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Sage Saga ~セイジ・サーガ~  作者: Eolia
第4章 天真爛漫天然娘
28/94

第25話

何か、作者のルーに対する愛が溢れ出ているかもしれません(笑)

レヴィエンとルーは書いてて楽しい^^

「ここがぁ、ルーの村です~」


 グリフォンに遭遇した地点からしばらく歩いて、ルーの明るい声が上がった。その言葉とほぼ同時に目の前が開け、フィゼルとミリィの眼にも長閑(のどか)な村の風景が確認された。果物の甘い香りが風に乗って鼻孔をくすぐる。


 大きさはちょうどコニス村と同じくらいだろうか。村全体を包み込む穏やかな雰囲気までそっくりで、思わずフィゼルは懐かしさに目を細めた。


「ルーのお家にぃ、来て下さぁい。おいしいハーブティーがあるんですよ~♪」


 相変わらず間延びした声でルーが二人を自分の家に招こうとしたが、ミリィはそれを断った。


「ごめんね、私達急いでるから。村長さんの家を教えてもらえるかしら?」


「ああ~、ルーのお家でしたらぁ、この先です~」


「いや、だから……ルーの家には行けないんだよ。早く村長さんに会いたいんだ」


「でもぉ、おじいちゃんはぁ、お家にいると思いますよ~」


 いまいち会話がかみ合わない。しばらく沈黙が流れ、フィゼルが「あっ」と声を上げた。


「もしかして、この村の村長ってルーのおじいさんなの?」


「そうですよ~。ルーのおじいちゃんはぁ、村長さんです~」


 たったそれだけの情報交換に、一体どれほどの時間を費やしたのだろう。ルーに悪気がないのは重々承知だが、思わずミリィは苦笑いした。


 意気揚々と二人の前を歩くルーに案内されて、フィゼルとミリィは村の中央付近に建つ家を訪ねた。


「おじいちゃん、ただいま~!」


 ルーが元気よく玄関の扉を開ける。家の中に声をかけると、一人の老爺が不思議そうな顔で出迎えた。


「おや、忘れ物かい?」


「王都へはぁ、行けませんでした~」


「どうかしたのかい? それに、その人達は?」


 老爺は王都へ行ったはずのルーが早々に帰ってきたことを(いぶか)しみ、さらにその後ろに立つフィゼルとミリィの二人に気付き首を傾げた。


「この人達はぁ、ルーを助けてくれたんです~」


 ルーが二人を紹介すると、老爺は二人の眼を交互にじっと見た。その眼差しにフィゼルは思わずたじろいだが、すぐに老爺は笑顔になった。


「そうかそうか、まあ立ち話もなんじゃ。上がりなされ。詳しい話を聞こう」


 このシルヴィス村で村長を務めるドルガという老爺は、二人が自分に何か用件があってここへ来たのだと察した。そして、怪しい人物ではなさそうだということも同時に判断していた。











「なんとっ……グリフォンが……!」


 二人がルーと出会った経緯を説明すると、ドルガは眼を見開いて言葉を震わせた。


 戒厳令により王都が立ち入り禁止になった事にも驚いたが、ルーが魔獣に襲われそうになった事、そして何よりグリフォンという魔獣がこの山に棲みついていたという事実に、ドルガは驚愕の色を隠せなかった。


 最近魔獣の数が増えてきているという印象は持っていたが、昼間に人が襲われたのは初めてだった。その上、グリフォンの存在は村の存続すらも脅かしかねない事実だ。


「恐らく私達が遭遇したグリフォンは、群れからはぐれてこの山に流れついたんだと思います。ですが念の為ギルドに依頼して山の捜索をしてもらうことをお勧めします」


 ミリィの提案にドルガは頷いた。改めてルーを助けてくれたことに礼を言ったドルガは、フィゼル達がこの村を訪れた理由を尋ねた。


「この村は昔、山で切り採った材木を特別なルートで王都へ運んでいたと聞きました」


 それを教えてほしいとミリィは頼んだ。それを聞いたドルガは眼を閉じてしばらく考えていたが、おもむろに眼を開くと、再びフィゼルとミリィの眼をじっと見つめた。


「確かにこの村からは王都まで材木を運び込んでいた林道が延びておる。随分前に閉鎖してから使っておらんから、どうなっておるかは分らんがな」


「やったぁ!」


 ドルガが林道の存在を肯定したことで、フィゼルはもうその道を教えてもらえると思った。だがドルガはなかなか次の言葉を発しようとしない。


「お前さん方はさっき王都へは戒厳令によって立ち入ることができないと言ったな。それなのに林道など調べてどうするつもりじゃ?」


 どうするも何も、王都へ向かうに決まっている。そんなことは承知の上だが、わざとドルガはそんな訊き方をした。二人の反応を見定めるためだ。


 ミリィは迷った。ドルガが自分達を試していると理解したからだ。この場合、ただ正直に話せばいいというものではない。


「俺達は王都へ行く。どうしても行かなきゃいけないんだ」


 しかしフィゼルは馬鹿正直なほど真っ直ぐに言い放った。ミリィが思わずフィゼルの方に顔を向ける。危うく「馬鹿っ!」と叫ぶところだった。


「ほっほっほ、正直な物言いじゃな。王都の立ち入りが禁止されておる中、それを知った上でわしが林道を教えれば、当然ワシはお前さん達の共犯ということになるのぅ」


 ミリィは頭を抱えたくなった。予想した通りの展開で自分達が窮地に陥ったと思ったのだ。


「大切な人が危ないかもしれないんだ。村長さんに迷惑はかけない」


 フィゼルはあくまでも真っ直ぐに自分の気持ちを吐露した。フィゼルも相手が自分達を試そうとしていることは分かっていたが、こんな田舎とはいえ一つの村を治める長老に駆け引きで敵うわけがない。それならいっそ嘘偽りのない思いを訴えた方が遙かにマシだと判断したのだ。


 ドルガは静かに頷いた。しばらく考え込むように瞑目すると、やがて顔を上げ、満足そうな笑みをフィゼルに向けた。


「お前さんの気持ちはよう分かった。元々ルーの恩人でもあるしな」


 それを取引の材料として使わなかったことに、ドルガは好感を持った。そしてこちらの意図を汲みながら敢えて直球勝負に出た潔さに、この二人なら信用してもよさそうだと判断したのだ。











 ドルガに直接案内されて、フィゼルとミリィは隠し林道の入り口にさしかかった。うっそうと茂る山林の中に突如姿を見せるその道は、元々はしっかりと人の足で踏み固められていたのであろうが、長年放置されてきたため、草が生い茂りはっきりとした輪郭は失われていた。他の場所に比べて規則正しく切り分けられていることに注視しなければ、ここがどこかへ意図的に繋げられた道であるという事は気付かないだろう。


「この道を真っ直ぐに辿っていけば、やがて王都の裏手に出られるじゃろう。今からなら完全に陽が落ちる前には抜けられるはずじゃ」


 前方を指差しながらドルガが言った。その傍らにルーが付き添っている。


「ありがとう、村長さん」


 陽は高く上がり、昼近い刻限であることを示している。ドルガは先を急ぐ二人の為に途中で食べられるようにと簡単な弁当を持たせてくれた。


「礼には及ばんよ。気を付けて行きなされ」


 それだけ言ってドルガは踵を返したが、一歩二歩と歩き始めたところで異変に気付いた。再び振り返ると、ルーがその場から動かずに何か言いたげな表情をしている。


「どうしたの、ルー?」


 意外な程に思いつめたような表情のルーにフィゼルが問いかけた。出会ってまだ間もないけれど、この長閑な村が育んできたことを思わせる天真爛漫ぶりは強烈にフィゼルの印象に残っている。


「あのぉ……お願いがあるんです~」


 間延びした口調は相変わらずだが、その響きに今までとは違うものを感じた。


「一緒にぃ、連れて行ってくれませんかぁ?」


 独特のテンポで発せられた言葉の意味を皆が理解するのに一拍の間があった。


「一緒にって……まさか王都へ?」


 フィゼルはルーと出会った時の事を思い出した。確かにルーは王都へ向かって下山している途中だった。だがあまりにも突拍子もない話だ。ちょっとお使いに行くのとは訳が違う。政府の発した戒厳令に逆らっての侵入を企てているのだ。


「ルー、お前……」


 何かを言いかけたドルガだったが、複雑な表情を浮かべたまま考え込むように押し黙った。


「おじいちゃん……ごめんなさい。でも……」


 二人の間には何か事情がありそうだとミリィは感じた。だがルーの申し出を聞き入れるつもりはなかったし、ドルガも承知するはずがないと考えた。普通に考えれば至極当然のことである。


「そうか……それほどまでに思っておるなら、わしは何も言うまい。お前の好きにせよ」


 しばらく考えに落ちていたドルガが発した言葉はミリィの度肝を抜くものだった。


「ありがとう、おじいちゃん! でもルーはぁ、おじいちゃんのこと……」


「皆まで言わずともよい。お前の気持ちはちゃんと分かっておるよ」


 そう言って微笑みかけたドルガは再び元の位置まで戻ってきた。


「わしからも頼む。この子の我儘を聞いてやってはもらえぬか」


 てっきり止めるものと思っていたドルガがルーと一緒に頭を下げたことで、ミリィは困惑してしまった。どれだけ頼み込まれても応じられる相談ではない。足手纏いもさることながら、何よりも危険過ぎる。それが分らないはずはないのに、ドルガは大事な孫娘をついさっき見知ったばかりの少年達に託そうとしていた。


「分ったよ、一緒に行こう」


 しかしミリィの困惑を無視するように、またフィゼルが独断でそれに応じた。


「ちょっと、正気なのっ!? そんな事できるわけがないじゃないっ!」


 フィゼルの勝手な発言に、ミリィはつい本音を叫んでしまった。それを聞いたルーの表情が曇る。だがフィゼルの眼差しには強い決意が込められていた。


「ミリィが言うことももっともだと思う。でも俺は目の前の困っている人を放ったらかしにして自分の事だけ考えるなんてできない。ルーの身が危険だって言うなら俺達でちゃんと守ってやればいいじゃないか」


 それがどんなに困難なことかフィゼル自身も分かっているつもりだ。ただ、このままルーを残して王都に無事侵入することができたとして、さらにアレンに会えたとして、アレンは何と言うだろうか。


 困っている人を助けようともしなかった自分を叱るだろうか。それともルーを連れて行った方が他人を危険に巻き込んだとして怒るだろうか。


 答えは分からなかった。だから自分が正しいと思う事をやろうとフィゼルは思った。きっと先生もそれを望んでいるはずだと。


「まったく……簡単に言ってくれるわね」


 呆れ顔で言ったミリィだが、その表情はどこか優しげでもあった。


「いいわ。ルーも連れて行ってあげましょう」


 突然のミリィの譲歩に、もう半ば諦めかけていたルーの表情がぱぁっと明るくなった。


「ありがとうございますぅ!」


「ひゃっ! わ、分かったから離れて……!」


 涙を浮かべながらルーはミリィに抱きついた。それを慌てて引き剥がそうとするミリィを見ながら、フィゼルとドルガは声を上げて笑った。


≪続く≫

多少強引な展開でしたが、いよいよ三人で王都に向かって出発です!

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