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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第5章 王都ルーベンダルクと地下水路に棲む魔物
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第33話

レヴィエンから余計なセリフを抜いたら何も残らない気がしてきました……^^;

「まぁ何はともあれ、こうして再びお日様の下に出られたのは僥倖(ぎょうこう)だね。さあさあ、遠慮することはない。命の恩人に惜しみない感謝と称賛の意を表したまえ」


 大通りに面したオープンカフェで、四人はテーブルを囲んで軽い食事を取っていた。昼食にはまだ早い時間だったが昨夜からろくに食べていなかった為、フィゼルやルーはレヴィエンの言葉を無視するように運ばれてきたサンドイッチを頬張っている。


 辺りは暖かい日の光に満ちていた。たった一晩牢屋に入れられていただけなのに、何故か無性に太陽が恋しく思える。確かにこうして無事に解放されたのはレヴィエンのおかげではあるが、フィゼルはそれを素直に感謝する気になれなかった。


「一応お礼を言っておくわ。色々と不自然な事があるけど、助けられたのは事実だしね」


 ミリィもフィゼルと同じ気持ちだが、事実は事実として助けられた事には感謝しなければいけないと思っている。フィゼルよりは少々大人だった。


「あなた、最初からこうなることを予測してたわけ?」


 それは突拍子もない考えではあったが、それを思わせる材料はいくつもあった。色々とタイミングが良すぎるのだ。まるで初めから計画されていたかのように。


「フフフ、まさか。単にキミ達がラッキーだったというだけさ。このボクと運命で結ばれていることを神に感謝するといい」


 ミリィの疑問にレヴィエンは答えなかった。否定しているはずなのに、何故か肯定しているようにも聞こえる。


「悪いけど、私はあなた達の“神様”なんて信じてないの。感謝もしないし祈りもしないわ」


 それはレヴィエンの正体に迫る言葉だった。レヴィエンがその言葉に反応を示すように片眉を上げる。


「あなた、“教会”の人間ね。音楽家だなんて真っ赤な嘘」


 フィゼルが食事の手を止め、二人のやり取りを聞いている。“教会の人間”とはどういう意味だろうかとフィゼルは考えた。まず思い浮かぶのはモーリスの港町に会った小さな教会だ。


 教会という建物ならグランドールにもあったし、ここ王都にもあるだろうが、どうやらもっと大きな意味であるようだ。


「さすがに気付いたようだね。でもひとつ言っておくけど、僕は僧侶ではないよ」


 今度はミリィの問いを否定しなかった。さらに、自分の特異な立場も匂わせている。


「なあ、“教会”って何だ?」


 それがどうやら大きなカギを握っているらしいとフィゼルは感じた。ミリィがそれを気にしているということは、もしかしたらアレンにも関係するかもしれない。


 だがミリィはフィゼルの問いに答えなかった。何か言いにくそうな感じで口籠(くちごも)っている。


「やれやれ、フィー吉は“教会”の何たるかも知らないのかい? 呆れ果てたど田舎者だね」


 またもやレヴィエンが余計な口を挟む。内心イラつきながらも、知らないものは知らないのだから仕方なく黙っていた。


「“教会”というのはぁ、多分“フューレイン教会”の事だと思いますよぉ。フューレイン教はぁ、この世界で一番信仰されている宗教でぇ、あちこちの街に教会が建ってます~」


 意外にもフィゼルに説明してくれたのはルーだった。いつもだったら、フィゼルが知らない事があるとすぐにミリィが説明してくれたのに、今回は何故か口を(つぐ)んでいる。


「ルー君は物知りだねぇ。フィー吉も彼女の爪の垢でも煎じて飲んだらどうだい?」


 フィゼルが記憶喪失だということを知らないレヴィエンは、心底フィゼルを世の中の事を何も知らない田舎者と見下している。フィゼルの方も、こんな男に説明する必要はないと思って何も言い返さなかった。


「あなた、アレンさんの行方を知っているわね?」


 再びミリィが何の前触れもなく核心を突く言葉を放った。話の展開についていけないフィゼルが「えっ?」と驚きの声を上げる。


「ほう、何故そう思うんだい?」


 レヴィエンは否定も肯定もしなかった。ミリィがどんどん真相に迫っていくのを楽しむかのように先を促す。


「別に、ただの勘よ。だけど、いつものようなごまかしは通用しないわよ」


 本当はいくつか根拠があった。だがそれをいちいち説明するのが面倒だっただけだ。本当に知りたいのはアレンの行方だけだった。


 レヴィエンは“魔石”の存在を知っていた。本来、ごく一部の限られた人間しか知りえない事であるが、“教会”の人間――とりわけ特殊な地位にいる人間ならばそれも頷ける。アレンもまた魔石の存在を知っていたが、これもアレンが“剣聖”と呼ばれた賢者であるならば当然のことだ。


 この二人はどうやら何か通じ合っていたようだとミリィは思った。それはモーリスの港町から出港する連絡船の中のやり取りでも(うかが)える。


 ならば、今回のアレンの一連の行動、並びに現在のアレンの行方についても心当たりがあるのではと半ばカマをかけたのである。


「いやはや、参ったね。確かにボクはアーリィの行方に心当たりがある」


 ミリィの射抜くような視線に、ついにレヴィエンが真相を漏らした。フィゼルも次の言葉に注視している。


「だけど、今更ボクが言うまでもないんじゃないかな。キミも薄々感付いているはずだよ」


 フィゼルの視線が今度はミリィに向けられた。この二人が自分の理解できないところで通じ合っているのが気に入らないが、今はそれにこだわっている場合ではない。


「……やっぱりアレンさんは……」


 ミリィが眼を閉じて大きく溜息をつく。予想はしていたが、できればその予想は外れてほしかったのだ。


「なぁ、一体先生は何処へ行ったんだよ?」


 ミリィがそれ以上何も言わなかったので、フィゼルが堪えかねて訊いた。フィゼルには全く話の流れが見えてこない。


「……“フレイノール”よ。アレンさんは多分、陸路でフレイノールに向かったんだと思う」


 古の都フレイノール――それはかつてこの世界にあった大国の首都だった。二十年前の大戦で国が滅んだ現在はイルファス領となっているが、広大なゼラム大陸の西端に位置し、なかなかイルファス王国の支配が届きにくい地でもある。その都市を基盤に、イルファス王国もうかつに手の出せない勢力に発展しているのが“フューレイン教”である。


「じゃあ先生はそのフューレイン教会に助けを求めたってことか」


 フィゼルには少々意外だった。いくら王国軍に追われたからといって、その対抗勢力に逃げ込むというのは、フィゼルの持っているアレンのイメージではなかった。


「詳しい事はグランドールに帰ってから話すわ。私にもはっきりしたことは分からないもの」


 アレンがフレイノールへ向かったという予想には根拠がある。だがそこに至るまでの過程で不透明な事が多々あった。それらをはっきりさせるために、ジュリアの情報を当てにしたのだ。


「うーん……よく分かんないけど、そうと決まれば早速出発――」


 言いかけて、突然フィゼルは辺りを見回した。


「どうしたんですかぁ?」


 ルーだけでなく、その場にいた誰もがフィゼルの行動を(いぶか)しがった。


「いや、気のせいか……」


 フィゼルが首を傾げながら呟いた。


「さて、じゃあ本当に出発しようじゃないか」


 不意にレヴィエンが立ち上がった。いつもならここで必ずフィゼルの神経を逆撫でするような嫌味を言うはずだが、今回は何も言わなかった。


「……って、お前も一緒に来るのかよっ!」


 フィゼルが心底嫌そうな顔をするのを、意外にもミリィが取り成した。ミリィにしてもレヴィエンの事が嫌いなのは変わらないが、この男の持つ情報はミリィにとって必要なものだ。


「フフン。ようやくミリィ君もボクの魅力に気付いたんだね」


 また馬鹿みたいな事を言いだすレヴィエンだが、いつもより言葉少なめだ。先程のミリィの脅しが随分と(こた)えたと見える。ミリィが一睨みするとすぐに口を(つぐ)んだ。


「そういえばぁ、皆さん城門の方に向ってますけどぉ、戒厳令はどうなったんですかぁ?」


 ルーが大通りをぞろぞろと城門に向かって歩いて行く人々を見ながら言った。


「どうやら戒厳令は解除されたようだね。まあ、格好の犯人役も見つかったことだし、市民が騒ぎ出す前にさっさと解除した方が上策というものさ」


 レヴィエンは我先に城門へ向かったり、馬車乗り場に大挙して押し寄せる群衆を鼻で笑った。この中にあの手配書に疑問を持った人間が果たして居るだろうか。誰もが王国軍の掌の上で踊らされている事に気付いていないとレヴィエンは思った。


「これじゃ、街道は大混乱ね。私達も急いでグランドールに帰りたいところだけど……」


 この様子では馬車には乗れそうもない。かといって歩いて街道を戻るのも難しそうだ。


「仕方ないねぇ。じゃあ、ここはひとまず――」


 そう言いながらレヴィエンは三人をある建物へと導いた。その垢抜けた外観は、いかにも都会的でお洒落な店だと思わせる。


「こんな所に連れて来てどうするつもり?」


 ミリィは看板を見上げた。この店の名が描かれているが、何の店かまではよく分からない。大きなウィンドウもなく、外からは店内の様子がよく見えなかった。


「ここはボクが王都に来た際によく利用するブティックさ。あまり大きな店ではないが、なかなかセンスのいい品揃えでね」


 呆気にとられるフィゼル達をよそに、レヴィエンは扉に手をかけた。それを慌ててミリィが呼び止める。


「ちょ、ちょっとこんな時に何考えてるのよ!」


「あんな埃っぽい所にいたから、服を新調しようと思ってね。そうだ、キミ達にもボクがお似合いの服を選んであげようじゃないか。ルー君みたいな質素な装いも素敵だけど、キミの魅力をボクがもっと引き出してあげよう」


 ミリィの抗議を無視して、レヴィエンがルーの手を引いて店の中に入っていく。レヴィエン一人ならこのまま放っておいても良かったが、ルーを連れていかれては付き合う他なかった。


≪続く≫

次回は少し戦闘シーンが出てくると思います。

フィゼルが活躍するかは不明ですが……(笑)


次回は6/11(土)19:00更新予定です。

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