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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第5章 王都ルーベンダルクと地下水路に棲む魔物
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第27話

ここから王都編に突入です。

 カンテラの明かりを頼りに真っ暗な階段を慎重に下りていく。するとすぐに水の流れる音が耳に届いてきた。


「ここは……地下水路?」


 階段を下りた先には広大な空間に水流が幾筋も複雑に流れていた。水の流れに沿うように決して広くはない通路が作られている。間違いなく王都の地下を流れる地下水路だった。


「あの隠し扉は地下水路の秘密の入り口だったのか。ってことは、この水路から王都の中に入れるんだよな」


 カンテラの明かりを吹き消しながらフィゼルが言った。この水路はメンテナンスの為か、壁に等間隔で明かりが設置されている。更に足下を照らす明かりまで備えてあった。


「もしかしたらここは緊急時のための避難路だったのかもね」


 予想していたものより随分と平和的なオチだとミリィは思ったが、ふとグランドールのギルドで受けた依頼を思い出した。


「そういえば、ここに魔獣がいるかもしれないんだよな」


 フィゼルも同じことを考えていた。確かジュリアの話では、王都の住人が何か獣の唸り声の様なものを聞いたり、魔獣の様な影を見たらしい。


 耳を澄ませてみるが今のところ聞こえてくるのは傍らを流れる水の音だけだ。魔獣どころか三人以外に動く者の気配すら感じられない。


「今は特に気になるところは無いわね。こちらにはルーもいることだし、まずは街に入ることを優先しましょう」


 ミリィの提案にフィゼルも同意した。地上はもう完全に陽が沈んでしまっているはずである。ルーを連れて地下水路を探索している余裕は無かった。


 三人は街の中心の方角へ歩いていった。当然道順などは分からないが、とりあえず方角さえ合わせておけば街中には出られるはずである。三人の足音が水音に混じってカツンカツンと地下空間に響いた。


「それにしても広いなぁ。やっぱり王都もグランドールみたいに大きいのかな」


 この水路が王都の地下に造られたとあって、この地下水路の広さで地上の王都ルーベンダルクの規模も容易に想像できようというものだ。フィゼルは天井を眺めながら、まだ見ぬ地上の光景に思いを馳せた。


「そりゃあ今じゃ名実共に世界の中枢を担っている都市だもの。街の中央に王城があって、その周りを囲むように発展した街並みはグランドールとはまた一味違った凄味があるわ」


 ミリィの言葉にフィゼルは眼を輝かせた。


「フィゼルさんはぁ、王都は初めてですか~?」


 ルーの質問にフィゼルは「まぁね……」と曖昧に答えた。初めてかもしれないし違うかもしれない。もし初めてではなかったら、記憶が少しでも蘇るのではという期待もあった。


 それからまたしばらく歩いていると、ふとフィゼルの眼に異様なものが映った。通路を脇に逸れた突き当りに、いかにも頑丈そうな鉄製の扉が設置されている。周りの単調な景色とはあまりにも調和の取れていないその扉は、ちょっとやそっとの衝撃ではびくともしない堅固さを備えているようだった。


「なんだろう、この扉……」


 そのまま通り過ぎても良かったのだが、何故か無視できないものをその扉に感じた三人は扉の前までやってきた。


「かなり頑丈に造られてるわね。どの位の厚みがあるかすら分らないわ」


 叩いてみても全く音が響かない。鍵穴等は見当たらなかったが、別に施錠などされていなくても人の手で動かせるような重さではないだろう。


「この向こうにはぁ、何があるんでしょうかぁ?」


 当然の疑問だったが、それを確認する術は無かった。ただ厭な予感だけはこの扉からひしひしと感じる。


「考えても仕方ないわね。先を急ぎましょう」


 異様な鉄扉に後ろ髪を引かれる思いでミリィは踵を返した。ルーがそれに続き、続いてフィゼルがその場を後にしようとした時、足元で何かがきらりと光った。


「あれ、これ何だろう?」


 それは通路の隅にぽつんと落ちていた。拾い上げると、金色のメッキを施されたボタンだった。


「これ、先生のボタンだっ!」


 フィゼルの声にミリィとルーが足を止めて振り向いた。拾ったボタンを掲げながらフィゼルが二人に走り寄る。


「本当にアレンさんの物なの?」


 どこにでもありそうな、ありふれたボタンだった。きれいな表面を見れば最近落とされたものであることは推測できるが、だからといってそれがすぐにアレンの物であるとは断定できない。


「先生の袖に付いているボタンにそっくりだよ!」


 ミリィもアレンの着ていた服を思い出してみた。黒を基調とした服の袖には確かにこのような金色のボタンが付いていた気がする。


「もしそれがアレンさんのだとしたら、どうしてこんな所に落ちてたのかしら」


 それはアレンがここに居たということを示しているのだが、ではなぜアレンはここに居たのだろうか。


「やっぱり先生も俺達と同じようにこの水路から王都に入ったんだ」


 そう考えるのが自然であるし、ミリィもそれについて異論は無かった。問題はアレンがこの扉の向こうに行ったかどうかである。少なくとも三人にはこの扉を開けて奥に進むことはできなかった。


「またぁ、フィゼルさんの力で開けられませんかぁ?」


 先程の隠し扉のように何か仕掛けがあるのではないかとルーは考えた。確かに人の力ではびくともしそうにない扉である。何らかのからくりで開閉することは十分考えられた。


「うーん……」


 岸壁の隠し扉を発見した時のようにフィゼルが扉の表面を撫でてみたが、今回は何も感じられない。それでも何かを感じようと意識を集中し始めた。


「やめましょう。今は時間が無いわ」


 今は街に出ることの方が先決だとミリィが言う。「それもそうだな」とフィゼルも同意し、ひとまずこの扉の事は保留とした。


 それは間違いなく本心から出た言葉だった。しかし本当にそれだけだったろうかとミリィは再開した歩みの中で自問した。何か厭な予感が胸を過ったような気がする。きっとあの扉の持つ雰囲気がそう思わせたのだと自分で自分を無理に納得させようとするが、どうしても捨てきれない(わだかま)りがミリィの心をざわつかせていた。


 それからどれほど歩いたろう。時間にしても距離にしてもそれほど歩いたわけではないのに、どこまでも続く単調な景色と相変わらずの水流の音が三人に感覚を麻痺させてしまったかのようにとても長い行程に思われた。


「「「あっ」」」


しかし何の前触れもなく、地上へと上がる階段が三人の前に姿を現した。もちろん奥にも通路はまだまだ続いているが、上へ上がる階段が見つかればその先に用は無い。三人は一刻も早く地上に出たい一心で階段を駆け上がった。


 階段を上がりきった所に格子状の扉があった。その先はもう外の世界である。その数段下で三人は慎重に様子を窺い、人の気配がないことを確認して階段を上がりきり、扉に手をかけた。鍵が掛かっていたらどうしようかと心配したが、意外にも施錠はされておらず、キィッという軋んだ音を立てながら扉は開いた。反対側から扉を見ると、「立ち入り禁止!」という札がかかっていたが、鍵は壊れているようだ。


「やったぁ。やっと辿り着いたんだ」


 フィゼルが押し殺した叫び声をあげて両手を高々と突き上げた。本当は腹の底から歓喜の叫びをあげたい気分だった。


「随分静かですね~」


 ルーは辺りを見回したが、街はひっそりと静まり返っていて人影も無かった。


「確かにもう遅い時間だけど、誰もいないのは妙ね……」


 ミリィも同じように見回しながら、人の姿の消えた街の景色に寒気すら覚えた。建物から漏れる明かりがなければ、ゴーストタウンと見紛うほど街は静かだ。


 三人は宿に向かって歩き出した。ルーは地元ということもあって王都には慣れていたし、ミリィも何度も訪れていたので土地勘があった。ここから歩いて数分の所に宿があるらしい。


 戒厳令が発令されて二日目の夜に、いきなり泊めてほしいと言えば怪しまれるだろうが、その時はその時だと思った。とにかく今は一刻も早く暖かいベッドに潜り込みたい気分だ。


「おいっ! お前達何をしている!?」


 ちょうど宿の扉に手をかけようとした時だった。突然後ろから声をかけられて、フィゼル達三人はびくっと身体を強張らせた。三人が振り向くと、警邏(けいら)中であろう憲兵が二人、こちらに小走りで駆け寄ってくるのが見えた。


≪続く≫

フィゼル達三人が目にしたのは、間違いなくアレンがレヴィエンと遭遇した扉と同じものです。

果たして、アレンとレヴィエンはどこへ行ったのでしょうか……?

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