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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第7章 声無き慟哭は清き流れに乗って
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第49話

今日は七夕ですね。

皆さんの所からは天の川見えているでしょうか?

 アリアに連れられて、アレン、レヴィエン、カイル、そして何故かルーまでもが宿屋の一室に集まった。この部屋のすぐ上の階にレヴィエンやルーも部屋を取っている。


「説明してくれよ、アリアさん。なんでこの指名手配犯とアリアさんが一緒にいるんだ?」


 部屋に入るなりカイルが口を開いた。だがアリアはそれには応えず、アレンをベッドの上に座らせ、手早く上着を脱がせた。


「ったく、やっぱり傷が開いてるじゃないか」


 アリアが溜息交じりに呆れたように言った。その姿を見たルーが「ひゃっ」と小さく悲鳴を上げる。


 アレンは身体のほとんどを白い包帯で包まれていた。その胸やわき腹など数ヶ所が赤く染まっている。


「だから言ったじゃないか。『取り返しのつかないことになるかも』って」


 レヴィエンは王都の地下水路で憲兵達に取り囲まれた時の話をした。あの時強行突破を図ろうとしたアレンを、一応はこう言って止めたのだ。しかし結局アレンはその言葉を無視し、レヴィエンを残して一人で憲兵の囲みを突破したのだった。


「……そうですね。まさか国王暗殺の濡れ衣まで着せられるとは思いませんでした――っつ……!」


「ほら、話は包帯巻き直してからにしな」


 アレンとレヴィエンが会話している間もアリアはアレンの包帯を外し、開いた傷口を手当てしていた。だがその荒っぽい治療にアレンが顔を歪める。


「おい、どういうことだ? この男は国王暗殺未遂事件の犯人じゃないのか?」


 カイルがレヴィエンの袖を引っ掴んで問い詰めた。


「う~ん……そうだねぇ……」


 カイルの問いにレヴィエンが言い辛そうに口籠った。真相をどこまで話していいものか迷っているのだ。


「その男なら大丈夫だよ。そのうち呼びつけて協力させるつもりだったんだ」


 アレンの包帯を巻き直し、「よしっ」とその上から一発叩いてからアリアがレヴィエンの方を振り返った。レヴィエンの迷いを察し、カイルが信頼できる人物だということを保証する。


「アリアさん……一体何だってんだよ? 俺にはさっぱりだぜ」


「それは後でちゃんと説明してやるよ。だけどその前に一つ確認しなきゃなんないことがある」


「確認すること……?」


 アリアの強い眼差しに、カイルはごくりと生唾を呑んだ。


「アンタ……以前言ってくれたわね。アタシやジュリアの為なら命だって懸けられるって。その言葉に嘘はないかい?」


「なっ……なんだよ、今更そんなこと。決まってるじゃねえか。アリアさんは俺の恩人だ。アリアさんやチビスケの為なら、いつだってこの命投げ出す覚悟だぜ!」


 アリアの真剣な眼差しに気圧されながらも、カイルはそれ以上の強い意志をその瞳に宿して答えた。


「よし。じゃあその命、しばらくアタシに預けな。これはアタシやジュリアの為だけじゃない、世界の命運が懸かってるんだ」


 カイルの言葉ににやりと笑みを零しながらアリアが言った。この男の一本気なところをアリアは非常に気に入っている。カイルの言う“恩”などアリアは全く気にしていないが、この男になら自分も迷わず命を預けられると思った。


「話が全く見えねーが……。まぁいいさ! 望むところだ!」


 事情も分からず命を懸けるなど正気の沙汰ではない。しかしカイルは何の迷いもなく笑って拳を突き出した。


「何だい何だい? こんな暑苦しい男よりも、ツバメにするならボクのような爽やか美男子の方がお勧めだよ?」


「冗談でしょ。アタシはアンタみたいなのよりカイルの方がよっぽど好みだね。もっとも、アタシのツバメじゃなくてジュリアの婿に貰う予定だけどね」


「むっ、ということはボクのライバルというわけだね?」


「訳の分らねーこと言ってんじゃねえ。アリアさんも、何バカな事言ってんスか」


 カイルの困った顔が面白くて、アリアは声を上げて笑った。


「あの……ところで、こちらでぐっすりお休みになられている子は……?」


 不意にアレンが口を挟んだ。見ると、アレンの隣のベッドにルーが寝転んでいる。


「いつの間に……」


 すやすやと寝息を立てるルーの顔を、カイルが呆れたような眼で見た。


「ハッハッハ、ルー君は大物だねぇ。ま、ちょうどいいじゃないか。このまま話を進めよう」


 レヴィエンは簡単にルーの紹介をし、共にフレイノールに向かうことを告げた。


「……しかしできることなら彼女とは別行動にした方がいいのではないですか? またいつ襲われるか分からないのですから」


 アレンの言うことはもっともだ。自分達と行動を共にするのはあまりにも危険すぎる。元々無関係なわけだから、そんな危険を冒す理由がなかった。


「ところがそういうわけにもいかなくなったのだよ」


 レヴィエンは王都でルーやフィゼル、ミリィと出会った経緯をアレンに説明した。その時点ですでにレヴィエン達は何者かの監視下にあったのだ。即ちルーの顔を敵方に覚えられている可能性がある。


「そうですか、フィゼル達も……」


 アレンは眼を伏せ、唇を噛んだ。元々フィゼルを巻き込みたくないという気持ちで単独行動を取ったアレンだが、事態が進むにつれ、その思いはより一層強まっている。単純にフィゼルの身を心配する気持ちもあるが、それ以上に、この件に関わることはフィゼルにとって最悪の事態を招く恐れがあったのだ。


「ま、ここまで来たら仕方のないことだよ。いくら“四大”と呼ばれた賢者とはいえ、敵もまた四大の一人ではね。さらには賢者と同等の力を持った人間を数多く抱えているとなると、とても一人ではどうにもならないんじゃないのかい?」


 レヴィエンがアレンの身体に巻かれた包帯を指差しながら言った。アレンがどうしてこのような怪我を負ったのかを察しているようだ。


「ちょっと待て。今、賢者って言ったか? この男が賢者だってのか?」


 レヴィエンとアレンの会話にカイルが割って入った。レヴィエンの“賢者”という言葉に反応したのだ。


「賢者というのは本当にいるのだよ。なんなら、さっきの話をもう一度してみたらどうだい?」


 レヴィエンがカイルに意地の悪い眼を向けた。


「ぐっ……」


 カイルが顔を歪めるように引きつらせる。


「さっきの話?」


 アレンが首を傾げながらレヴィエンとカイルに問いかけた。


「い、いや……何でもないんだ」


 カイルが慌ててごまかす。


 レヴィエンの言う“さっきの話”というのは、洞窟からの帰り道にカイルが言った賢者というものについての自分の思いだった。


 賢者というものが本当にいるのなら、何故世界は平和ではないのだろう。何故人々は今も苦しんでいるのだろう――


 お伽話のように聞いていた賢者の姿と、しかし今目の前にいるアレンの姿とはあまりにもかけ離れていた。確かに人間離れした力を持ってはいそうだが、それは決して万能でも絶対でもない。アレンが負っている怪我がそれを物語っていた。


「分かっただろう? たとえ賢者といえども、何でも思い通りにできるわけではないのだよ」


 レヴィエンはカイルに向かって言ったが、その言葉はむしろアレンに向けられているようにも思えた。


「そのナンパ男の言う通りさ。賢者だって人間。神でもなきゃ仏でもないんだよ」


 アリアがレヴィエンの言葉を引き継いだ。今度ははっきりとアレンに向けて。


「アリアさん……ボクはナンパ男などではないよ? 美しいものに目が無いだけの、愛と美の伝道師さ」


「それをナンパ男っていうんじゃないのか? って、まさかお前――」


 カイルがレヴィエンにツッコミを入れた後、はっとした顔でアリアを見た。その視線を受けて、アリアが腰に手を当てて呆れたように溜息をつく。


「そのまさかさ。この馬鹿、アタシをナンパしたのよ。四十近くの、旦那も子供もいるアタシをさ」


 確かにアリアは美人の部類だろう。四十近いといっても、外見だけ見れば三十代前半に見えなくもない。それでもレヴィエンの年齢からすれば随分上ということなのだが。


「しっかし、アリアさんをナンパするなんて命知らずな……」


 カイルも呆れ顔でレヴィエンを見た。アリアの若い頃の武勇伝をジュリアから色々と聞かされており、街で声を掛けてきたチンピラ風の男を半殺しにしただとか、マフィアの親分を舎弟にしてるだとか、およそ信じられないようなものばかりだが、アリアと長く付き合っているうち、それが全て真実であると確信したものだ。


「まあ、この男がどういうつもりでアタシに声を掛けてきたのかは分かんないけどね。アタシがアレンを(かくま)っているって知ってたんじゃないのかい?」


「いやだなぁ、ボクは純粋にアナタの美しさに心を奪われてしまっただけのことさ。それにアーリィの事を打ち明けたのはアリアさんの方からだよ?」


 街で声を掛けられたアリアは、レヴィエンが素人ではないと見抜くとすぐにこの部屋に引き込んだ。もちろんレヴィエンの素性など知る由もなかったのだが、身動きの取れない自分達の代わりに見張り役などに利用するつもりだったのだ。


「アレンの方は驚いたようだったけど、アンタはそれほどでもなさそうだったからね」


 長くギルドのマスターをやってきたアリアは、ジュリア以上に洞察力に長けている。一瞬でアレンとレヴィエン関係に気付き、二人の機微を感じ取った。


「ボクだって驚いたさ。まさかアーリィがここまでズタボロにされるなんて思わなかったからねぇ」


 それは正直な感想だった。四大と呼ばれたアレンに敵う人間がいるとすれば、同じく四大ぐらいなものだと考えていた。だが、二人掛かりとはいえ、アレンにこれほどまでの手傷を負わせた者達がいるという事実は、少なからずレヴィエンにも衝撃を与えたのだ。


「……“ワイズマン”というコードネームで統一された恐るべき力を持った者達です」


 アレンは厳しい眼つきで自分の身体を見た。


「ただの人間ではないようだねぇ。“WISE-MAN(ワイズマン)”というコードネームからも彼らの素性は推し量れよう」


 モーリスの廃坑、王都の地下水路、そして先程見てきた王国軍の秘密の施設から、レヴィエンはある一つの結論に至った。


「……では、やはり?」


 アレンもレヴィエンと同じことを考えていた。だがそれはできることなら外れてほしかった予想だ。


「ああ、奴らは“賢者”を作り出すことに成功している」


≪続く≫

次回は7/9(土)19:00更新予定です。

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