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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第7章 声無き慟哭は清き流れに乗って
47/94

第44話

新章突入です。

レヴィエンとルーはレティアに到着しました。


初めてレビュー書いて頂きました♪

泣きそうです!

 水の都レティア――


 それはゼラム大陸を縦断する巨大な運河の上に築かれた人工の水上都市だった。元々離れ小島のような家と家を小舟で行き交う集合体だったのだが、時代を経て今や世界有数の大都市に発展している。


 街を縦横無尽に走る水路と、その上に浮かぶゴンドラが昔の名残を今に残し、街の名物にもなっていた。


 セリカ・ハルリスはその日も劇団の練習場でダンスのレッスンを受けていた。


 荒削りながら光るセンスと抜群の表現力で、入団二年目にして早くも大役を任されるようになり、元々人一番練習熱心だったにもかかわらず、今では誰かが止めないと倒れるまで踊り続けるほどになっていた。


 朗らかで人当たりがよく、誰からも良く愛された。その上美人とあっては、誰もが劇団の看板娘と認めないわけにはいかなかった。


 無論言い寄る男も掃いて捨てるほどいたわけだが、その中でも特に熱心に劇場に足を運んでいた一人の男とセリカは恋に落ちた。


 男の名はジェラルド・スタンレイ。レティアに駐在する王国軍の青年将校だった。


 ジェラルドもなかなかの美男子で、物腰も柔らかとあって街中の女性の眼を惹いていた。


 そんな二人の交際はあっという間に街全体の知るところとなり、街中の嫉妬や羨望を一身に集めたものだ。


 そして二年後、二人はめでたく結婚することとなる。


 結婚後も変わらず劇団員として一層の人気を博していたセリカだったが、半年も経たないうちに夫のジェラルドに王都への配置替えの辞令が下った。地方の駐在部隊長だったジェラルドにとって、それは間違いなく栄転と呼べるものだった。


 相談の上、セリカはレティアに残って女優を続けることにした。ジェラルドも数年もしなうちに王都での役職を辞して、レティアに戻ってくるつもりだった。


 そんなセリカが身体の異常を感じたのは、ジェラルドが王都へ向かった僅か一週間後のことだった。セリカは新しい生命をその身に宿していたのだ。


 ジェラルドが戻るまで女優を続けるつもりだったセリカだが、多くの仲間やファンに惜しまれつつ引退を表明した。子供と二人でジェラルドの帰りを待つことにしたのだ。


 やがて一人の元気な女の子を出産し、名前もジェラルドと手紙で相談して決めた。ジェラルドの手紙からは、無事子供を産んでくれたセリカへの感謝と、傍にいてやれないことの謝罪が書き綴られていた。そんな文面からもジェラルドの誠実さや自分とまだ見ぬ子供に対する溢れる愛を感じ、セリカは寂しさを感じながらも幸せな日々を過ごしていた。


 王都に赴任してから一週間に一度は届いていた手紙が届かなくなったのは、それから半年ほどしてからだった。


 きっと忙しく働いているんだろう、とセリカは特に不審にも思わなかったのだが、ちょうどその辺りから自分の周りに何やら怪しげな人物がうろうろするようになった。直接何をしてくるというわけでもなかったが、ずっと監視されているような気がするのだ。


 不安に思ったセリカがかつての上司である劇団長のヒルダに相談しようとしたその日に、約一カ月振りとなるジェラルドからの手紙が届いたのだ。


 いつも軍人とは思えないほど美しかった手紙の文字は、今回だけは汚く乱れていた。便箋自体も薄汚れており、それがまともな状態で書かれたものでない事を物語っていた。



 ――王国軍の秘密を知ってしまった。私はもう助からないだろう。君の身にも危険が迫るかもしれない。頼む、逃げてくれ!――



 文面はそれだけだった。王国軍の秘密とは何なのか、ジェラルドが今どこでどんな状態にあるのか、セリカには皆目見当も付かなかった。だがその文章からは、逼迫(ひっぱく)した状況だけはひしひしと感じることができたし、何より最近自分の周りをうろついていた謎の人間達がその手紙の信憑性を高めていた。


 手紙を読むや否や、セリカは取るものもとりあえず娘を抱えて家を飛び出した。だが逃げろと言われても一人ではどうにもならない。


 セリカはヒルダに助けを求め、事情を知ったヒルダはセリカと赤子を巧く監視の目を掻い潜ってレティアから連れ出した。


 世界中にコネを持っていたヒルダはそれらを駆使し、何とか追手を躱していったのだが、二カ月もすると次第に追い詰められていった。


 元より女二人と生まれたばかりの赤子では逃げるにも限度があったのだ。ヒルダは心を鬼にして、セリカに赤子を置いてゆくことを提言した。


 セリカが捕まれば当然赤子の命もない。二人が生き残るためにはこうするしかなかった。


 セリカは当然すぐには受け入れようとはしなかったが、自分の為に命を掛けてくれたヒルダを共に死なせるわけにはいかなかったし、何よりも自分がどうなろうとも娘だけは無事に生きていてもらいたかった。


 セリカは大粒の涙を流しながら、現在自分達を(かくま)ってくれていた山村の村長に娘を託した。


 娘が大きくなったら、自分は捨てられていたということにしてほしいとセリカは言った。


 理由はどうあれ娘を置いて行く罪悪感から、たとえ無事に逃げ切れようとも、もう二度と娘に会うことはないと覚悟を決めていた。だから娘にも敢えて恨まれようとした。


 だがそんなセリカに、せめて何かを残していくようにと言ったのはヒルダだった。もし娘が将来、母親に会いたいと思った時に手掛かりになるようにと。


 セリカは女優を引退した後も大事に身につけていたウンディーネのブレスレットを村長に渡した。団長の言うように、万に一つでも自分に会いたいと思ってくれるなら。そんな思いがセリカの心をより一層絞めつけた。


 その夜、二人は闇に紛れて村を出た。なんとかグランドールでフレイノール行きの連絡船に乗り込むことができたなら、いつの間にか指名手配犯にされてしまった身でも、もしかしたら教会に助けを求められるかもしれない。


「ごめんね……ごめんね、ルー……っ!」


 夜の山道を必死に駆け下りながら、セリカは大粒の涙を流し、何度も何度も娘に謝り続けた――











「その後……まあ色々あったけど、あなたのお母さんは無事に教会に保護されたわ。私もこうして劇団に帰ってくることもできたしね」


 時は流れ十五年後、ついに待ちに待った日が訪れたとヒルダは眼に涙を浮かべた。その前には同じく涙を(こら)えている一人の少女の姿がある。


「何度もあなたの無事を確認したいと思ったわ。だけど、私もあなたの姿を見たら……きっと本当の事を言わずにはいられなくなるから……」


 だからヒルダの方からドルガに連絡を取ることもなかった。もっとも、ドルガの方は年に一度くらいの頻度でヒルダに手紙を送り、ルーが元気に育っていることを伝えていたという。


「……お母さんは……?」


 堪え切れなくなった涙で頬を濡らしながら、ルーが震える声で訊いた。


「フレイノールにいるわ。保護された後、そのまま教会の修道女(シスター)としてあなたの無事を祈り続ける日々を送っているの」


 ヒルダはずっと背負っていた荷物をようやく下ろせた気がした。











「おや、ひどく哀しげな後ろ姿だと思ったらルー君じゃないか」


 ウンディーネの本部でヒルダに話を聞いた後、ルーは橋の欄干(らんかん)(もた)れ掛かって足元を流れる水路を一人でぼんやりと眺めていた。それまで街中をぶらついていたレヴィエンがその背中に声を掛ける。


「あっ、レヴィさん……」


 レヴィエンに声を掛けられて、ルーが振り返った。無理に笑顔を見せるものの、その眼は赤く腫れている。


「団長さんとの面会はどうだったんだい? 残念ながらボクは追い出されてしまったが」


 レティアに到着すると、二人は真っ直ぐウンディーネの本部に向かった。王都で貰った紹介状を見せると、団長のヒルダは快く面会に応じたのだが、本部に入るや否やレヴィエンは劇団員の女の子にちょっかいを出し、すぐさま放り出されてしまったのだ。


「お母さんのぉ、居所が分かりましたぁ」


 ここまで来る連絡船の中で、ルーはレヴィエンに自分の事情を話していた。


「……そうか、フレイノールに。それで、ルー君はこれからどうするんだい?」


 ルーの話を聞いた後、レヴィエンは眼を細めながら訊いた。


 元よりレヴィエンの目的地はフレイノールである。本来ならここで別れる予定であったが、ルーがフレイノールまで行くというならこのまま同行するつもりだった。


「ルーはぁ、やっぱりお母さんに会いたいですぅ」


 ヒルダから母の真相を聞いて、ルーの心には今までと違う感情が生まれていた。


 それまではただ会いたいという気持ちだけだった。具体的に何がしたいわけでも、何が言いたいわけでもない。ただ会いたい――その思いだけでここまでやって来た。


 だが今は違う。母に会えたら最初に言う言葉も決めていた。


「そういえばぁ、なんでレヴィさんもぉ、ここで船を降りたんですかぁ?」


「ハッハッハ。こんな可憐な少女を一人になんてしておけないだろう? ……というか、それは最初に訊いてほしかった……」


 レティアには一時的に停泊しただけで、二人が乗って来た連絡船はもうすでにフレイノールに向け出港している。レヴィエンまで船を降りる理由はなかったのだが、ルーは今頃になってその理由を尋ねたのだ。本来なら船を降りた時点でこのやり取りを行いつつ口説こうという、相変わらずの腹づもりだったのだが。


 結局その日はそのまま宿に泊まることになった。次の連絡船が寄港するのは二日後になるのだが、その便に乗ったとしてもアイリス経由でフレイノールを目指しているフィゼルとミリィよりは早く到着する。そういう計算も働いて、レヴィエンはルーと一緒に船を降りたのだった。











 ――コンコン


 その日の夜遅く、レヴィエンは自分の部屋を出て、同じ宿屋のとある部屋のドアをノックした。できるだけ小さくノックしたつもりだったが、誰もが寝静まった時間ではその音も大きく廊下に響く気がする。


 ややあって、ガチャリとドアが小さく開いた。中から一人の女が顔を覗かせる。


「やあ、夜這いに来たよ」


 レヴィエンは顔を出した女に微笑みかけた。


「……入って」


 少なくともレヴィエンよりはずっと年上だろうと思われる女は、それには応えずドアを人一人が辛うじて通れる程に開いてレヴィエンを部屋に招き入れた――


≪続く≫

ついにルーのお母さんの所在が明らかに!?

そしてレヴィエンが夜這いに行った女性とは?


次回は6/30(木)19:00更新予定です。

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