表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第5章 王都ルーベンダルクと地下水路に棲む魔物
37/94

第34話

筆者はブティックなんてお洒落なお店に行ったことがないので、完全にイメージで書いてます^^;

そもそも『ブティック=お洒落』って発想がズレているのかもしれませんが……

「あらレヴィエンさん、お久しぶり。って、また違うコ連れて……」


 この店の主だろうか、30代ぐらいの女性が如才のない笑顔で四人を迎えた。ブティックの店主というだけあって化粧も服も随分派手だが、不思議とそれが嫌味ではなかった。


「やあマスター、ご機嫌よう。今日も美しいね」


「あらやだ。可愛い女の子連れておいて、こんなおばさん口説くの?」


 顔馴染みというだけあって、女店主はレヴィエンの性格をよく知っていた。来る度に連れている女性が違うのにも慣れている。


「今日はこちらのお嬢さんをコーディネートしてあげるのね? それとも、後ろのお二人かしら? あなたが女の子以外のお客さんを連れてくるなんて、明日は天変地異でも起こるのかしらね」


 女店主がフィゼルを見ながら笑った。フィゼルは何故か意味もなく赤くなって眼を逸らす。


「このコ達を可愛く着飾らせてあげたいのは山々なんだけど、残念ながら今日は別件でね」


 さっきと言っていることが違うと、フィゼルとミリィは思った。それまでうんざりした様子でレヴィエンを見ていた二人の目つきが急に変わる。


「ああ、また? あなたも懲りないわねぇ」


 ちょっと呆れたように笑うと、女店主は四人を店の奥へ案内した。慣れた足取りでレヴィエンが女店主に従い、それを戸惑いながらフィゼル達が追う。


 案内された先は店の裏口だった。扉を開けると、意外にも表の華やかさとは対照的な薄暗い路地裏に出る。


「驚いたでしょ? ここは表通りから完全に死角になっているものだから、レヴィエンさんったら、ちょっかい出した他の女の子やそのボーイフレンドから逃げるのによく利用するのよ」


 むしろそっちの話に驚きながら、フィゼルとミリィは顔を見合わせた。思った以上にとんでもない人生を送っているのだと、改めてレヴィエンに呆れてしまう。


「だけど、なんでこんなこと……?」


 ミリィの疑問は当然だった。服を買うなどと嘘を言ってまで自分達をこの店に引き入れて、店内を素通りして裏口から出ようなどと、明らかに何かから逃げているようだった。


「どうやらボク達は見張られているようだからね」


 裏通りを歩きながらレヴィエンは言った。当然ミリィもフィゼルも驚いたが、二人の驚き方には違いがある。


「もしかして、さっきの……?」


 フィゼルは先程のオープンカフェで何者かの視線を感じた。気配を感じたと思った瞬間にはそれは掻き消えていて、気のせいだと思ったのだが。


「その通りさ。ボクですらフィー吉が気付くまで分らなかったのだから、相手は相当の手練(てだれ)と見ていいだろう。いやはや、野性児の勘というのもたまには役に立つものだね」


 いちいち一言多いのよ、とミリィは思ったが、意外にもフィゼルは無反応だった。何か考え込むように俯き、黙々と歩いている。


 ミリィも何故フィゼルがそんなにも鋭く監視者の気配を感じ取れたのか疑問に思ったが、口に出さなかった。恐らくそれはフィゼル自身が一番分からないのだろう。ふと、地下水道へ続く隠し扉を探り当てた時のフィゼルの様子が思い浮かんだ。


「あの~、私達はぁ、どこへ向かってるんですかぁ?」


 状況を理解できていないルーがレヴィエンに訊いた。ルーにしてみれば、誰かに見張られているという事の意味すら分らないだろう。


「もうすぐさ。ほら、そこだよ」


 レヴィエンが指をさした先は昨日フィゼル達が地下水路から出てきた格子戸だった。レヴィエンが周りに監視者の気配がない事を慎重に確認してから、四人は格子戸を開け、地下水路に下りる階段を下りていった。


 何者かに監視されていて、それを(かわ)すために地下水路を通って王都を出るのだとフィゼルとミリィは思った。だが、そもそも監視されている理由も、相手の正体も全く不明だ。


 まず考えられるのは王国軍ということになるが、そんなことをするくらいなら釈放しなければいい話だろう。


「レヴィエン、あなた何か心当たりがあるんじゃ――って、どこへ向かってるの?」


 監視者の心当たりを問おうとしたミリィだったが、ある違和感に気が付いた。昨日通った道と違う気がするのだ。どこも同じような景色なため、初めのうちは気が付かなかったが。


「おい、王都を出るならこっちじゃないぞ」


 フィゼルも同じ事に気付いたようだ。レヴィエンに間違いを伝えるが、レヴィエンは「間違ってやしないさ」と気にも留めずに歩き続ける。フィゼルとミリィは(いぶか)しげな表情を浮かべながらも、その後に続いた。


「ねえ、さっきの話だけど、私達を見張っているのは王国軍なの?」


 それは考えにくいと思いながらも他に思い当る事がないので、ミリィはレヴィエンに確認してみた。


「う~ん、どうだろうねぇ。当たらずとも遠からずってところかな。正直言ってボクにも相手の正体がはっきり分かっているわけじゃない」


 レヴィエンの答えは曖昧なものであったが、少なくとも自分達を監視している人間について何らかの心当たりがあることは分かった。もしかしたら単にレヴィエンだけを見張っているのかもしれないともミリィは考えたが、どちらにしろレヴィエンと行動を共にしている限り、それは自分達全員の問題でもある。


「グランドールに着いたら、知っている事は全部話してもらうからね」


 今はあれこれ詮索するだけ時間の無駄だろうと思った。グランドールのギルドで情報を一から整理しないと、何がどうなっているのかミリィにも分からなかった。


「あっ、何か聞こえます~」


 突然ルーが立ち止まった。続いて他の三人も立ち止まってルーの方に顔を向ける。ルーは眼を閉じ、両手を耳の後ろに当てて耳を澄ませた。


「聞こえるって、何が?」


 フィゼル達には傍らを流れる水流の音しか聞こえない。


「何か来ますぅ!」


 ルーが叫び、とっさに三人は身構えた。レヴィエンは通路の前方に、フィゼルとミリィは後方に対して構え、真ん中に非戦闘員のルーを挟み込んでいる。


 だがそれが襲来したのは真横からだった。通路ではなく傍らを流れる水路から突然飛び出して来たのだ。レヴィエンが後ろに飛び退き、フィゼルとミリィはルーを庇うように抱えて同じ方向に飛んだ。すれすれのところを相手の攻撃が走り抜けたのをフィゼルは背中で感じた。


「なっ……何だこいつ!?」


 フィゼルが素早く反転して襲来者の姿を見た。その顔が驚愕に引きつる。


 襲ってきたのは人型の魔獣だった。形は人のそれに近いが、その姿は人間からはかけ離れている。二メートルを軽く超える全身は赤黒く、ごつごつしていて骨と皮だけで出来ているような化け物だ。その異様な姿に、フィゼルの記憶が素早く呼び起こされる。


「まさか……!」


 ミリィも驚愕に身を震わせる。フィゼルと同様に相手の姿に見覚えがあった。港町モーリスの西の廃坑で、“魔石”と呼ばれる石によって姿を変えられてしまった盗賊とよく似ているのだ。


「ミリィっ! 危ない!」


 化け物の容赦ない攻撃がミリィに襲いかかる。しかしミリィは一瞬反応が遅れてしまった。フィゼルは化け物とミリィとの間に身を滑り込ませて、抜き払った剣で化け物の鉤爪(かぎづめ)を受け止めた。


「うわぁ!」


 化け物の攻撃を受け止めたフィゼルだったが、勢いまでは殺しきれずにミリィもろとも弾き飛ばされてしまった。


「くそっ……なんて力だ。ミリィ、大丈夫?」


 モーリスの廃坑で戦った時はアレンと二人がかりで抑えることができたが、一人では完全に力負けしている。フィゼルは一緒に飛ばされて傍らに倒れ込んでいるミリィの安否を確かめた。


「私は大丈夫……。でも、なんでこんな所にアレが……」


 ミリィは頭を押さえながらよろよろと立ち上がった。倒れた時にぶつけてしまったのだろうかとフィゼルは心配したが、ミリィが手を振って大丈夫だと伝える。


 化け物は威嚇するように喉を鳴らすと、顔が歪むほどの悪臭をその口からまき散らかしながらゆっくりと間合いを詰めてきた。


「くっ……先生がいればこんな奴……!」


 モーリスの廃坑でこれと同じ化け物を撃退した時はアレンの力が大きかったのだと、今になって思い知らされた。一人ではとても抑えておくことができない。自分が前に立って相手の動きを止めなければ、ミリィが魔法を使う隙を作れないと分かっていた。


 十分間合いを詰めたと判断したのか、化け物が一気に飛びかかって来た。フィゼルはもう一度その攻撃を受け止めるべく、足を踏ん張って剣を正面に構えた。


 ――ガーン!


 その瞬間、爆裂音と共に何かがフィゼルの頬をかすめて化け物に直撃した。レヴィエンの放った銃弾だ。


 銃弾は化け物の左腕に命中し、その衝撃で化け物の飛びかかる勢いは削がれた。そのおかげで今度はフィゼルがしっかり化け物の鉤爪を受け止め、動きを抑えることに成功した。


 ――ガーン! ガーン! ガーン!


 続けざまにレヴィエンが後方から銃弾を浴びせかける。そのどれもがフィゼルのぎりぎり脇を通過して化け物の身体に命中した。


「さあ、一気に押し返すんだ! 不本意ながらボクが援護してあげるから光栄に思いたまえ!」


 色々と突っ込みたい事はあったが、フィゼルは態勢を崩した化け物に力の限り剣を叩きつけた。ガキンという音と共に、まるで岩に斬りつけているような衝撃が剣を持つ手に跳ね返ってくる。それでも化け物を一歩、二歩と後退させることに成功した。


「こっちの“愚者(フール)”は随分と頑丈なようだ。年代物はワインなら大歓迎なんだけどね」


 レヴィエンはこの化け物の名を呼んだ。モーリスの廃坑で始末したものとは違い、長い年月を経て強固になっているそうだ。


「フィゼル、離れて!」


 ミリィが魔法で作った冷気の矢を三本立て続けに浴びせかけた。矢の命中した部分が凍り付き、愚者(フール)と呼ばれた化け物の動きが徐々に鈍くなる。


「はああぁぁ!」


 フィゼルが化け物の動きを牽制し、ミリィが魔力の続く限り冷気の矢を撃ちかける。一発命中する度に確実に化け物の動きが鈍くなり、ついには完全に動きを停止させることに成功した。


「よぉっし、やったぁ!」


 フィゼルがガッツポーズで勝利の喜びを表したが、ミリィは肩で息をしながら首を振った。


「まだよ。動きは止めたけど殺してはいないわ。時間が経って氷が融ければまた動き出す。その前に何とか止めを刺さないと……」


 だがその方法が思いつかない。フィゼルの剣もレヴィエンの銃弾も化け物の固い表皮を貫くことはできなかった。ミリィの魔法も身体の表面を凍らせるだけで息の根を止めるまでには至らない。完全に手詰まりの状態に陥ってしまった。


「くそぉ、もう剣がボロボロだ」


 フィゼルの剣は岩のような身体に何度も叩きつけられて刃こぼれが酷くなっていた。これ以上無茶な使い方をすれば折れてしまうかもしれない。


「やれやれ、本当ならこれは使いたくなかったんだが……」


 レヴィエンが肩を竦めながらフィゼルとミリィの前に出た。凍って動かなくなった化け物のすぐ手前まで歩み寄り銃を構える。


「いくら至近距離から撃っても、この化け物には通用しないわ。下手に氷を砕いたら、それだけ早く解放されてしまうわよ」


 ミリィは経験上、銃という物の破壊力をある程度把握している。レヴィエンの持つ装飾銃は大型でかなりの破壊力を持っているが、先程の戦いから見ても化け物の頑強な肉体に通用するとは思えなかった。


「フフ……この銃はね、ちょっとした仕掛けがあるのさ」


 そう言うとレヴィエンは銃を構えたまま意識を集中させる。次第にレヴィエンの銃がうっすらと光り始めた。


≪続く≫

レヴィエンが何かしようかというところで次回へ続きます。

そして相変わらずフィゼルは主人公なのに目立った活躍しませんね^^;


次回は6/12(日)19:00更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ