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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第5章 王都ルーベンダルクと地下水路に棲む魔物
38/94

第35話

レヴィエンの銃には筆者のロマンが詰まってます^^

「何、これ……? もしかしてこの銃って――」


 ミリィがその光景に何かを思い付いた瞬間、レヴィエンが引鉄を静かに絞った。


 ――ギュゥン!


 およそ銃声には似つかわしくない音が響き、レヴィエンの持つ銃が大きく上方に跳ね上げられる。その勢いでレヴィエン自身も態勢を崩し、たたらを踏んで後方に退いた。


 レーザー光線の様な残光を残しながら、弾き出された弾丸が愚者(フール)の胸元を表面の氷ごと貫く。


『オオオォォッ!』


 全身を覆っていた氷が砕け散り、化け物が苦しげに身を悶えさせていたかと思うと、すぐに塵となって消えてしまった。ちょうどそれまで化け物の胸があった高さだろうか、虚空になった空間から赤紫色の石が落下する。


「魔石……」


 ミリィが険しい目つきでその石を見下ろした。


「なんでまたこいつが……?」


 フィゼルも再び目にする石に言いようのない不吉さを感じた。魔石はそんなフィゼルの気持ちを表すかのように妖しく(きら)めいている。


「やれやれ、どうにか始末することができたようだね。この面子(めんつ)の時に遭遇したのは不幸中の幸いというやつか」


 レヴィエンが地面に転がった魔石を拾い上げ、無造作に上着のポケットに入れた。


「お、おい……その石、触っても平気なのか?」


 フィゼルは魔石が盗賊の一人をあの化け物に変えたところを目撃している。今度はレヴィエンが化け物になってしまわないかと心配した。


「フフン。この神に選ばれた美貌の持ち主であるボクがあのような醜悪の極致とも言うべき醜い化け物になんかなるわけがないじゃないか。だけどキミは触ってはいけないよ。キミぐらいの野性児なら、きっとあの化け物と近い存在だろうからね」


 半分はいつもの嫌味で、半分は本当なのだろう。少なくともレヴィエンはこの魔石の扱いは熟知しているとミリィは思った。ここは彼の言葉に従うより他ない。


「皆さぁん、大丈夫ですか~?」


 それまでずっと離れた所に避難していたルーが駆け寄って来た。


「俺達は大丈夫。ルーも怪我とかしてないか?」


 ルーは三人が無事な事を確認して安心し、フィゼルも化け物の急襲からルーを守れたことに安堵した。


「レヴィエン、あなたさっきの化け物のことを“愚者(フール)”って呼んでたわね? 一体奴らは何なの?」


 全員の無事を確かめた後、ミリィはレヴィエンに尋ねた。ミリィは魔石の存在は知っていても、それがあんな化け物を生み出す代物だとまでは知らなかったし、その化け物に名前まであるとは思わなかった。


「ノンノン、ボクのことは可愛く“レヴィ”と呼んでくれたまえ。まぁ、それはともかく、この件は話すと長くなるからねぇ」


 レヴィエンはミリィの質問に答えなかったが、ミリィもそれ以上深く追求しなかった。確かに気になることではあるが、いちいち追及していてはキリがない。魔石という物が危険であるということは知っていたわけだし、それが再確認されたに過ぎなかった。











「う~ん……やっぱり無いかなぁ」


 フィゼル達が王都の地下水路を進んでいた頃、グランドールのギルドではジュリアが古い資料の山をひっくり返しながら唸っていた。


「さすがに二十年前となるとなぁ……ん?」


 もうもうと撒き上がる埃に咳き込みながら、ジュリアはミリィに頼まれたように二十年前のアレンに関する資料を探していた。思っていた通り、やはりそこまで昔の事となると新聞の切り抜きくらいで、個人の情報などはなかなか見つからない。諦めかけていた時、資料の束から一枚の写真がひらりと舞い落ちた。


「あっ、これお母さんだ! へ~、お母さん若~い」


 色()せた写真の中央にはジュリアの母、アリアが四人の男女に囲まれるようにして写っていた。その姿はジュリアの知っている母よりずっと若く、それが随分昔に撮られたものであることを物語っている。


「古い写真ねぇ。あっ、これ二十年前の日付じゃない……って、アレンさん!?」


 写真の裏には日付と一緒に四人の名が記されていた。それがアリアと一緒に写っている四人の名前なのだろうが、その中にアレンの名があったのだ。


「本当だ。なんか雰囲気違うけど、この人アレンさんだ。なんで苗字が違うんだろ」


 写真にはアリアに頭を押さえられ、顔をしかめて笑う少年の頃のアレンが写っていた。しかし裏に記載されている名前は“アレン・ルーディスタイン”となっている。


「え~っと、他の二人の男が“ケニス・クーリッヒ”と“ディーン・グランバノア”ね。どっちがどっちか分かんないけど。で、こっちの美人が“リオナ・フォルナード”かぁ。あれ? フォルナードって確か――」


「おーい、いるかー?」


 不意にドアが開けられ、男が声をかけてきた。突然の事にジュリアがびくっと身体を強張らせる。


「びっ、びっくりしたぁ。なんだ、カイルじゃない。アンタが顔見せるなんて久しぶりね」


 ジュリアは突然の来訪者を親しげに迎えた。


「よう、おチビ。相変わらずアリアさんは不在か?」


 カイルと呼ばれた男も親しげにジュリアに笑いかけた。ジュリアの母、アリアのことも承知している。


「むっ、チビって言うなー。これでもアンタが最後に来た時よりも大分身長伸びたんだからね」


「そうか? 全然変わってないと思うけどな」


 カイルは笑いながらふくれっ面のジュリアの頭をポンポンと叩いた。歳は十以上離れているが、二人はまるで仲のいい兄妹のようだった。


「む~、もうアンタには仕事回してやんないからね」


 カイルもここに登録されたスイーパーである。槍の腕前はかなりのもので、ジュリアの知る中でも一、二を争う猛者(もさ)だった。


「はは、そうふくれるなって。ずっと追いかけてたホシをやっと捕まえたとこなんだ。何かいい“手配書”出てないか?」


 スイーパーの中には仕事の内容を絞って受ける者も多い。カイルもその一人で、主に指名手配犯や政府から非公式に依頼された凶悪犯罪者の逮捕を請け負っていた。


「ふーん、だ。知らない」


 ジュリアはわざとそっぽ向いて冷たく言った。実はこんなやり取りは二人にはいつもの事で、ジュリアはこの次のカイルの言葉を期待している。


「しょうがねぇなあ。ほら、今回の土産。“アイリス”で出たばっかりの新作だそうだ」


 溜息をつきながらカイルが懐から綺麗な髪留めを取り出した。繊細な作りだが、ジュリアぐらいの子供にも似合う可愛らしいデザインだ。


 カイルはこうやって頻繁にジュリアに土産を買ってくる。いつもからかってばかりだが、カイルはジュリアのことを妹のように可愛がっていた。ジュリアも付き合いの長いカイルを兄のように思っている。


「うわぁ、いいセンスしてるじゃない。といってもどうせ店員のお姉さんに選んでもらったものなんだろうけど。たまには自分で選んで買ってきてよね」


「俺が女モノなんて分るかよ」


「それもそうね。ちょっと待ってね。え~っと、ちょうどさっき届いたばっかりの手配書があったのよ」


 カイルから髪留めを笑顔で受け取り、ジュリアはついさっき届けられたまま隅に追いやった手配書を探し始めた。


「おっ、そいつはグッドタイミングだな。よし、これも何かの縁だ。今回はそいつにするぜ」


 カイルはそれを見もしないで決めた。単独で仕事をすることが多いカイルだが、腕には自信があったのでどんな相手でも後れを取るとは思っていない。


「あっ、あった。はい、これよ」


 ジュリアは見つけた手配書をそのままカイルに渡した。


「どれどれ……おお! こいつはすげぇや。国王暗殺未遂かよっ」


 多くの凶悪犯を追いかけてきたカイルでも、さすがに驚きの声を上げた。だがそれ以上に驚いたのはジュリアである。


「なんだよ、手配書見てないのかよ? しっかりしろよ情報屋」


 ジュリアが「えっ!?」と眼を丸くしたのを見て、カイルが呆れたように言った。


「うっ、うるさいわね~。今日はちょっと忙しかったから……それより、ちょっとそれ見せて」


 ジュリアがカイルの手からひったくるようにして手配書を取り上げた。そして素早く手配書の内容に眼を滑らせる。その顔が見る見るうちに驚愕に染まっていった。


「さすがにお前も驚いたか。こいつは俺の中でもピカイチの大物だぜ。絶対に捕まえてやるからなっ!」


 再び手配書をジュリアから奪い取ったカイルは、ジュリアが止める間もなくそのまま飛び出していった。


「一体どういうことなの……?」


 一人になったカウンターで、ジュリアは呆然と呟いた。国王暗殺未遂という事件そのものにも当然驚いたが、ジュリアが本当に驚愕した理由はその犯人とされている人間だった――


≪続く≫

また新しいキャラが登場しました。

そのうち登場人物紹介とか投稿したいと思ってます。


次回は6/14(火)19:00更新予定です。

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