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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第6章 白銀の街と二つの“呪い”
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第38話

新章突入です。

 ――ゼラム大陸中央部“デモンズ・バレー”


 アレンは王都を脱出した後、ゼラム大陸を真っ直ぐ西に向かって歩いていた。傾きかけた陽を見上げながら、野宿できそうな場所を探している。


(この辺りは魔獣の気配が感じられませんね)


 高く切り立った崖に囲まれたこの一帯は、強力な魔獣が多く生息しており、連絡船が一般的でなかった時代にも普通の旅人が足を踏み入れるような場所ではなかった。だが距離にすればフレイノールへ向かう最短のルートなので、アレンは迂回することなくこの渓谷を進んでいる。


「ヒャーッヒャッヒャッヒャ!!」


 突然、辺り一帯に響き渡るような雄叫びが聞こえた。次の瞬間、その気配を感じ取ったアレンが横っ飛びでその場から離れる。


 さらに次の瞬間には、アレンが一瞬前にいた位置に何かが降ってきた。地面を揺らすような衝撃と轟音は、かなりの重量を持ったものがかなりの高さから落下してきたのだと思わせる。


 最初は魔獣が襲ってきたのかと思ったが、落下してきたのは人間だった。その姿をアレンが認識するやいなや、相手は特大の大剣をアレンに向かって振り下ろした。


「くっ……!」


 一撃目をバックステップで(かわ)したアレンだが、相手は瞬時に間合いを詰め、真横に大剣をなぎ払った。


 ガキンという金属音が響き、アレンが遥か後方に吹き飛ばされる。だがアレンは相手の剣が届く刹那、自分の刀を抜き放ち、相手の剣を受け止めると同時に衝撃を殺すために自ら後ろへ飛んでいた。


「フン、さすがにこの程度じゃ仕留められねーか」


 くるりと空中で態勢を整えて着地したアレンを見て、大剣を肩に担いだ男が笑った。身の丈ほどの大剣を軽々と扱うその身体は筋肉の鎧に覆われ、贅肉など欠片も見当たらない。


 アレンは間合いを保ったまま、相手の力量を量ろうとした。だが別の方面からの攻撃を察知し、またもや横っ飛びで躱す。そのすぐ傍を何か巨大な物が通り過ぎた。


「――っ!?」


 すぐに態勢を整えて、第二の襲撃者の姿を確かめたアレンの眼が驚愕に見開かれる。先程自分を襲ったのはムチのように払われた巨大な尻尾で、その主は巨大な爬虫類系の身体に巨大な翼を持つ魔獣――“ドラゴン”だった。


「不意打ちというのは黙ってやるものですよ、ガーランド」


 ドラゴンから人間の声がした。見るとドラゴンの背に男が一人乗っている。


「ハッハァ~! 本当にそんなんで死なれちゃつまんねーだろ?」


 後方から高笑いと共にもう大剣の男も近づいてきた。左右は高い岸壁に挟まれていて、逃げ場は無い。


「まったく、貴方という人は……」


 ドラゴンの背に乗っている男が呆れたように溜息をつく。大剣を担いだ男がまた笑った。


「そう言うなよ。俺様の鋭い勘のおかげで、こうやって極上の獲物にありつけたんだろ?」


「そうですね。まさかゼラム大陸最大の難所と言われるデモンズ・バレーを抜けようとする人間がいるとは思いませんでした」


 二人の口振りから、アレンを狙っていたのは間違いない。そしてこの二人は共に常人離れした実力を備えているということも感じ取った。


「フフフ、申し訳ありませんがこのまま二対一でやらせて頂きますよ。せめてもの礼儀として名乗っておきましょうか。ワイズマンNo.3“竜騎士”ヨシュア・ブランズウィックと申します」


 ドラゴンの上でヨシュアと名乗った男が手を胸に当てて頭を垂れた。


「同じくワイズマンNo.6“轟剣”のガーランド・ドボルザークだ」


 続いて後ろの男も名乗った。


「“ワイズマン”……それにナンバー……それが貴方達のコードネームですか。ご丁寧に二つ名まで用意しているとは……まるで賢者気取りですね」


 二人とも同じコードネームを名乗った。それは自分達の正体を明かすようなものだが、裏を返せば必ずここでアレンを始末できるという自信の表れでもあろう。


「フフ、これは手厳しい。まあ、さすがに“剣聖”の名には見劣りしますがね」


 やはりこの襲撃者達はアレンの正体を知っている。アレンは一年前に自分の命を狙ってきた者のことを思い出した。


「貴方達は一年前に私を襲った者の仲間ですか?」


 まさかここまで大きな組織だとは考えていなかった。もしこの二人がかつての襲撃者と同等の実力を持ち合わせているとしたら、さすがのアレンも簡単には退けられそうもない。


「フフフ、やはり“熾眼(しがん)”を消したのは貴方でしたか。彼も一人で先走るような真似をしなければ、後になってこんな面倒な事にならなかったのに」


「けっ、いけ好かねぇガキだったぜ。だがまあ、おかげであの剣聖とやれるんだから感謝しねえとな」


 仲間意識があるのかないのか、少なくとも一年前にアレンが撃退した少年の仇討ちというつもりは無いらしい。


「さあ、お喋りは終わりだぜ。せいぜい楽しませて――」


 ガーランドが肩に担いだ大剣を正面に構えようとした瞬間だった。


 ――キィン!


 ガーランドはアレンの動きを予測できなかった。アレンが戦闘態勢に入っていないと油断して間合いを詰め過ぎていたのだ。あと一瞬反応が遅れていれば、神速の抜き打ちに首を掻き斬られるところだった。


「うおっ!?」


 寸でのところでガーランドは大剣でアレンの刀を防いだが、アレンはガーランドに飛びかかった勢いをそのままに、剣同士がぶつかった点を軸に身体を回転させるとガーランドの背後に回り込んだ。


 ――キン! キン! カッ! キィン!


 目にも止まらぬ高速の斬撃をガーランドは何とか凌いだ。剣の重量差から見れば、圧倒的にアレンの斬撃は軽いはずである。だがガーランドは少しずつ押されていた。


「くそがぁ!」


 ずっと押されていたガーランドが、大剣を大きくなぎ払った。アレンはそれを後方にジャンプして躱す。


「やはり一人では難しそうですね。かねての予定通り二人がかりで片付けますよ」


「ちっ、やっぱ“特別製”を倒しただけのことはあるようだな」


 ガーランドが大剣を構え直し、ヨシュアの乗るドラゴンが大きく咆哮を上げた。いよいよ二人が本気でアレンを殺しにかかる。


「貴方達には色々と訊きたい事があるのですが、手加減はできそうにありませんね。“剣聖”の力がどれほどのものか、身をもって知りなさい」


 アレンも本気になった。身体中から噴き出すオーラは、フィゼル達には決して見せることのなかったものだ。眼に見えない圧力がドラゴンの咆哮以上に大気を震わせ、相手を威圧する。


「いいぜぇ、ゾクゾクするじゃねえか。戦いは命懸けだから楽しいんだ!」


 これから始まるであろう死闘に顔を紅潮させ、ガーランドが突っ込んでくる。今度はそのすぐ後にヨシュアの乗るドラゴンも援護するためについていた。


 見届ける者もいない渓谷で、人知を超えた戦いが始まった――


≪続く≫

久し振りにアレン登場でした。

そして敵の姿も徐々に見えてきましたね。

次回からは再びフィゼル達の話に戻ります。


次回は6/19(日)19:00更新予定です。

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