ」


 レヴィエンはテーブル上のポットを持ち上げると、二つのカップに自ら淹れたハーブティーを注いだ。


 特に何の感情も込められていない言葉だったが、ケニスは「しまった」というような顔で黙ってしまった。


「ああ、別に他意はないですから気にしないで下さい」


 ケニスの沈黙の意味を敏感に感じ取り、レヴィエンが笑って手を振る。


「レヴィエン……今でも僕達を恨んでいるかい?」


 レヴィエンの口から“家族”という言葉が出たことで、ケニスの思いはレヴィエンの生い立ちに及んだ。


「冷めますよ、紅茶。せっかくボクが心を込めて淹れたんですから」


 ケニスの絞り出すような問いには答えず、レヴィエンは笑顔のまま紅茶を勧めた。


「……うん、そうだね。すまない……僕としたことが野暮な事を訊いた」


 我ながら本当につまらないことを言ったと思いながら、ケニスは自嘲気味に笑った。勧められたティーカップを持ち上げ、微かな湯気と共に立ち上る芳醇な香りに眼を細める。


「君がいない間、これが飲めないのが一番辛かったよ」


 さっきまでの雰囲気が嘘のように、ケニスがいつものように大袈裟な口調でレヴィエンの淹れたハーブティーに最大の賛辞を贈った。


「フッ、ご冗談を。ボクの淹れた紅茶など、猊下秘蔵のワインコレクションに比べたら、取るに足らないものでしょうに」


 ケニスの言葉を軽くいなし、レヴィエンもカップに口を付ける。こうやってケニスに朝一番のハーブティーを淹れてやるのが、いつの間にかレヴィエンの日課になっていた。


「そうだ、“グングニル”の調子はどうだい? まだ試作品だが、十分に役に立っただろう?」


 不意に、ケニスが思い出したようにレヴィエンの懐を指差しながら言った。


「ええ、“神の槍(グングニル)”という名前は少々大袈裟な気もしますけど、確かに破壊力は申し分ないですね。ただ“溜め”に時間がかかるのと、連射ができないのが玉に(きず)ですか」


 レヴィエンは懐から煌びやかな装飾が施された銃を取り出し、テーブルに置いた。


「さすがにこのサイズだと、導力回路を組み込むだけで精一杯だったからねぇ。導力エンジンの小型化が進めば、自分の魔力を注入しなくても動かすことも可能なんだが」


 レヴィエンの扱う装飾銃――“グングニル”は、導力技術の発達したフレイノールで開発された導力兵器だった。通常、銃というのは薬莢に込められた火薬の爆発力で弾丸を発射するのだが、それに導力エネルギーを上乗せすることにより、計り知れない破壊力を生み出している。


 導力機械を動かすのに必要なものは二つ――“エンジン”と“回路”だ。導力エンジンは機械を動かすための導力エネルギーを生み出し、導力回路はそのエネルギーを目的に合わせて各部へ送る。


 回路そのものは単純に機械自体の大きさに比例するのだが、エネルギーを生み出す導力エンジンは必要とするエネルギーの大きさに比例するため、大出力で小型の導力機械というものはまだ存在していなかった。


 レヴィエンの“グングニル”は通常の銃に回路だけを組み込んだもので、それを動かすためのエネルギーはレヴィエン自身が生み出さねばならない。それは魔法を使うのに似ているのだが、必要とする魔力は膨大なものとなっていた。


「一撃必殺と言えば格好良いですけど、外せば命取りになるというのは考えものですね」


 元々銃に限らず武器というものは、その威力が大きければ大きいほど後の隙も大きくなるものである。ありとあらゆるもの全てを貫くかのような威力を誇る“グングニル”の場合、完全に態勢を崩してしまうほどの反動が身体にかかっていた。当然、外せばたちまちに反撃を受けてしまうだろう。


「まあ、使い易さに傾倒して威力を落とすなら、何も導力を用いる必要はないしね。特に今回の敵はあまりにも強大だ。このぐらいの際物(きわもの)でなければ戦うことすらできないだろう」


 身体能力で劣るのであれば、強力な武器に頼るしかない。


「それについては同感ですね。“剣帝”に加え、賢者と同等の力を持つ人間が何人もいる。仮に神託(オラクル)騎士団が王国軍と互角に渡り合えたとしても、戦力不足は否めないでしょう」


 レヴィエンはテーブルから銃を拾い上げ、それを点検するように全身を見回してから懐にしまった。極めてピーキーな得物だと思いながらも、これからの戦いを考えればこれほど頼もしい相棒もない、とも思っている。


「……できることなら君には前線に立ってもらいたくはないんだけどね」


 カップに残った紅茶を飲み干して、ケニスが大きく溜息をつく。


「フフ、何を今更。これでも結構危ない目に遭って来たんですよ? 猊下の人使いが荒いから……」


 自分の身を心配してくれているのは分かっていた。だがそんな事は言っていられない状況だろうということは、レヴィエンがこれまで潜って来た修羅場の数が物語っている。


「君に万が一の事があったら、もう二度とこのハーブティーが飲めなくなる」


 空になったカップをレヴィエンの方に差し出し、「おかわり」を要求する。レヴィエンはそれに苦笑いを浮かべながら紅茶を注いだ――











 その日も何事もなく過ぎ去り、アレン達はフレイノールに到着してから三日目の朝を迎えた。


 相変わらずルーはセリカにべったりとくっついている。セリカもまた、日々の務めが行えないことに困惑しながらも、ルーと離れることができないでいた。


「早くぅ、フィゼルさん達にも紹介したいです~」


 ルーはここへ辿り着くまでの冒険の数々をセリカに話して聞かせた。時には危険な目に遭ったということまで話したので、セリカは眼を瞠ってルーの身を心配したが、その際に自分を守ってくれた同年代の男女の話をする時が、最もルーの眼は輝いていた。


「フフフ。ルー君がいると、なんだか場が明るくなるねぇ」


 フレイノールに到着した時のメンバーにヴァンとケニス、それとセリカを加えた八人は、同じテーブルを囲んで朝食をとっていた。


 一介のシスターが教皇と同じテーブルにつくなど恐れ多いと、セリカは辞退しようとしたが、ケニスは笑ってそれを許した。


 昨日もルーとセリカを除いた面々が朝昼晩と同じ食卓について、今後についてあれこれと話し合っていたが、それも完全に煮詰まってしまったため、これからはルーも一緒にということになったのだ。セリカと離れたがらないルーの強い希望で、セリカもそこに加わることになった。


「そういえば、今日あたり着くころだねぇ」


 ルーの言葉に、まず応えたのはレヴィエンだった。


 ここ最近は天候も穏やかで、連絡船の運航に支障をきたすことはないだろう。


「ああ、噂のフィゼル君とミリィ君か。僕も会いたいねぇ」


 ケニスもフィゼルとミリィの事はアレンやレヴィエンの口から聞いていた。特に興味を惹いたのが、アレンから聞いたフィゼルの話だ。妻のシェラにさえ話さなかったフィゼルとの出会いを、アレンはケニスには打ち明けていた。


「……フィゼル達は大丈夫でしょうか」


 ルーとセリカも同席しているため、はっきりとは口にしなかったが、アレンは二人の身を案じた。


「大丈夫だよ。ま、田舎者丸出しのフィー吉なら本当に迷子になってしまうかもしれないけどね」


 アレンの心配と配慮を理解した上で、レヴィエンは二人の心配は無用だと伝えた。


 王都ではレヴィエンと同じく王国軍に捕まり、釈放された後も何者かの監視下にあった二人だが、恐らく二人が監視されていた理由はアレンとの関わりを疑われたからだ。もしくは教会の人間であるレヴィエンのおまけだったかもしれないが、どちらにしてもアレンが無事にフレイノールの大聖堂に辿り着いた今となっては、わざわざリスクを冒してまで二人を襲う理由がない。レヴィエンはそう考えていた。


「まあまあ、子を心配する親の気持ちというのはそういうものだよ。ねえ、セリカ君?」


 ケニスの言葉はレヴィエンに対してだが、その微笑みはセリカに向いていた。


「猊下……」


 ケニスの視線を受けて、セリカは恥ずかしそうに俯いた。


「そうだ、何ならもう一度神託(オラクル)騎士団を港に差し向けようか?」


 尚も心配そうな表情のアレンにケニスがとんでもない提案をした。その眼はイタズラっ子のように輝いている。


「それには及びませんよ。というか、やめて下さい。フィゼル達は私が港まで迎えに行きますから」


 自分が敵に狙われていることは承知の上だが、仮に敵に襲われても一人ならどうとでもできる。フィゼルとミリィを連れていたとしても、港から大聖堂に掛け込むくらいなら問題無いはずだ。


「だが君一人だけだと向こうも気付かない可能性もある。どうだろう、僕も二人には早く会いたいことだし、みんなで迎えに行くというのは?」


 皆といっても、アリアやルーといった非戦闘員を除いた五人のことだ。カイルはもちろんのこと、ヴァンも魔導師としてはかなりの実力者だった。


「……感謝します、ケニス」


≪続く≫

次回、ようやく52話のラストと繋がります。

果たして、絶体絶命のピンチに陥っていたフィゼルの運命は――!?


次回は7/18(月)19:00更新予定です。

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